予定していたロケ地が撮影一か月前という直前でだめになって。
撮影を延期するかどうかギリギリのスケジュールの中。
ふくらはぎが悲鳴を上げても、自転車をこぎ続けた。
蔦の絡まるトタンで出来た廃工場を見つけた時、ため息が出た。
管理されている不動産に直接交渉をして。
その工場の持ち主が、誰でも知っているような大企業だと知った時、なぜ諦めなかったのだろう?
大企業に直接電話してアポイントを取って、キリキリする中、資料を作成して直接お願いに伺った。
あの工場は、もう20年以上も誰も立ち入ることがない場所だった。
防災上にも、管理を続けなくてはいけないという意味でも、取り壊しを検討している場所だった。
面会してくださったご担当者様が、許可が下りるかはわからないけれど、やってみましょうと言ってくださった。
総務部の許可、法務部の審査、大きな大きな企業体に、おいらのようなものが正面から向き合うことになった。
ご担当者様にアドヴァイスを頂きながら、必要な書類を作成して、答えを待った。
その土地に初めて一歩踏み入れた時、既に映像が思い浮かんだ。
20年前に貼られたポスターがそのまま貼ったままになっていた。
工場のラインがそのまま残っていた。
大量の伝票が段ボール箱に詰め込まれていた。
錆びついたシャッターを20年ぶりに開けた時、20年前の空気が初めて霧散した。
いつか忍び込んだ小動物の足跡が、すでに埃で埋まっていた。
元々の建物の外装を生かしながら、自分たちで撮影の準備をしていった。
楽屋にする部屋を掃除して、転がっている栗を拾って、ぶら下がっている電線をたくし上げていった。
土地の神様にお祈りして、電気を準備して、水道を準備して、仮設トイレを設置して、バラック小屋を建てていった。
設営に準備していた1週間というスケジュールをはるかに上回って、数日でセットを組み上げた。
皆で食べたBBQは忘れることが出来ない。
通える距離の都内、駐車場もある。インフラも整っている。移動なしで撮影ができる。
こんな好条件のロケ地が見つかるなんて、奇跡だ。
それも全て、好意からだった。
スタッフさんに、この土地を見つけたことを絶賛された。
組みあがったセットに一人残って。
まるでさっきまでパンパンたちが客をとっていたような居間に寝転んだ。
ランプの灯の中、シナリオを開いていた。
どこかで小動物が草を分けながら歩く音がした。
ランプを持って、帰ったはずの役者が二人、自分たちも練習したいと戻ってきた。
オレンジのランプの光の中、幻のような風景がそこに浮かんでた。
娼婦らしさってなんだろうね?なんて、話をした。
全ての撮影が終わって、セットがなくなった時。
まるで夢から醒めたようだった。
おいらたちは、掃除を始めた。
弱っている壁は補強をして、小動物が入ってこれないように穴をふさいでいった。
また人が来るのは何年後になるのかもわからなかったけれど掃除をしたかった。
土地の神様に感謝して、おいらたちは、あの場所を去った。
完成披露試写会のお知らせを、席数などの確認が整ったのでようやくご担当者様に送った。
そのやり取りで、あの場所が今年の初めに工事が入って、更地になっていると知った。
セブンガールズはあの場所の貴重な映像資料でもあるんです。とまで言ってくださった。
お借りした時点で取り壊しの検討をされていて。
終わった時のご報告の際も、取り壊しの予定が進んでいると聞いてはいたけれど。
ある意味で、セブンガールズの撮影が入ったことは、取り壊し計画を一歩進めたのかもしれなかった。
防災上のことを考えたら、いつまでもそのままにしておくことは難しかったはずだ。
もうあの場所はどこにもない。
あの濃密な2週間を過ごしたおいらたちの記憶と、スクリーンの中にしか残っていない。
聖地巡礼なんて出来ない。
坂道を自転車で登り切って辿り着いた蔦の絡まったトタンの壁はそこにはない。
奇跡だったんだ。
あんな場所が今まで残っていた事。
セブンガールズを待っていてくれたとしか思えない。
取り壊されずに20年以上もそこでただただ待っていてくれたんだ。
なくなってしまうことは、もう決まっていた事だったんだから。
忘れるものか。
目をつぶれば、どこに何があったかすぐに思い浮かぶ。
あの空気も、あの匂いも、あの小動物の足跡さえ、思い出せる。
この映画は奇跡だよ。
奇跡の映画だ。
一体、いくつの軌跡が重なって出来上がったんだろう?
だから、きっと、もう一度奇跡を起こそう。
ご担当者様から、大ヒットを願っているという一文を頂いた。
大きな映画会社製作の映画ではないこの映画にとっての大ヒットとはなんなのだろう?
大成功とは何なのだろう?
もう一度ペダルを踏もう。
きっと、あの土地の神様も、映画の中から微笑んでくれている。

