ほぼ美術が組みあがっているから、ご褒美でいつもより遅い入り時間。
とは言え、朝、まだ誰も来る前からロケ地に行く。
同じぐらいについたメンバーに窓を開けるのをお願いする。
ほぼ先が見えた段階で、裏導線の片付けに入る。
そして、早い段階でここまで来れた分、こだわりの部分に入っていく。
見切れを隠し、外観にもこだわり、小道具を配置して、汚しも入れていく。
低予算だけど、うん千万円の美術を組むんだ!と言っていたけれど。
美術スタッフさんも、これは、数千万の映画のセットですよ・・・と言ってくださる。
女優陣には、もう手を出さないでいいよ。練習していいよと伝える。
男性陣も、もうそこまでの力仕事は残っていない。
汚しまで入れた美術セットに実は感動している。
でも、ここからさらにこだわりが入るし、翌日は、美術の確認も入る。
そこで、また家具や道具の置き場が変わっていくだろう。
直しも入るかもしれない。
そこまで行って、はれて、この映画のセットが完成するのだ。
女優陣が音楽を鳴らして、踊り始めた。
稽古場の平らなフロアリングの上で練習してきたダンス。
それが、パンパン小屋の前で、客に向かって踊るダンスになる。
地面には勾配があって、決して踊りやすい環境ではない。
当然、稽古場のように広くスペースを使うこともできない。
カメラアングルが決まれば、勝手に踊る範囲を変えることもできない。
足元が安定していない分、踊りが小さくなっているのがわかる。
今日、ダンスを出来た女優陣は良いけれど・・・きっと苦労するだろう。
二日間のリハーサル予定日は監督が来て演出もする。
自主稽古のつもりだったけれど、監督が来てくれるなら、当然、そちらが優先だ。
踊る時間が必ずあるとは言い切れない。
今、ダンスしておくことは大きな大きなアドバンテージになるだろう。
本番までダンスの練習時間があるかどうかなんか今の時点ではわからない。
役者たちは、そして、芝居に集中していきたくなるだろうし。
作業はほぼ終了している。
もうやることもないから、ばれていいよと一言。
それぞれ家路につく。
一人、ロケ地に残って、立ち上がったパンパン小屋に向かう。
シナリオを開いて、まず自分のシーンを読み込む。
時間が出来たら必ずやろうと思っていたこと。
ロケ地の、あの部屋でシナリオを読み込むという作業。
その場の空気、その場の持つ力、その場の距離感。
それをたっぷりと感じながら、夜、一人での稽古。
最高に贅沢な時間。
劇場でも、人より早く劇場入りして、そういう時間を必ず作ってきた。
ふと、足音が聞こえる。
女優が二人、戻ってきた。
やっぱり、稽古しようかと思って・・・と。
一人の贅沢な時間だけど、別に邪魔でも何でもない。
相手役と確認することだってある。
三人で、シナリオを片手に、芝居の確認をしていた。
セリフを口にしたり、戸を開けてみたり。
必要な小道具を思い出してみたり。
ここは、全員のロケ地なのだ。
贅沢においら一人で、少しでも満喫できたのだから十分だった。
翌日総仕上げが終われば稽古になる。
稽古になれば、監督中心に動くことになる。
自分で気持ちを入れて行ったり、人物像を固めて行ったり。
そういう作業は、自分でみつけていかないといけない。
本当の勝負は、ここからだ。
思う存分、演じ切る。成瀬凛太朗を生きる。
そこだけを目指す。
そういう段階が近づいてきている。
あと3日。
もう、すでに、役者モードにスイッチを入れている。