運命なんて信じていない。
全ての未来がもしも先に決まっているのだとすればそんなにつまらないことはない。
それに、もしそれが運命なのだとしたら理不尽なことが多過ぎる。
運命なんてあるわけがないのだ。
そんなおいらでも、ああ、運命的だなと思えることがある。
運命ではなく、運命「的」ね。
これは、未来が決まっているという意味ではない。
そうではなくて、今までの事がまるで折り重なるようにして、なるべくしてなった時に思う。
ああ、あれは、ここに到着したのか。
ああ、あれが、ここでこうなるのか。
そういう糸という糸が収束した時に思うのだ。
もちろん、たくさんの偶然という要素があったのにも関わらず、という事だ。
決まっていたわけではない。向かっていたからだ。
だとしても、やはり、運命的じゃないか。そう思えてくる。
例えば去年の10月に「セブンガールズ」を上演したけれど。
セブンガールズを今の人数でもう一度やることになると誰が想像しただろう?
実は色々な要素が絡まって、セブンガールズの再演が決まった。
それは決して偶然じゃなかった。
下北沢演劇祭への参加もそうだ。
参加する時点では、公演期間にクラウドファンディングを行うなんて決まってなかった。
偶然が重なって、演劇祭という一番外側に開いている公演で、行うことが出来た。
映像に取り組むことだって、ちゃんと流れがある。
ヒーローMONOという作品で初めてオープニングで映像をプロジェクタで流した。
まだ世の劇団が映像を舞台で余り使用していなかった頃だ。
その後、おいらと織田さんで二人の弾き語りのCDの無料配布をやった。
記録されたものを配布するという行動は、音楽活動だけではなく別のベクトルに変化した。
テンポラルという劇団内お笑いコンビが「シュークリーム」というVHS作品を500円で製作販売した。
その時に出来た映像関係の繋がりから、劇団でショートフィルムの製作をした。
事務所から、デビューする歌手のPV製作の依頼が来た。
自主映画活動が盛んになった。
有名な自主映画コンクールノミネート作品に出演した劇団員まで出た。
柳さおりが、CMに出演した。
デビッド・宮原が、漫画「かぶく者」の原作連載を開始した。
「かぶく者」で知った映画プロデューサーが、舞台を観に来た。
ショートフィルムフェスティバルにノミネートされた。
圭君が、映画「ゆるせない、逢いたい」に出演した。
CMの縁と、プロデューサーの縁がいつの間にか結びついた。
まめまめ探検隊が始まって、遂には連続ドラマ「泣きめし今日子」が始まった。
全て、劇団で舞台活動をしながら、同時進行で起きてきた。
始めは別の糸だったのに、少しずつそれが集まって、一本の糸になった。
このまま進めば、恐らくデビッド・宮原初長編映画監督は十分にあったと思う。
それがもう一本の道。劇団員の活動と、がっちり結びついた。
劇団は劇団で、紆余曲折があって、自主公演や15周年企画を越えて。
今、まさに、ここというタイミングだった。
これが一年後でも一年前でも、企画の意味が変わっていたと思う。
これを運命的と言わないで何と言えばいいのか。
無意識的にも意識的にもきっと向かっていたのだと思う。
もちろん信念をもって取り組んできた。
たくさんの偶然もあった。
それが全て重なって、今、このタイミングでこの作品を映画にする。
やはり、運命的なんだって思う。
そんな運命的なことがまた起きた。
この企画は低予算映画だ。どうやって低予算で撮影していくか。
その工夫をしていかなくてはいけない。
その為には、撮影場所をどうするのか?という問題がある。
地方であれば役者とスタッフの宿泊費や食費がかさむ。
かと言って、都内近郊で、終戦直後のバラック小屋や、赤線に見える場所がどれほどあるか?
そして、その中で撮影が許されて、かつ、人が住んでいたりしたらやはり厳しい。
ならば、セットを組むか?スタジオが高いなら倉庫を借りるのか。
本格的にスタッフさんが決まる前に、候補があればあるほど、その後が楽になるはずだ。
勝手に決定は出来ないものの、候補を増やしておくといいよなぁとデビッドさんが日曜に言った。
月曜日。
GoogoleMapを見ていた。
美術の杉本さんが制作に使っている場所のそばを探してみた。
この辺にないかなぁと思えるような地区だ。
ふと、目に留まる建物名があった。
変わった名前だった。
ストリートビューに切り替えて、その建物の外観を観た。
驚いた。
それは、まさに、バラック小屋だった。トタンで作られた小屋だった。
すぐに、調べて、連絡を取ろうとした。
所が、連絡先がどこにもない。
わかるのは、美術家たちの共同アトリエっていうだけだった。
とにかく調べて、どうやらそこで活動歴があった美術家さんの名前を見つけた。
その名前をFacebookで見つけたから、ダメもとでメッセージを送ってみた。
夕方に返信が来た。
確かに管理していた一人だけど、今は京都に住んでいるという・・・。
クラウドファンディングのページを伝え、趣旨を伝えると、今の管理している美術家さんに連絡してくれた。
夜、連絡が来た。
すぐに連絡先をメッセージで聞いて電話を掛けた。
そのアトリエは、現在、週に1回ぐらいしか使わないらしい。
むしろ、今は倉庫としての利用に近いという。
まだ撮影は先なんですが、秋ぐらいなんです・・・1週間ぐらいは・・・と伝える。
そしたら、もうほぼ即答で、そのぐらいならどうぞ!と言ってくれる。
お借りするにはどれぐらい用意したらよいか、一応、教えていただけますか?と聞くと。
いや、いらないです!
・・・と言う。
え?いらない?
そんなことあるわけがない。
アートに理解ある美術家さんのアトリエが、まさかのトタン。
しかも、杉本さんの作業場から車で5分・・・。
その上、無料で、人が住んでいなくて・・・。
ここまで条件が揃うことなんてあるんだろうか?
もちろん、まだ候補だっていうだけだ。
他にも確認しなくちゃいけないことがある。
だから、近日中に足を運んで、写真なども撮影して、話も伺う。
倉庫作業があるというから、少し手伝いながら話そうと思っている。
力仕事ならお手の物だ。
搬入搬出なんて、毎公演やってる。
実際に話を聞いて、ロケーションを見て。
結果的には候補のまま撮影では使用しないかもしれない。
でもなんとなくこういう出会いが、こういう辿り着き方が運命的なのだって思う。
その方のFacebookを覗いてみると、舞踏の大野一雄さんが出てきたり。
ギャラリールデコで個展を開いてらっしゃったり。
自分が今まで触れてきた周りの人たちにもかすっているのが分かった。
映画や舞台、舞踏などにも、造詣が深い方だとわかった。
そして、そういう何十年と現代美術と向き合っている方と会って話すだけで、役者としてどれだけプラスだろう!
今から楽しみで仕方がない。
未来なんか決まってないよ。
だから「運命」なんて信じない。
この映画に結果があるとして、そんなもの、決まっているはずがない。
あるとすれば、それは、向かった時だけだ。
そこに向かって、様々な偶然と必然が、一本の糸になった時だ。
そして何かを達成した時にまた思うんだ。
なんて運命的なんだろう!と。
それはまるで運命。
でも運命じゃない。