ロケ地最終日。
さんざん毎日登り続けた坂を自転車で駆け上がる。
この道で次に自転車を飛ばすのはいつになるだろう?
既に撮影現場ではなくなったロケ地の鍵を開けて、おいらは静かに座った。
目をつぶれば、毎日聞こえてきた音が聞こえる。
昨日までと違って少人数。
仲間が到着する。
土日に返却できない荷物を車に積む。
そう、今日は平日しか営業していない相手への作業しか残っていないのだ。
バキュームカーが到着する。
地域の汲み取り業者に連絡してあった。
土日は営業していないから、月曜朝いちばんで来ていただいた。
下水がないからトイレも仮設だった。
一昔前の仮設トイレだったら、女優陣は耐えられなかったかもしれない。
今の仮設トイレはとても清潔だ。
汲み取りが終わり次第、軽トラを借りに行く。
レンタカーではなくて、近所の会社が貸してくださった。
前日に声をかけると、カギをさしっぱなしにしておくから乗ってよと言ってくださった。
ついでにベルトとロープを借りて、慣れない南京縛りで固定した。
織田は初の軽トラの運転に四苦八苦。エンジンさえ初めはかからなかった。
風が吹けば揺れるようなトラックで、あの大きな仮設トイレを運ぶ。
通常高額な仮設トイレも、近所のリース会社で格安で貸していただいた。
返す時には、映画を楽しみにしていますと声をかけていただく。
昼食を取ってから、廃棄業者を待つ。
到着次第、男三人だけで、産廃物を積み込んでいく。
あっという間に、あれほどあった木材もトタンも布団もゴミもなくなった。
さっと、その辺を掃除して、いよいよロケ地は元あった姿に戻った。
さあ、行こうと、男三人で歩いた。
近隣の方々に挨拶回りだ。
お騒がせしました。
ご迷惑をおかけいたしました。
お留守のお宅もあったけれど、どの方も、笑顔で対応してくださる。
映画を楽しみにしてくださっている。
2週間も得体のしれない連中が静かな土地を出入りしたのだから、嫌だったんじゃないかなぁ。
それなのに、笑顔で。
最初にあいさつに回った日と同じ笑顔で。
織田と高橋は、おいらがどんなふうにこのロケ地を探して、挨拶に回ったのか。
最後の最後に知っていくことになった。
3人で車に乗って、管理している不動産屋さんに向かう。
お世話になったお礼にビールを渡して、やっぱり、笑顔で話す。
水道はどうだったか、電気はどうしたのか、どんな状態に復旧したのか報告する。
扉を直したといったけれど、あそこは誰もまた何年も開けないから・・・なんて言う。
そして、やっぱり、最後に、映画の公開はいつごろになりそうなの?なんて聞かれる。
織田が言う。
「今日来て、色々知れたから、なんか、良かったよ」
土地を知り、その歴史を、伝説を知る。
そこに住まう人々と触れ合う。
様々なものをお借りしてご協力いただいた。
ただ撮影に参加しただけではわからないこと、見えないものが見えたのかもしれない。
あの土地は再び静かな日々に戻ることがわかったのかもしれない。
名残惜しく、駐車場で話す。
映画賞を取ったらすげーよなーって、相変わらず馬鹿みたいにそんなことばかり。
夢は続く。
自転車にまたがって、最後の復路を進む。
その風景を目に焼き付けるように。
おいらは大きく息を吸った。
明けて11月がやってきた。
さて、このBLOG。
撮影が終われば、終わりかなぁと思っている人もいるかもしれない。
まだ、一度もここに書いていないことがある。
この映画の編集は、おいらがやる。
もちろん、監督と共にだ。
たぶん、知らない役者もいる。
あの映像を誰よりもいち早く観て、PCに取り込んで、編集作業が待っている。
撮影が終わったから、そこで終わったのではないのだ。
この素材を組み合わせて、今度は、信じられないような最高の作品に組み立てていくのだ。
泣きながらの作業になっちゃうかもな。
編集の勉強を今度はする時が来た。
このBLOGは、まだまだ続くのだ。
このBLOGは、本当に最初から最後までの映画制作日記なのだ。
ありがとうね。
自転車で風を切って。
おいらは、満面の笑顔だった。
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