今日も下北沢に向かう。
バレンタインデー。
南西口から商店街を曲がる角にガールズバーがある。
そのそばでいつも呼び込みをしているけれど。
今日はその呼び込みの声がいつもよりも少なかった。
恋人と過ごす日なのかもしれない。
会場に到着するとすでに出演者が到着していた。
自分と二人の登壇だからカメラマンをお願いした出演者が到着すればそれですべて。
前回もそうだったけれど打ち合わせを特にしないでおく。
事前に質問を用意しても、その答えで道が無限に変化するのは目に見えているからだ。
興味深いことがあれば、そこに突き進むと決めている。
だから一番聞いてみたい部分から聞く。
ねぇ、あの時、どんな気持ちだったの?
そういう話。
台詞があって、動きが決まっていて、その通りにやるのが役者だけれど。
その通りにやるだけじゃないのが役者だ。
そのセリフに嘘がないか、動きに嘘がないか、やってみて湧いてくる気持ちはあるのか。
映画でも舞台でも俳優部のみが持つ「主観」という特性。
セブンガールズは繰り返し舞台で上映してきた演目という事もあってそれぞれの思いがある。
登場人物の全てがスクリーンの中で生きている。
何気なく扉を開ける時ですら、そこに生活があって、そこに日常がある。
人間というのは不思議なもので自分でも想像もしなかった感情が沸き上がってくる。
そこに生きているからこそなのだけれど。
きっと怒ると思っていたのに、涙が流れたり、笑顔になったりする。
ふいに訪れる感情と言う奴はコントロールできるものじゃないから面白いし、嘘がない。
そしてそれを聞くのが自分のやるべき事だった。
驚くような答えが出てきて、それは興奮するような感情だった。
役者ってのは面白いなぁと、もう一度思った。
前回と違って、自分の役作りへの質問もあった。
ちゃんと話せたかわからないけれど。
話ながら、成瀬の感情が頭を支配してきて、ああまだ自分の中で生きているんだなぁと感じた。
生きている。
今も、生きている。
あいつの思いが襲ってくると目頭が熱くなってしまう。
上映後のトークイベントだから。
そこに立った瞬間から、セブンガールズが上映される機会が残り一回だった。
体の中に最期の上映機会がやってくるという気持ちがじわじわと湧き上がっていた。
話しながら、寂しさが鎌首をもたげてくる。
目の前には20回以上足を運んでくださっているお客様がいて。
もうそのお客様には全て見えているんじゃないだろうかと思いながら。
その数十倍の回数自分はセブンガールズを観てるんだなぁと思いだしていた。
カットされたシーンも、シナリオも全てを知っていて。
そんな自分でも知らない事、役者が感じていたことがまだまだたくさんある。
そんなことを考えるたびに、まだ上映したいよなぁと耳元に声が聞こえる。
・・・あの声は成瀬凛太朗の声だろうか?
寒い冬の夜を歩く。
帰路の道。
下北沢トリウッド最終日がやってくるだなんてとそればかり考えていることに気付く。
これまで続いた対談のイベントは作品を掘り下げていった。
UPLINK渋谷でのイベント色の強い日々とはまた違った角度だった。
二週間12回毎回違うテーマで話せたことはすごいことだと思っている。
もう話せることなんかないよとはならなかった。
多くの映画がある。
邦画だけで1000を超える映画だ。
その全ての映画の中でも一番小さい映画かもしれない。
そんな映画の中で必ず特別な一本が生まれる。
誰かにとって忘れられない映画が生まれる。
セブンガールズに何度も足を運んでくださる皆様がいらっしゃる。
それが何故なのか、きちんと考えている、分析している人はどれぐらいいるのだろう?
多くはなるべく多くの観客が来るには・・・という分析で終わっているんじゃないだろうか?
一度だけ鑑賞する人の数をどうやって増やすのか?が最大のテーマのように語られている。
自分だって同じだ。
どうやったら、まだセブンガールズを知らない人たちに足を運んでいただけるのか?
それを考えて、実践して、失敗ばかりだけれど進んでいる。
けれど、もう一つ考えなくちゃいけない。
なぜセブンガールズをこんなに愛してもらえるのかを。
世に名を遺す名監督はそれを大事にしてきたはずだ。
そして、今、本当に求められている作品はそういう作品のはずだ。
それは多分キャストの名前でもないし、クオリティでもない。
ひょっとしたら作家性ですらない。
もっとずっと、それこそ友達に逢いに行くような、寄り添い方が出来るのかどうかなんじゃないだろうか。
お客様が登場人物をまるで古くから知っている友人のように口にする。
●●さんのあのシーンが・・・なんて役名で話す。
それはまるで、子供の頃ジャッキーを見てカンフーの物まねをしていた自分のようだ。
ゴーストバスターズを見てリュックを背負った自分のようだ。
だから最終日とは友達がいなくなっちゃうことなんだ。
そりゃあ、寂しくだってなるさ。
けれどきっと最終日も初めて来てくださるお客様がいらっしゃる。
その人にとっては寂しいとかじゃない。
出会いの場なのだ。
だからその日を特別な一日にしてもらうためにも。
真心を込めてお届けするんだ。
永遠の一日にしてもらうために。
寂しい顔をしてしまうけれど。
最終日だって笑顔で挨拶をするんだ。
また逢えると信じて。