二日目の名古屋シネマテーク。
大変申し訳ないことに自分は鼻出血があった。
ご担当の永吉さんが、保冷剤を冷凍庫から出してくださってここで休んでくださいと言ってくださる。
ティッシュも用意してくださって椅子で休んでいた。
その時から、前日には見なかった方の出入りがあった。
優しく応対してくださっていたから何もその時は気付かなかった。
上映後登壇している仲間をカメラに収めて、もう一度、自分は受付で休ませていただいていた。
その時、受付内でどこの新聞社に訃報を・・・とか、連絡はどうすれば・・・と話されていた。
まさにセブンガールズが上映されていたその日その時に連絡が交差したのだと今ならわかる。
どなたかが亡くなられたということはもちろんわかった。
そしてそれが名古屋シネマテークに関係している方だという事もわかった。
けれど、それが誰なのかまではわからなかったし、敢えて聞くことも出来なかった。
そういうことは話してくださったときに知るべきだと思ったからだ。
何かが起きているのはわかっていながら。
永吉さんは終始笑顔で応対してくださった。
そして最後まで何があったかは伝えてくださらなかった。
それを今、強い意思であったと知った。
今朝、名古屋シネマテークの支配人、平野勇治さんの訃報を目にした。
ミニシアターの世界、自主上映の世界では、とても著名な方だ。
ああ、そうだったのか・・・瞬間、体の力が抜けた。
今月のはじめぐらいまでは映画館にもいらっしゃっていたとの情報を見た。
セブンガールズの上映が決まったのは去年。
その頃の体調は知るべくもないけれど、セブンガールズも観て選んでくださったのだとすぐにわかった。
名古屋シネマテークには、サイン色紙がたくさん展示されている。
その時々の話題で色紙は入れ替えるのだそうだ。
段ボール数箱になるサイン色紙の全てを展示することは出来ない、そういう量だ。
そのサイン色紙のいくつかには、必ず接頭語が付く。
「有名になる前の」サイン色紙。
まだミニシアター・・・あの頃は単館上映なんて言ってた頃だけれど。
その頃のサインがたくさん貼ってある。
今のサインとは違うサインもたくさんあるし、伝説の方のサインもあった。
溜息が出てしまうような名前がたくさん並んでいた。
自分が初日に名古屋シネマテークに到着した瞬間、色紙が置いてあって、書いてくださいと言われた。
それをもう30年以上続けているという事なんだ。
そして、この名古屋シネマテークから、有名になった監督や俳優がたくさんいるということだ。
その全ての風景に平野さんがいらっしゃった。
セブンガールズは最期の交差を出来たのだろうか?
ご覧いただけたかもしれないけれど、お会いすることだけは叶わなかった。
配給の担当さんにも訃報の一応の連絡をする。
当然、連絡は届いていた。
そして、配給担当さんも回復を待っていたことを知った。
休養されていたのも知っていた。
そうだったんだ。
きっと担当さんは平野さんにセブンガールズのことをお願いしたんだなぁ。
永吉さんとも平野さんの体調について連絡もされていたのか。
自分たちは、そんな映画の世界で、映画を愛していらっしゃる方のそばを歩いていた。
映画界に広がる数多くの弔意を目にする。
こういう方がいる。
世間では有名ではない。
けれども、その世界では有名で、誰からも愛された人がいる。
そしてそういう方が、歴史を編み続ける。
もちろん、それは映画界だけではないのだろうけれど、必ずいる。
そしてそれは遺伝子なんて野暮なものではなく、遺志として受け継がれていく。
葬儀の時間を目にする。
29日の13時。
そこで、また自分はハッとした。
セブンガールズが上映される時刻と同じくして、平野さんは荼毘にふされる。
勝手な思い込みかもしれないけれど。
人生で最も長い時間を過ごしたであろう名古屋シネマテークにいらっしゃるのじゃないだろうか?
仏教では四十九日現世にとどまるというのだから。
もしかしたら、その時、客席のどこかでセブンガールズをご覧いただけるのじゃないだろうか?
ひょっとしたら明日は休館になるかもと思ったのに。
そんな案内はどこにも出ていなかった。
映画館は上映を止めないのだ。
それはまるで故人の遺志のように感じた。
登壇するメンバーがいるわけではない。
ただ映画が上映されるだけだ。
けれど追悼上映だと思う。
そうあるべきだし、そうじゃないといけない。
お会いすることが叶わなかったけれど。
最後の最後に、自分たちは交差することになった。
その日に上映し、その日に登壇し、荼毘にふす時間に上映する。
映画とはきっと、その作品だけではない。
誰と観たのか、どんな日に観たのか、どんな場所で観たのか、どんな気分で観たのか。
その全てが映画体験になっていく。
明日、その時刻にその場所で上映されることが無意味なわけがないじゃないか。
お会いできませんでしたが。
お客様と一緒に観てください。
笑ってください。
泣いてください。
怒ってください。
永吉さんの笑顔の裏側の涙を今になって感じずにはいられない。
本当は飛んでいきたかったんじゃないかなぁ。
自分だったら泣いてしまったかもしれない。
たくさんの映画を愛してくださってありがとうございました。
セブンガールズと出会ってくださって、ありがとうございました。