朝起きてすぐに台風情報を確認する。
10時過ぎに発表された最新の進路予想が、関東暴風域は23時と発表されていた。
もちろん、暴風域に入る前にも強風域や雨があるから予断は許さないけれど、一つ安堵。
何よりも、ご来場いただける方々にとっての不安、心配が一つ減るのだから。
稽古場に到着して、稽古準備を重ねているとNHKの速報が入る。
JR東日本が20時に全ての在来線の運転見合わせを決定との報道。
すぐにJR東日本のHPを確認するも、20時以降順次・・・との記載がある。
20時に電車が止まるのか、20時に始発駅からの電車が最後なのかもわからない。
情報に矛盾や差もあり困惑しながら、プロデューサーと電話で協議をする。
映画館側にも確認を重ねていただく。
すでに前売りが完売、当日券も出ているという状況だった。
更にSNSやネット上で中止の告知をしても、ネットを見ない人もいる可能性があった。
劇場まで足を運んで、中止の看板を見て肩を落とすお客様もいるかもしれない。
ケイズシネマさんも、一人でも来るなら回さないわけにはいかないという判断をされていた。
たとえ、たった一人のお客様だとしても、舞台挨拶だってやると決意する。
これは、そういう映画だ。
新宿という土地は地下鉄も私鉄も走っている。
もちろん徒歩圏内に住んでいる方だっている。
だとすれば、そんな一人に出来ることをするべきだ。
それでも、無理にいらっしゃる方がいるかもしれないという不安があった。
帰れないかもしれない、危険かもしれない。それでも行こうという方がいるかもしれない。
その為に、チケットの振り替えについて、早々に決めさせていただいた。
ケイズシネマさんも、すぐにそれは了承いただけた。
今日のチケットで別日程でも入れる。それだけで危険を回避できるかもしれない。
皆様に無理をしないで欲しい旨の発表をした直後だった。
ケイズシネマから、やむなく中止の連絡が来た。
新宿の周囲の映画館は軒並み上映中止を発表していた。
それでも、ケイズシネマさんはお客様が来たらやると言ってくださっていた。
そこまでの思いなのに中止にせざるを得なかったのは、映画館の都合ではない。
ケイズシネマが入っているビルそのものが営業中止を決定したからだ。
ビルに入っている全ての商業施設が、営業時間変更。
帰宅難民が出る可能性、命にかかわる危険もあるかもしれない。
そういう中での判断である以上、決定に従わざるを得ない。
即座にSNSにて速報を出す。
稽古をいったん止めて、皆にも説明をする。
稽古をいったん止めて、皆にも説明をする。
何度も繰り返された連絡も、中止決定が出ればそこで終わり。
稽古場の皆も稽古を早めに切り上げて電車があるうちに帰宅してねと伝える。
そのまま、稽古場を後にする。
自分のシーンの演出は、待っていても来るかわからない状況だった。
SNSと映画のオフィシャルページの更新をしながら、新宿に向かう。
新宿に降り立つと、雨もなく、風もなく。
本当にこれから交通機関が止まるなんてとても信じられなかった。
いつもの新宿よりも人が少ない。少し奇妙な感覚。
そのままケイズシネマの前に到着する。
休映の張り紙、ビル全体の営業時間の変更の張り紙。
きっと、この紙を見て肩を落として帰宅された方がすでにいらっしゃる。
エレベーターの前にスタッフTシャツを着て、立つ。
やはり、ネットで情報を確認しないまま来場された方がいらっしゃった。
前売券を持った方。当日券を予約出来た方、今から当日券があるか聞きに来た方。
何組かに頭を下げていたら、劇場担当さんがおりていらっしゃった。
看板などのチェックをするためだ。
少し話をする。上にいますのでとのお言葉。
もちろん、上階の受付でも対応をされているからだ。
振替について、本来の開演時間の19時すぎたら伺いに上がりますのでとだけ伝える。
当日券を購入された方に、残念だったねぇと声をかけられたり。
前売を持った劇団をご存知のお客様と握手をしたり。
出来ることは限られていたけれど、少しでも肩を落とさずに済んだだろうか・・・。
自分が一番肩を落としていたのかもしれないけれど。
19:05を過ぎた時点で映画館受付に向かい振替方法を細かく伺う。
ホームページにてその内容で案内をする旨を伝えて、ケイズシネマを後にする。
すでにビル内で明かりがついているのはケイズシネマさんだけだった。
まだ風もなく、雨も小降りだった。
ただ、すでに町から人影だけが少なくなっていっていた。
いつもは大混雑の電車のスカスカのシートに座ると、隣に座る女の子が泣きだした。
恋人と別れたのだろうか?友達と喧嘩したのだろうか?
すすり泣く声を聴きながら、出来ることは二つしかないと考えていた。
帰宅する。
その頃、少し風が出てきた。
自分に出来ることは二つしかない。
一つは、今日残念な思いをした方々に精いっぱいの対応をさせていただくことだ。
振替の日時変更、キャンセルの場合の返金。
きちんと体制を整えて、決定したら発表、対応と続けていく。
誠意ある対応をきちんとすることだ。
もう一つは、翌日からの上映を大成功させることだ。
毎日満員御礼になって、来てくださった皆様が楽しんで帰っていただけるように。
満員になるように、今まで通り、きちんと告知を繰り返していくこと。
鑑賞後も、ロビーでご挨拶して、楽しい気持ちで映画館を後にしていただけるようにすること。
上映日は7日から6日に減って、一日分のお客様が来れない分、来場いただけたお客様には楽しんで頂くこと。
振替で、二度目に足を運んでくださった方も、観れてよかったと感じていただくことだ。
そして、大成功になって、東京近郊での上映日が増えたら。
今日観ることが出来なかった皆様にも、新たな機会が生まれるんだ。
帰宅して一つ一つ、連絡や更新をしていく。
明日は台風一過。暑い日になるそうだ。
様々な更新が終わった頃、強風が吹き荒れていた。
誰も怪我無く、誰も帰宅できないこともなかったことを、良かったのだと思おうと心に誓った時。
初日に来場してくださった方の、長い長い感想をInstagramで見つけた。
劇団を知らない純粋な映画ファンの感想だった。
それは、まるで、光のようだった。
映画「セブンガールズ」が、心を動かしているんだと実感した。
なんてことだろう。
おいらたちは、もっともっと、こういう方々に届けなくちゃいけない。
そこには、他の映画ファンから、これ観たいんですよというコメントまで残っていた。
後輩からメールが来ていた。
休ませない映画ですね。と書かれていた。
まったくだ。
山あり、谷あり。
準備機関からそれは変わらない。
でも、どんな山も昇り、どんな谷も跨いできたんだ。
深夜番組で「次のカメ止め!を探せ」という特集をやっていた。
まだまだ世界はセブンガールズを知らないなぁと、思わず口にした。
見逃してるんだぜ。
顔を上げろ!
足を前に出せ!
天よ艱難辛苦を我に与えよ!
全ては偶然ではない。
全ては必然のはずだ。
明日の準備をしよう。
大満足していただくためにも。
満員御礼になるように。