それは、舞台作品「セブンガールズ」の3度目の公演だった。
10周年の記念に人気作品の再演ということを初めて挑戦していた中で。
「セブンガールズ」の再演もして欲しいという声を聴いて再演をした。
その再演でチケットを確保できなかったという方がいらっしゃって、追加公演という形で3度目の公演を決めた。
場所は、新宿シアターモリエール。
そこは、自分にとって、大事な大事な劇場だった。
自分が芝居を教わった人に最後に演出してもらった舞台をしたのがモリエールだった。
その千穐楽、ボロボロと開演前に涙が出てきたことは、今も忘れることは出来ない。
そのモリエールでの公演中に。
舞台終演後。
受付の階段に、加藤プロデューサーがいた。
デビッド・宮原さんに会えませんか?と声をかけられた。
知り合いなのかなぁと思いながら、デビッド・宮原を呼んだ。
当時、デビッド・宮原は週刊モーニングで「かぶく者」という漫画原作の連載をしていた。
その漫画を観て、その原作者が劇団をやっていると知って、わざわざ舞台のチケットを買い会いに来てくれた。
その日から、加藤プロデューサーとの付き合いが始まった。
加藤さんは何度も何度も舞台に足を運んでくださった。
いくつかの映像の仕事でもご一緒させていただくことになった。
「セブンガールズ」を映画化したいと最初に相談したのも加藤さんだ。
その日。
舞台に来てくださらなかったら、加藤さんと出会うことはなく、セブンガールズは映画化していないかもしれない。
あまりにも運命的だ。
出来すぎている。
その劇場、新宿シアターモリエールのビルの裏手にある映画館が、K'sシネマだ。
出会いの舞台作品「セブンガールズ」が、加藤さんをプロデューサーに迎えて映画化され、出会いの地で公開される。
計算してこうなったわけではなくて、まるで、導かれるように全てが繋がっていった。
こんなことってあるのだろうか?
不思議な縁だ。
「セブンガールズ」という映画が、必ず何かを起こすと思っているのはそういう偶然があまりにも多く重なっているからだ。
まさか、そんなことが起きるなんて、誰も思っていなかったはずだ。
しかも、その舞台を演じていた劇団員たちがそのまま出演して映画を創ることになるなんて。
想像しろと言ったって、想像も出来ないようなことだ。
会いに行く。
一言で言えば別に簡単なことかもしれない。
でも、本当にそうかな?
仮にそれが出来ても、声をかけられるかな?
声をかけたとしても、その後、何年もこうして付き合いが続くかな?
簡単なことじゃないし、その日から、すでに何かが動いていたんだと思う。
もう9年以上前のことなはずだ。
ここからは勝手なことを書く。
おいらは、加藤さんにとって「セブンガールズ」が運命の映画になって欲しいと願っている。
海外への挑戦の時もそれを何度も何度も考えた。
様々な映画の世界に生きている人にとって、運命の作品というのがある。
それに出会わない不幸な場合もあるだろうけれど、大なり小なり、そういう作品がある。
ターニングポイントになるような、重要な作品。
だって、9年越しだよ?
もちろん、映画化しようなんて考えてなかっただろうけれど。
その日から始まった何かの到達点なんだよ?
何が起きれば運命の作品になるだろう?
それはまだまだわからないけれど。
海外挑戦の時は、ノミネートされたらなるかなぁ?とか考えたけれど。
話題になったらそうなるのか、それとも別の何かがあるのか。
そればっかりはわからないけれど。
わからないけれど、そうなってほしい。
多くの幸せな出会いが重なって「セブンガールズ」は生まれた。
たくさんの偶然が重なって、それは運命のようになった。
今、一緒に公開に向けて打ち合わせたり、連絡を取りながら。
ありがとうございますという言葉が何度も何度も繰り返し出てくる。
でも、感謝するだけじゃダメだ。
自分たちのやれるだけのことをやって、恩返しになるようなことが起きないといけない。
そうじゃないと、この運命的な物語が閉じるわけがない。
おいらのような者を相手にしてくれている。
それだけで十分、感謝するべきなのかもしれないとさえ思う。
ああ、それにしても。
昭和館だった頃のあの裏通りを思い出す。
まるで新宿からも、見捨てられたような裏通り。
10年以上前のヤクザ映画と、ピンク映画のポスター。
雀荘、風俗店、タバコ屋。居酒屋。場外馬券場から流れてくる人たち。
道端には、丸められた競馬新聞と、馬券が無数に落ちてた。
一本、道を出れば、明るい大通りに出るのに。
あそこだけ、なんだかやけに暗かった。
それが、あんなに綺麗に明るくなるだなんて。
嘘でも何でもなく、K'sシネマという映画館での公開は決まっていたのかもしれないと思い込んでいる。
あの場所には何かがある。
だって、あの場所で、一体、今日までいくつの出来事があった?
ボロボロと涙を流し、加藤さんと出会い、初めてスクリーンで健さんに出会い。
いや、もっと遡れば、年端も行かぬ頃の自分と父との思い出だってあるのだ。
知ってるかい?
映画館のほとんどは、かつての赤線地帯にあることを。
理由は簡単だ。
赤線地帯は繁華街だったし、映画は興行だったからだ。
娼婦と映画は、相性がいいのさ。
セブンガールズは、そういう宿命を背負っているんじゃないだろうか。
運命の作品。
自分にとっては間違いなくそうなる。
でも、それだけじゃ、なんの意味もない。
観てくれる人も、関わってくれたすべての人にとって。
運命の作品にならないといけない。
だって、ほら、あの日を思い出せば。
やっぱり、これは、運命としか思えないのだから。