2018年03月03日

なんでもない話

よく行くビルの階段が、酷く汚れていた。
見上げると、建物の構造上、階段の上部に少し棚のようになっている場所がある。
どうやら、その棚の部分に、なんらかの野鳥が巣をつくり、フンを落としているようだった。

その数日後、その汚れの中に、卵が割れているのを見つけた。
ああ、やっぱり鳥の巣があるんだなぁ。とわかった。
卵は残念だけれど、きっと、まだ巣も卵もある。
そうじゃなきゃ、これほど、汚れ続けるわけがない。

掃除をしているおばさんをみかけた。
毎日とまではいけないけれど、2~3日に一度は階段を掃除している。
それでも、すさまじい量の糞が掃除をした傍から、汚していく。

ある日見上げたら、ハトがいた。
そうか。
野鳥は、鳩だったか。
とは言え、いつも見かける鳩とは少しだけ違う。
あのグレーでも、白でもない。
少し顔が黒くて、ふさふさしている。
大人の鳩と体格はそう変わらないけれど、まだ雛の鳩だとわかった。
まだ跳ぶことは出来ず、かと言って、跳びたい。
それで、それまでは棚の奥にいた雛が、見える位置まで来ていた。
外からやってくる親バトを待つように、見える場所に現れた。

やれやれ、鳩か。
鳩は、年に4回も6回も、卵を産むと聞いたことがある。
それも、一度、巣をつくると、同じ場所に何度も何度もやってくるんだそうだ。
一度に育てる卵は二つ。
別の日に生むのだけれど、卵が育つのは、親が温めた日からだから、同じ日に孵る。
今回は、一つ卵が落下してしまったから、雛は一匹だけだ。
巣立ったのちに、例えば掃除をしても、ここに巣があった記憶は残り続けるらしい。
これは、掃除のおばちゃんも大変だぞ、ずっと、続くぞ・・・そう思った。

そろそろ跳ぶころなんだろうか?
そう思って、汚れた階段を見かけるたびに、その棚を見かけるようになった。
時間帯によっては、雛の鳩が顔を出している。
顔を出していない時は、近くの街路樹や電柱を見て、どこかにいないか探してみた。
跳ぶと言っても、すぐに遠出なんかできない。
何度も飛ぶ練習をして、大人になってから、巣立つのだから。
観ていない間に、初飛行をしているかもしれない。
どこかにいるかもしれない。

先週、見上げたら、その巣から飛び立った鳥がいた。
カラスだった。
真っ黒なカラスが、巣から飛び立つ。
逃げるように、鳩らしき鳥が飛び立ったけれど、あれは雛じゃなかったように思う。
その後、カラスがもう一度やってきて、近くの屋根の上で、踊るようにステップをしていた。
雛の鳩は、カラスにとって、獲物だ。
こんな結末が待っているなんて思わなかった。

昨日、その階段は汚れていなかった。
もう、あそこに鳩がやってくることは、しばらくないだろう。
掃除のおばちゃんはきっと、胸をなでおろしているだろう。

別に残酷な話じゃない。
自然の摂理だ。
おいらだって、肉を食らい、魚を食らい、生きている。
意味を付けて考えるのは、人間の妄想に過ぎない。
階段が汚れているのと感じるのも人間の尺度に過ぎない。
卵が落ちてしまったことも、その後の雛がどうだったのかも。
それは、自然の中で繰り返されていることに過ぎない。

世界は残酷だ。
だからこそ。
きっと、跳べるようになった瞬間は美しいのだ。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 17:58| Comment(0) | プロモーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください