「かぶく者」の原作をモーニング誌上で監督が連載していた頃だっただろうか?
監督が、つくづくわかったと言ったことがある。
それは、ちゃんとプロットを立てて、キャラクターも練って、物語を構築したいということだった。
そうじゃなきゃ、ちゃんとしたものなんか、出来ない!と言った。
劇団を運営していれば、公演が終わればすぐに次の公演が迫ってくる。
まして、可能ならば当日パンフレットに次回公演情報だけでも入れたい。
だから、次から次に創作を重ねていかなければいけない。
でも、余り矢継ぎ早なのは、結果的に満足出来る創作が出来るのか?という疑問だった。
それ以降は、新作のアイデアや、プロットが出てこない限り、無理に新作を求めないようにした。
創作者にとって、無理にひねり出して、結果的に満足できるレベルじゃないものを発表するのは苦痛だろうから。
実は、個人的には、ノリだけで監督が書いたような、テキトーな感じも好きだったりする。
だから、おいらは、全然問題がないと思っていたのだけれど。
書いている本人の気持ちを考えれば当たり前のことだなぁと、とても反省したのを覚えている。
結局、次を書いて欲しいというのは、自分の希望というか、甘えだった。
当然、どこまで練っても、どこまで書いても、満足なんかしない世界だけれど。
そして、急いで創作したって、最低限のクオリティはキープしてくれるのもわかっているけれど。
とくに当時は、30人近く登場人物のいる対策ばかりだったのだから、信じられない仕事量だ。
その後も、アイデアがない状態から新作を創作したという機会はあった。
アドリブで構築していく特別公演なんかもあった。
監督本人が作家として、どこまで満足できる環境で書けたのかはちょっとわからないけれど。
そんな公演でも評判の良い作品もあったし、何が良くて何が悪いかなんてわからないままだ。
そんな時は、いつも、書いてもらって平気ですか?と確認してきた。
書けるよ。と必ず口にしてくれるけれど。
あくまでも「書ける」であって、「書きたい」ものがある時ばかりではなかった。
映画「セブンガールズ」のシナリオは、5回も書き直した、今までにはない創作だった。
4度の再演をした作品をシナリオに直し、更にそれを推敲して改訂していった。
撮影環境なども考えたうえでの作業だけれど、それにしても今までこんなことはなかった。
いや、なかったというよりも、出来る機会が環境がなかった。
だから、初長編映画監督という挑戦の前で、公演はやめましょうと提案した。
とにかく、満足するまで徹底的にセブンガールズに取り組んでほしかったから。
あれだけ改訂したのに、現場でカットしたセリフもあるし、編集でのカットもあった。
だから、完成なんてきっと、どこまで行ってもないのだけれど。
それにしたって、急ぎすぎて後悔するようなシナリオにだけはしてほしくなかった。
もちろん、仕事でそんなことは言ってられない。
依頼が来れば、よほどのことがない限り、書くはずだ。
でも、劇団は少し違う。
いわば、自分のアトリエなのだから。
仕事で頂く以上の・・・つまりプロ以上の、こだわりの現場だからだ。
書くと同じ意味で、書かないを選択してもいい場所だ。
だからと言って、再演が決まれば結局1から改訂稿を書き出してしまうのだけれど。
ライター的なことだって出来るけれど、やっぱり作家なのだ。
映画を公開するという事は。
この監督はこういう作家ですと発表することだ。
その先のことを考える。
例え上映規模が小さくてもだ。
もう「書けるよ」で書かせてはいけない。
「かぶく者」の時と同じことだ。
「書きたい」ものがみつかるまで、辛抱強く待つ。
満足できることは、なかなか難しいとしても。
自分の頭の中でプロットを組み立てて、クライマックスを想定して。
キャラクターも生みだして。
最初のシーンから最後のシーンまで、一本に繋がっているような。
それが評判が良いか悪いかも関係なく、そういう作品で勝負をして欲しい。
この冬。
例え伸びても、春までには、上映が決まる予定だ。
そして、来年は劇団の20周年にもなる。
ここで、そういう満足できる作品を発表してほしいと願っている。
じっくりと練って。
もちろん、プロットを書いて寄こせなんて言わない。
監督の頭の中で組み立てているよと言ってくれるだけでいい。
そういう自分で勝負するぞと思えるような、作品を準備してほしい。
そう、監督に伝えてある。
誰もがそれを待っているからだ。
何度も何度も、稽古場で涙を流した、すごい作品を書いて欲しい。
それが大好きだし、いつもいつも楽しみで仕方がない。
セブンガールズのシナリオほどの時間がある機会も環境も、もうないかもしれない。
だとしても。あの信じられない分量のシナリオを思えばこそ。
どう考えても熱量がないと出来ない改訂の数を思えばこそ。
あのまるで全体が一つの詩のような、新しい作品を書いて欲しいと願ってしまう。
その為に何が出来るだろう?
自分に出来ることなんか少ないけれど。
やれることをどんどんやらないといけないんじゃないだろうか?
だって、20年も、数十作も、台本を書き続けてくれたのだから。
これは、監督にとっての20周年でもあるのだから。