皆の入り時間はリハーサル開始の1時間前。
おいらは、その1時間前に入って、リハ前の準備をする。
今まで休憩していた場所を移動し、セット内の片付けをしておく。
ついでではあるけれど、昨日の美術の直しも手を付ける。
監督が到着次第リハーサルを開始できるようにしておくためだ。
到着後に、二人で電気周りの作業を始める。
照明さんが現場を見に来ると聞いていたので、電気系統の準備だ。
おいらも中野も役者準備が必要だけれど、とは言え、やっておかないとねとなった。
監督が到着するなり、リハーサルは始まった。
衣装を着て、俳優たちがセットに立つ。
映画は絵だよという人がいるけれど、セットに立っているだけで絵が決まっている。
ぶるっと震える。
稽古場で見るのと同じ芝居でも、まったく違って見える。
助監督から相談されることをこなしながら、稽古に参加していく。
撮影監督も到着して、照明さん、音響さんも到着した。
ぐるりとセットを見まわして、様々な計算を立てている。
この辺に、灯り取りの窓が欲しいとか、出るたびに対応していく。
とにかく、24日の撮影開始までに、細かい部分はクリアしておきたい。
本番で、スタッフ仕事はなるべく、少なくしたいからだ。
やれることは全て気づくなり消化していくべきだ。
照明さんが車を出した。
なんと、今から機材を取りに行って搬入するという。
必要なものがわかったから、言ってくると車を出す。
自分のシーンや代役も含めて、リハーサルを重ねていく。
加藤Pが、差し入れを手にやってきた。
疲れがピークの時に甘いもの。ありがとうございます。
ちょうど、休憩時だったので、セットを案内する。
思わずセットを見て、声が出る。
楽屋まで案内すれば、「下北沢から世界へ!」とみんなに声をかけてくださる。
このロケーション、この美術に、とっても驚いていた。
リハーサルはどんどん進み、クライマックスも稽古できた。
おいらは、アングルから生で見ていたけれど、自然と泣けてきた。
このすごさが、映像に残ったら・・・すごい作品になる。
その途中で、古賀Pも到着する。
順調に進んでいる旨を伝える。
夜になり、希望しているシーンまで進んだので役者は解散する。
すると、照明スタッフが一気に動き出す。
パンパン小屋に照明を仕込み始めた・・・。
撮影初日の朝と聞いていたのに、一気にやりはじめる。
照明さんの搬入で、男たちは何も言わずに荷物を運ぶのを手伝った。
リハが終わるなり、女たちは何も言わずにスタッフさんにコーヒーを淹れた。
そのコーヒーを片手に持った古賀Pと話す。
自分の今までの関わった映画でいえば、この美術はありえない。
小野寺さんが言っていたのはこういうことなんですね・・・と言われる。
おいらたちは、ずっと、ずっと、こうしてきた。
搬入であれば、当然、スタッフさんに手を貸し、手が空けばコーヒーを淹れる。
少ない予算で少しでも良い作品にするために、自分たちでもセットを建て込む。
この当たり前のことをやっているのに、話してもなかなか伝わらなかった。
それが、実際に目にして、わかったのだと思う。
そして、今度は芝居で驚かせなくちゃいけない。
全ての仕事は、少しでもいい作品を作るためなのだ。
他のスタッフさんが帰っても、照明さんの仕込みが続く。
鍵を閉めるために待っていたのだけど、中野も残ってくれる。
仕込みが終わり、片付けをしはじめたころ、急に思いついて、中野と二人で床の補修をする。
さっきまで、リハをしていた役者が床に這いながら、補修をしているのだから・・・やれやれだ。
補修の後片付けは、明日の朝、やっておくよと伝えて、鍵を閉める。
今日やったシーンは、もう本番しか残されていない。
あっという間だ。
あっという間に、過ぎていく。
ここはまるで夢の中のようだ。