ロケ地入りした。
通常、俳優のロケ地入りの時は全ての準備がなされている。
分業されているのが映像の世界だ。
当然、俳優は芝居を仕上げておくという仕事がある。
あらゆるプロフェッショナルが、あらゆる仕上げをして集結するのが現場入りだ。
けれど、今回のプロジェクトは違う。
集まったのは俳優たちのみ。
女優は一斉に掃除を初めて、男は力仕事だ。
おいらは、水道局であったり、電気周りであったり、色々仕事があったけれど。
男の力仕事は、材料がそろうまでは、準備段階しかできない。
それでも、重いものを運んだり、伐採をしたり、電柱に上ったり。
とにかく、様々な作業がある。
パンパン小屋の玄関前の整理だけでも一仕事だ。
こまめに休憩をとろうと声をかけていく。
疲れた時、人は脳から直接、休みなさいという命令が出ているはずだ。
それを無視すれば、脳は今度は、無理している部分を緩和するためにホルモンを出す。
アドレナリンは元気をくれるけれど、一時的な躁状態ともいえる。
それは、必ずバランスをとるためにあとから、軽いうつ状態で帰ってくるものだ。
そのコントロールがおかしくなってしまうから、働きすぎのノイローゼが生まれる。
たった2週間ぐらい頑張れるさという自分はもちろんいるのだけれども。
本分は俳優なのだから、なるべく、全員にダメージを残したくないのだ。
ロケ地全体のツアーで回った時に。
蜘蛛の巣を切りながら歩いた。
20年以上眠っていた土地なのだ。
土地にいる神様にも挨拶をした。
初めてその地を踏んだ俳優たちはどう思っただろう。
それがどんなシーンに、どんな映像になるか想像できただろうか。
ここは、このシーンの撮影予定と説明するたびに、ああ!と声が上がる。
そう。ここには、ほぼすべてのシーンを撮影できるロケーションが揃っている。
とは言え、メインとなるパンパン小屋の設営はまだ後だ。
今日は、搬入作業と準備作業しかできない。
気づけば、日が落ちる直前。
あたり一面がオレンジ色になっていた。
スタッフルームと楽屋の掃除をお願いしていたのだけれど。
想像以上に、楽屋が出来上がり、スタッフルームが出来上がった。
ロケ先でここまで楽屋もスタッフルームも駐車場もそろっていることなんて稀なんじゃないだろうか。
ある程度、先が見えた時点で女優たちを先に帰す。
みんな、へとへとだったし、これからは真っ暗になる。
とにかく、トラックの到着を待つだけなんだから、もう必要がない。
日が落ちるとあっという間に、ロケ地は闇に包まれた。
作業灯を2基、設営してつけてみた。
想像以上に明るくなる。
見ると、タングステンのオレンジの光が置いてある小道具と俳優に当たってた。
それは、まるでフィルムに焼かれた映像そのものだった。
暗闇で灯をあてるだけで、陰影が、深い映像のような絵にする。
振り返ると、パンパン小屋を組む建物の窓から明かりが漏れている。
白色の作業灯は、ぎゃくに、そんな場面で、リアルを生んでいた。
トラックが到着して、大道具や材料をおろしていく。
懐かしい、朝陽館でいただいた数々の道具を久々に目にする。
時代物の、家具が辺り一面に並んでいく。
その家具にも、タングステンの光と影が、陰影をつけていく。
最後にトラブルもあったけれど。
今日はここまでだ。
搬入も思ったよりも進んで80%は終わった。
片付けもほぼ100%終わった。
明日、墨出しをして、小屋の基礎を作れたら、仕込みも早くなる。
帰ることにするけれど。
思い立って、数人の男だけで呑んだ。
男だけなんて、とても久しぶりだ。
男しか話せないことも、本当はあるんだぜ。
織田さんが、皆と礼さんの話ができて良かったよと言って、お開きになった。
明日、明後日が勝負だ。
一気に、あの現場にパンパン小屋を作り上げようぜ。
たった一日そこにいただけで。
俳優たちは現場に慣れたはずだ。
それは、ものすごいアドバンテージになったはずだ。