明日はついにロケ地入り。
そんな忙しいさなかに届いた訃報。
今日は、最後の買い出しのために時間を作っておいたけれど。
全ての予定を前倒しして、礼さんに会いに行った。
葬儀には参列できないからだ。
真鍋礼市さんは、織田稚成の兄貴だ。
織田は、真鍋さんを紹介するときに、必ず兄貴だと紹介していた。
だから、劇団員のほとんどは、本当の兄弟だと思い込んでいた。
なんで、苗字が違うんだろう?何か複雑な事情があるのかな?
そんな風に思っていた。
でも、そんなんじゃない。
織田稚成が、兄貴と慕っているだけで、血がつながっているわけでも何でもない。
でも、今でも聞けば、俺の兄貴だよって答える。
本当のお兄さんなの?と聞けば、そうだよ。と答える。
だから、みんな、混乱してた。
劇団のロゴマークの制作をしてくれたのが礼さんだ。
舞台に来ては、色々と言ってくれたのが礼さんだ。
一番の思い出は、織田とバンドを結成したときのことだ。
どうやってバンドを始めればいいかねなんて話していて。
織田さんが、礼さんに相談だなって言いだした。
おいらは、礼さんに電話して、織田さん抜きでサシで渋谷で吞んだんだよ。
お前はバンドで何がしたいんだよ?って聞かれて。
結構、あけすけに、話した。
ロックやりたい!って、なんかダサく思えるとか、ロックな礼さんに向かって言ったもんな。
なんで、そう思えるのかとか結構、ちゃんと話した。
最後に、「わかった、そこまで言うなら、力を貸すよ」って言ってくれたんだ。
最初のライブにはギターで出てもらったし、そのあとも何度もゲスト参加してくれた。
麻雀もやったなぁ。
やけに引きが強くて、うまいわけじゃないんだけど、負けない人だった。
普通に大三元とか狙っちゃうんだもんな。
面白い麻雀を打つ人だった。
礼さん。
寝てた。
頭をなでた。
東北の訛りのきついお母さんとたくさん話した。
献杯した。
泣いたりもした。
すぐ起きだしそうだなって、何度も思った。
すぐ起きだしそうでしょって、何度もお母さんが言った。
礼さん。って何度も呼んでみた。
病院にお見舞いした時。
酒は別に思わないけど、煙草はすいてぇなぁ~って言ってたね。
部屋をお暇してから、目いっぱい、煙草を吸いこんだ。
雲一つない夜空。
浮かんだ月は、ほぼ満月。
ほら ねえ 見てごらん
早く ねえ こっちへ
今夜、空に穴が開いたよ
僕らが通り抜けられそうな
調子に乗ってるぜ
運のいいエンジェル
また思い出しちゃう
優しくされたこと
満月を見て、鼻歌が漏れる。
あの空の穴の向こうに行っちゃうのかな。
あんなに、眠っているみたいな顔をしてるのに。
お月様お願い あの人を返して。
雲がない。
明日は晴れるだろう。
帰宅して明日の準備をしなくちゃいけないのに。
礼さんの写真でなんか、ぺこぺこポスターを作ってた。
もう印刷なんか間に合わないのにさ。
劇団ロゴもバンドロゴも礼さんが作ってくれた。
最後ぐらい、なんか、作らなきゃって、なんか衝動で作ってた。
色々いじってたけど、結局、シンプルになってた。
いつも、自分のライブは、礼さん、チラシとか作ってたなぁ。
明日は、織田さんも来る。
一緒に汗を流す。
たぶん、礼さんのことばっか話すことになっちゃうよ。
わかってます。
お前はお前のやりたいことやれよ!
って、そう言われるもんな。どうせさ。
言われなくてもやるけどさ。
やるけどさ。