2019年03月22日

風の音を聞いた日

朝、スマフォの目覚ましが鳴らなかった。
前にもそんなことがあったぞと調べてみたら。
後から気づいたのだけれど、祝日はならないように設定されていた。
土日は鳴っても祝日は鳴らない。
本来便利な機能が仇になった。
予定していた電車には乗れなかったけれど。
別のルートでお彼岸の墓参りに向かった。

片道でなんだかんだ待ち時間も含めたら2時間半以上かかる。
バス、電車、タクシー、色々と乗り継いで田舎のお寺に着いた。
お墓の掃除をして献花してお線香を焚いて手を合わせる。

母親は足を痛めてから、大分、歩行速度が落ちた。
年齢から考えれば当たり前なのかもしれない。
気にしながらお寺からの道はタクシーではなくて歩く。
少しぐらい歩かないとかえって駄目だというのもわかる。
母方の祖母もそういえば足を痛めてから歩行速度が遅くなったなぁなんて思い出す。
あの頃はまだガキだったから遅いよ!って爆笑した気がする。
今、思えばおばあちゃんも切なかったかもなぁ。

いつも立ち寄る地の魚を食べさせてくれる店が満席だった。
待とうと思ったけれど待ち時間も相当かかるという。
諦めて移動することにした。
あまりにも海沿いの道の風が強くて、自然と風に圧されるように歩いた。
ふと見ると「OPEN」の看板。
カフェなんて書いてあって、こんなところに?と驚く。
どんどん過疎化していってるなぁといつも思うのだけれど。
別荘や新築も少しずつ増えているから新しいお店が出来ていてもおかしくはない。

入ると妙齢のご婦人がやってますよぉなんていう。
新しく出来たのか尋ねると、30年以上、ここでやっているなんて言う。
一瞬で思い出した。
確かにここには立派な空色のカフェレストランがあった。
規模を小さくして改装していた。
余りにも外観が変わっていたからいつも素通りしていた。
ああ、店仕舞いしたんだなぁと思い込んでいた。

ランチセットを食べた。
サラダもスープも、最後のコーヒーまでどれも美味しかった。
地のモノじゃないけれど、こんなランチだってそんなに口にするものじゃない。
パンもチーズケーキも全て手作りだった。
コーヒーさえ、その場で焙煎して一杯ずつ淹れていた。

母親とどんな会話をしたか覚えていない。
会話をしない時間もいっぱいあった。
移動で寝ている時もあるし、スマフォをいじる時もある。
むりやり会話をするようなことはあまりしない。
ただ普通にそこにいるっていうだけだ。
他愛もない会話をするだけだから、結局、あまり覚えていない。いつも。

最後の最寄りの電車で母親が電車で寝ているのを見る。
多分、家族というのはこういう隙だらけの姿を見せられる関係なのだと思う。
肩肘を張ったり、せっせと孝行するようなのはなんだか自分の中では違う。
当たり前にそこにいられないようじゃなぁって思っている。
空気のような存在でいい。

自分にとって父も空気のような存在だった。
特別に会話をしようともしない。
でもね。
その空気がなくなった瞬間、どれだけ息苦しかったか。
空気がなくっちゃ生きていけないじゃないか。

律儀にあれほど遠い地の墓参りを繰り返す母親。
自分も毎回は付き合うことが出来ない。
盆正月、春と秋のお彼岸、命日。
亡くなってしばらくは月命日も通っていた。
行けるなぁという日は行くようにしているけれど。

お墓は自分のひいじいちゃんが住職をしていたお寺にある。
そこにおじいちゃんがお墓を立てた。
そのお墓におばあちゃんと、おばちゃんと、お父さんが眠ってる。
だからお墓参りをした時は、ひいじいちゃんのお墓も含めて全てに手を合わせる。
自分は父親に似ていると言われるけれど、じいちゃんにも似ていると言われる。
でもどうやらひいじいちゃんに一番似ていると年寄に言われたことがある。
どんだけ強い遺伝子なんだか。隔世遺伝にもほどがある。
そんなことを聞いたことがあるから、ひいじいちゃんにも手を合わせないわけにはいかない。
お寺を継いだじいちゃんの弟のお墓にも。

母親が、映画のこと、お願いした?って聞いてきた。

ん?したよ。
そう答えた。
亡くなった人がどうかしてくれるなんて期待しないけどさ。
亡くなった人たちの何かを受け継いで、映画に辿り着いたのは間違いがない。
生きている母親が映画を楽しんでくれたらいいさ。

春の野花がたくさん咲いていた。
ボケの花が、白に桃に赤に咲いていた。
名前も知らないような花も咲いていた。

帰宅してPCを開く。
今日やるべきことをやっておこう。
海のそばにある街で風に吹かれながら花を見た日も。

戦いの日々は続いているのだから。

空から聴こえてきたヒュウヒュウという風の音がもう一度頭の中で鳴った。


映画「セブンガールズ」
公式サイト:http://sevengirls.info/
2019/5/18~24
横浜 シネマ・ジャックアンドベティ:http://www.jackandbetty.net/

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posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 03:20| Comment(0) | 映画公開中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする