2019年02月23日

新しくて懐かしい

金曜の夜、ちょっと観に行ってみるかと横浜黄金町に向かう。
かつての金曜夜の黄金町はまさに娼婦の街だったわけだけれど。
今は大分変っていると文字だけで知っている。
でもそれは文字や写真だけで体で感じていない。
そこにいる人の匂いが見えていない。

京急は国内の列車の中でも速いと聞いたことがある。
駅のホームのベンチに座っていて急行が通れば体の大きい自分でさえ揺れるほどの空気圧が来る。
各駅停車でもそれはあまり変わらなくていつも乗っている電車とは違うスピード感を感じる。
普通の電車よりも、工業や物流に根差した電車なのだ。

今になって大阪での上映の時に神戸に行った意味が出て来たなぁと思う。
実際にその地に降り立って空気を感じて匂いを感じればわかることがある。
江戸と横浜、大阪と神戸。
二つの関係性は似ているというよりも同じものを目指していることがすぐにわかる。
江戸も大阪も「水の街」だ。
水路、お堀、河川が複雑に入り組んで水路が発達している。

江戸時代当時世界最大の都市だった江戸の物流を支えたのがこの水路だ。
だとすれば鎖国国家が開国に踏み切った時に、なぜそのまま江戸や大阪に港を創らなかったのか。
その理由はたった一つで、つまり国防だ。
あまりにも便利な水路は逆を言えば都市の中枢まで簡単に進出できるという事。
開国する時に都市部からある程度の距離がある場所に国際港を計画的に開いたということだ。
横浜も神戸も開港時どこにでもある普通の農村だった。
地形的に港を創りやすく、都市部に近く、広く倉庫を置くことが出来て物流計画を立てられる。
まったく同じ目的、同じ図面、同じ目標で創られたのが神戸と横浜だ。
都市部から少し離れた場所にある国際都市を計画したのだという事がすぐにわかる。

黄金町はその水路、河川に囲まれた土地だ。
今は埋め立てられた川と大岡川の間に位置する。
かつての青線地区、違法売春が行われたのがこの大岡川沿いだったと聞く。
今はすっかりそんな店は影もない。
じゃあ静かになったのかと聞かれたらそれも違う。
ベッドタウンでもないけれど人通りは切れないし、車の数も多い。
飲食店も数多くあって、けれど都内の繁華街とはやはり匂いのようなものが違う。
違法売春の店が撤廃されても、風俗店は今も数多く存在している。
かつてこの街にも焼夷弾が落ちて、瓦礫があって、闇市が出来て、パンパンがいた。
そして、他のどの土地よりも数多くの米兵がここにいた。
そして歴史的に見れば新しい街だ。

東海道を見れば、川崎、神奈川、保土ヶ谷、戸塚、平塚になる。
今の横浜、関内などの中心部は宿場でもなく通り過ぎていく村だった。
京急で生麦という駅名がアナウンスされたときにもハッとした。

静かではあった。
新宿や渋谷や池袋とは明らかに違った。
けれどどこか人間の汗のにおいがこびりついているような感じがある。
飲食店も国際色豊かだった。
黒塗りの高級車がふと見ると堂々と路上駐車している地区もあった。

地図を見ないでうろうろと地区を回ってようやく映画館に到着した。
地図を見ればすぐに到着するけれど、自分にはどうも地図を見ると土地勘がつかない。
なんとなく歩いて、この辺りかなぁ?なんて考えながら道々色々なものを見つけたりする方が良い。
細すぎる道や、少し隠微なネオンが集まっている場所や、飲み屋が集まっている場所がある。
そんな風になんとなく街の形をみつけていくうちに。

横浜 シネマ・ジャックアンドベティの前にいた。

映画館のHPでスクリーンや客席の写真を観て綺麗な映画館だなぁって思っていた。
K'sシネマも街はあの新宿のすえた感じなのに内部はとってもきれいだったから似たイメージだった。
けれど本当に映画館の前に言った瞬間にその考えは吹っ飛んだ。
一階に入っている飲食店は小綺麗だし、看板だって全て新しくなっているけれど。
間違いなくそこは自分がかつて少年の頃に通った映画館の匂いを残していた。
あの頃のミラノ座であるとか、二子玉川にあった東急のような。
あの固いリノリウムの床と、そこに響く足音が、懐かしかった。
図々しく階段を上がってロビーまで進む。
上映中の映画の音が微かに聴こえる中、ディスプレイされたポスターや飲食、物販を観ていく。
新しさと懐かしさが混在している。
まるでそれは横浜そのものじゃないか。

まだセブンガールズのポスターもチラシもない。
もちろん予告編が流れていることもないはずだ。
受付に立つスタッフさんに声をかけるのは控えた。
顔をネットで見かけた支配人さんがいらっしゃったら声をかけないとと思ったけれど。
仕事の邪魔になってはいけない。
ベティで上映している映画の終わりが近づいてきて、チケットを買いに来た人が現れ始めた。
話題作の金曜のレイトショーはどのぐらい来てくれるんだろう?なんて気にした。
お客さがたくさん来たら邪魔になると思って、映画館を出ることにした。

さてどうするか。
終電までは時間があるけれど、ここから帰るのは流石に帰宅が遅くなる。
来た道ではない道を歩きながら今日の所は帰宅を選ぶ。
すれ違う人がいるたびに、映画館に入っていくのか確認してしまう自分がいた。

目標の一つだった神社を見つけることが出来なかった。
どの土地で上映する場合も近くの神社に成功祈願をしている。
どうやら駅の反対側にあるようだった。
それはチラシやポスターを周囲に撒きに来た時にまた行くことにした。
なにせ、まだまだ上映まで時間はあるのだから。

もう一度電車に乗る。
セブンガールズを観て。
あの女たちに逢って。
あの女たちの歌を聴いて。
その帰り道であればこの街はきっと違った街に見えるだろう。
そう思った。

あそこにはかつて3つも映画館があったのだ。
黄金町、若葉町、日乃出町、曙町、伊勢崎町
こんな距離感だったんだなぁと電車の中で思い起こす。
中華、洋食、韓国、家系、食文化も国際色豊かだった。
明治の夜明けの牛鍋の匂いがただようような店もあった。

新しくて。
懐かしい。

そんな場所だった。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 04:49| Comment(0) | 映画公開中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする