2019年02月21日

過去を思うこと

横浜シネマ・ジャックアンドベティでの上映は公開の頃からずっと思っていた劇場だった。
どんなところで上映されるかねぇ?なんて話の中で必ず出てくる映画館だった。

最後のパンパンと呼ばれている人を知っているだろうか?
横浜メリーとか、白いメリーさんとか、中にはマリーさんとか様々に呼ばれている。
横浜地区に明るい出演者も何度も街で見かけたという。
いわゆる横浜の街の有名人だ。
白粉を顔に塗って真っ白のもう老婆と言っていい娼婦が横浜に実在した。
本になり、映画になり、伝説になった。

パンパンとはいわゆる米兵に体を売る街娼を差す蔑称だ。
侮蔑の意味が含まれているけれど、実は自分たちでも名乗ったり、少女が憧れたなんて記録も残っている。
そういう意味では蔑称だけではなくて、通称でもあった。
そして、その米兵が最も多かった地域が横浜だ。
・・・いや、沖縄(そして小笠原)を除けばだけれど。
実際、沖縄を除けば、横浜は日本全体の6割の土地を接収されていたのだという。
マッカーサーが滞在したのも横浜のホテルだったわけだし、非常に米軍基地に近い。
東京五輪の時期に開放されていったわけだけれど、今も、厚木には基地がある。

父は福生で育ったのだけれど、福生にはずっとパンパンがいたと聞いている。
今も米軍基地がある場所にはパンパンがいるという事だ。
前述した沖縄にももちろんいるということだ。
横浜が接収されたのはその歴史的な背景による。
明治維新に至る幕末期、横浜港開港がそのスタートだった。
江戸時代の終わりから横浜は外国人が滞在する街だった。
品川横浜間には日本最初の電車が走った。
日本にとって世界に繋がっている最大の港だった。
シネマ・ジャックアンドベティも、掘り起こせば米軍基地だった場所にある。

野毛地区の闇市、戦前外国人相手に仕事をした遊郭、寿町のドヤ街。
米軍だけではなく、中華街を始めとしたアジア系の街。
長崎や神戸よりもずっと規模が大きかった日本最初の国際都市。
終戦直後に大量の米軍兵士が上陸したのが横浜だ。
多くの都市の闇市の混雑が物語になっているけれど、そこに更に国際的な混雑があったという事。
例えば「GIベビー」で検索するだけでたくさんの悲しい物語が出てくる。
それが横浜だ。

もちろん暗い側面だけではない。
明治期から残っている数多くの洋館もある。
世界への窓口だったからこその、その後の発展もある。
そして国際色豊かだったからこそ生まれた文化も数多く残っている。
黄金町で有名だった青線の名残の違法風俗は浄化計画で撤廃されている。
今、シネマ・ジャックアンドベティがある黄金町界隈はアートの街に生まれ変わっている。

先日、シネマ・ジャックアンドベティに足を運んだお客様が写真をSNSに載せていて。
そこには「肉体の門」のポスターが展示されていた。
永井荷風じゃないけれど。
人間の持つ本質的な本能的な部分は完全に消し去ることは出来ない。
どんなに浄化して綺麗な街にしたって、そこには歴史があって匂いのようなものが残っている。
そして、その匂いを愛している人がこの街にはいまもいるということじゃないだろうか?

終戦直後。
人が集まる街には当たり前のように闇市が出来ていった。
そしてその闇市は、やがて飲食店街、興行関係、特殊飲食店街になっていく。
この興行関係の建物はやがてストリップ小屋や劇場、映画館になっていった。
特殊飲食店街はいわゆる赤線・青線と呼ばれた風俗街だ。
だから全国の歴史ある映画館に行けばどこに行ったってセブンガールズは土地になじんでいくと思う。
映画館とはそもそもそういう土地にあったのだから。
それでも、ここまで米軍兵士が多かった地区は沖縄を除いて他にない。

とある著名な方にセブンガールズを観て欲しいと連絡した返信に書かれていた。
自分は「横浜出身だからパンパンという言葉に馴染みがある」という一文。

メリーさんにはいくつかの美しい伝説が残っている。
結婚を約束したアメリカ海軍の将校をずっと横浜で待っているんだという話。
それが本当なのか嘘なのかなんてどっちでもいいと思う。
メリケン波止場をバックに唄われたブルースがたくさん残っている。
そういうことと同じことだって思う。
そこにいつか誰かが思いを馳せる。
それが文化が持つ役割なのだから。
だから生まれた物語の真贋なんてどうでもいい。

セブンガールズを黄金町で鑑賞した帰り道。
どんな風に街の景色が写るだろう?
かつて、そこに立っていたかもしれない娼婦たちの影が、笑い声が、匂いが。
風に乗って感じるかもしれないよ。
朝鮮戦争に向かったジョニーを待つ女の涙がふいに見えるかもしれないよ。

意外に明るくて自由だったよ、パンパンは。
女学校を出たインテリも多かった。
そんな証言も数多く残ってる。

暗い歴史なんて言ったらいけないんだと思う。
それを知り、それを感じて、それも肯定して。
今を生きる自分を思って。
未来を生きる誰かを思えばいい。
メリーさんが年老いても横浜を離れなかった理由に思いを馳せればいいと思う。

戦争映画のような暗い物語ではないセブンガールズを黄金町で上映する。

自分はこれはきっと未来を照らすことなんじゃないか。
そんな意味があるんじゃないか。
そんな風に思い始めている。

暗い、悲しい話も、たくさんたくさん知りながら。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 03:53| Comment(0) | 映画公開中 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする