前日の小春日和から打って変わって、差すような寒い日。
誰もが背中を丸めて足早に歩いている。
翌日の降雪の予報を横目に下北沢に向かう。
自分の知っている下北沢の金曜日とは思えない閑散。
金曜日の下北沢は、いつもならまっすぐ歩くことさえできない。
人波をかき分けて進むような街だ。
舞台公演期間に飲み屋を探しても、何軒も回らないと空いていない。
それがこんなにヒトケがない金曜日の下北沢とは。
この寒さでなのか、三連休の前だからか、雪の予報がそうさせるのか。
それはわからないけれど当日券が伸びていないであろうことは予想できた。
そんなことは当たり前の事なんだと言われる。
映画だって、遊園地だって、飲み屋だって、なんだって。
娯楽は天候に左右されるのは当たり前のことなのだ。
小劇場という前売券をメインとした場所にいたからそこに鈍感なのかもしれない。
それでも、やっぱり自分の中では大きく凹んでいく。
本当に興味深い映画であれば、天候にも左右されないんじゃないだろうか?と考えてしまう。
もちろん、応援してくださる方は来てくださる。
けれど、どんな映画だろう?と興味を持ってくださった方は、次の機会になってしまう。
その興味がもっともっと強くなれば、逆に今日ならすいているかな?って考えるんじゃないだろうか?
劇場に到着して着替える。
翌日以降の二週目のプレゼントカードが届いていた。
デザインはご来場いただいた方の写真でわかることになる。
考えてみれば毎日映画館に来ているけれど着替えるのは初めてだった。
いつもカメラを構えているから着替える必要性がなかった。
場内から拍手が聞こえた。
ひょっとしたら街の様子を想えば数人しかいないんじゃないかと思ったけれど。
今日も新しいお客様と、いつものお客様と、そこで待っていてくださっていた。
それでも、やはり今日までの下北沢トリウッドでは一番少なかった。
不思議なのだけれど。
その少ない人数の皆様に、絶対に楽しんで帰ってもらおうと腹の奥に火が点いた。
たくさんのお客様で燃えるものとは、また別のものだ。
今日ここにいる人だけで共有できる何かを胸に帰っていただかないと。そう思った。
まだ映画を観ていない人にはネタバレになる話をたくさんした。
作品の中で役者が生きているとすれば、全ての役に主観がある。
今日は、猫という役の主観からの物語を、なるべくわかりやすく丁寧に話していった。
このシーンで猫はどんなことを感じていたのか、どんなことを思っていたのか。
ただそれを話すだけではなくて、役者が演じながら生きることを、嘘がないことを話した。
うまく話せただろうか?
そればかりはご鑑賞いただいた皆様の感じたことだからわからないけれど。
最後まで皆様が何度も頷きながら、時には笑って、拍手で終わるまで聞いてくださったことだけは間違いがない。
カメラマンをしてくれた仲間と軽く飲みに行く。乾杯程度だ。
やはりすんなりと席が空いていて座れた。
その上、まだ空いている席もあった。
今晩から雪が降るわけではないのだけれど、気にしているんだろうか?
明けて朝から雪が降る予報だ。
都心部でも積もると言われている。
音楽の吉田トオルさんの登壇が決定している。
UPLINK、シアターセブンに続いて3回目だ。
お願いして、スケジュールの都合があったのが3回目という事だ。
中々登壇していただける方じゃない。
雪が降っても行きますよ!と言ってくださるお客様がいらっしゃる。
なんて嬉しいことだろう。
そんなお客様のことを想えば、なお、当日券が伸びない天候が気になっていく。
今現在セブンガールズの上映予定はこの下北沢トリウッドのみだ。
次の金曜までで上映が終わってしまうかもしれないのだ。
もっともっと上映機会を設けたいけれど、その為にはやっぱり動員だって大事だ。
けれど、その動員の半分を担う当日券がもろに天候に左右されてしまうのだ。
昼間、懐かしいメールが来て。
今日までの上映をもう一度思い返していた。
今日登壇して改めて思った。
こんな映画あるもんかと。
出演者の殆どが10年を超える思い入れを持った映画なんてこの世の中にあるだろうか?
監督にとっての思い入れだけならあるかもしれないけれど。
ここまで思い入れが重なった作品なんかない。
今日、舞台も来てくださるお客様が言った。
僕は舞台のセブンガールズは初演しか観ていないんです。
ああ、そういうお客様もいらっしゃる。
もう14年も前の話だ。いや年が明けたんだから15年だ。
お客様さえ、そんな思い入れがある。
あの舞台が、こんな映画になった。
そんな思いが込められている。
雪なんて溶かしてやる。
この熱でドロドロに溶かしてやる。
映画が終わった頃には少しぐらい積もった雪なんか全て消し去ってやるさ。
一体何人の思いを、何年間の思いを、自分は背中に背負っているのさ?
映画を越えてる。
映画を越えた映画だ。
これを目撃しておかなくては、きっと、後悔するぞ。
そのぐらいまで思い込んでいる。
雪景色もいいさ。
そんなに悪いものじゃない。
今年はまだ見かけていないしね。
少しだけ肩の力を抜いて。
・・・「Duet」が聴こえてきた。