舞台っぽいとか、LIVE感があるという感想の中で、これは!と思う感想があった。
それはロビーで、どちらかと言えばご年配と言えるようなお客様の一言だった。
その方の感想は、懐かしい空気があるとか、楽しかったと嬉しそうに話されていたのだけれど。
昔の映画みたいな空気があるわよと、口にされた。
自分の中で、ああ、ご高齢の方に響くものがあるんだなぁということばかり考えていた。
雑魚寝であったり、木造建築やトタン、さすがに終戦直後の記憶はないような年齢だったけれど。
それでも、自分の記憶にある風景や、感触、空気感があるのだなぁと思っていた。
けれど、ふと「昔の映画みたいな空気」というのは、それとはまた違った感想だとふと思った。
それは、もしかしたら、今のお客様の言う「舞台っぽさ」や「LIVE感」かもしれないと。
懐かしさというものと同時に、昔の邦画の雰囲気がどこかに残っているのかもしれないぞと。
面白いもので、多くの映画が、「昔の映画のような感じ」を目指す。
例えば、編集してからのカラー調整で、デジタルの映像をよりフィルムの感触に近づけたりする。
あえてノイズをのせる人もいるし、昔のレンズを使うカメラマンさんもいる。
どこか昔の映画に近づけるような「加工」が今でも行われていることだ。
でも、きっと、そういうことじゃないんだと思う。
それはつまり「一回性」のことなんじゃないかと、ふと思った。
よく舞台の俳優は「映像は撮り直せる」と口にする。
舞台はやりなおしが効かない一回性の芸術なのだと言う。
それはもちろんその通りだし、異論は一切ない。
けれど、今と昔では、まるで違う側面がある。
今は撮影してもデジタルだから、ハードディスクに記憶する。
デジカメと全く同じで、ワンクリックで削除できるし、やり直しも出来る。
けれど、昔の映画は、フィルムでの撮影だった。
考えてみて欲しい。1分間の24枚の写真を撮影するのと同じことなのだ。
そしてフィルムは上書きも修正も出来ない。
ほんの数分であっという間に数万円が飛んでいく。
フィルム時代にNGを出すというのは、つまり、予算を削ってしまう事だった。
だから、監督もスタッフも鬼気迫るものがあったはずだ。
例えば騎馬が走るような乱戦でも入念に何度もリハーサルをして、煙ひとつまで神経を使って。
全て問題がなければ、じゃあ本番です!と始まる。
それはもう舞台以上の一回しか出来ないという場面だって何度もあったはずだ。
ここは撮り直しが出来ないからね!というシーンも昔の映画にはいくつもあった。
例えば、予定になく馬が立ち上がって落馬してしまっても、役者はNGにならないように対応しなくちゃいけない。
その役になり切って、その役が馬から落ちたという芝居をカットがかかるまで続けなくてはいけない。
まさに、それはLIVEの撮影だったという事だ。
「セブンガールズ」という映画は撮影期間が短いことから、NGは許されなかった。
その為に事前に入念にリハーサルを繰り返し、いつでも芝居が出来る準備をしてあった。
本番!と一度声がかかったら、何が起きても続ける。
そういう中で、撮影に挑んだ。
もちろん、結果的に撮り直したシーンがなかったわけではないけれど、とても少ない。
テクニカルな・・・例えばノイズが入ってしまったなどを除けば、数える程度しかない。
自分たちは舞台を何度もやっているのだから、出来るに決まってるし、出来ると言い張った。
顔にハエが止まっても芝居を続けているのだから、絶対に芝居を止める気がなかった。
それは、そのままLIVE感に繋がっているんじゃないだろうか?
一回性の芝居を撮影したのがセブンガールズなんじゃないだろうか?
その映画を年配のお客様が観た時に、昔の映画の雰囲気があると口にした。
昔のフィルム調の加工をしたわけでも、昔のレンズを使用したわけでもないのに。
エフェクトではないとしたら、シナリオと芝居しか残ってない。
絶対に一発OKで芝居をする。と考えている映画俳優は多い。
それでもどこか無意識に、撮り直しが出来るという感覚は残ってしまうはずだ。
それは自分だって同じで、目の前にお客様がいなくて記録なのだからと無意識には残る。
けれど、今回はもう強迫観念に近い感覚でNGは出さないと決めていた。
それは自分のNGが映画の未完成に繋がる可能性があって、他の誰かの迷惑になる可能性があったから。
無意識的なNGは大丈夫だろうなんていう隙間すら許されない環境だった。
もし、撮影スケジュールに余裕があったら、もしかしたらどこか緩んだ芝居になっていたかもしれない。
多くの映画監督が、映画の中のリアルについて、様々な角度から考えていると思うけれど。
舞台っぽいという感想は、実はその答えの一つなのかもしれない。
人生は一度きりなのだ。
撮り直せた瞬間に、それは嘘になる。
撮り直しているドキュメンタリーなんてないのだから。
今のデジタルになってからの映画を多く目にしているお客様ほど、この生々しさは別の何かを感じたのかもしれない。
その何かを表現する時に、一番手近な言葉が「舞台」だったんじゃないだろうか?
そのぐらい映画を何度観ても、舞台俳優の自分の目には舞台の要素が見つからないのだから。
ワンカットムービーは、その答えの一つだと思う。
ふと。
役者の感想を聞きたいなぁと思った。
出演者以外の役者の感想をあまり耳にしていない。
映画俳優はセブンガールズを観たらどんなことを思うのだろう?
プレイヤーの感想は、きっと、今まで聞いた感想とは別のものになる。
それが今から楽しみでしょうがない。
そういう機会はやってくるだろうか?
この映画を観た女優は誰もが演じたがるんじゃないだろうか?
そんな気がしている。
妄想かもしれないけれども。
これを演じることは役者をやっていれば魅力的に映るんじゃないだろうか?
演技ではなくLIVE。
技を超える生。
少なくても自分は昔の邦画を観ると、演じてみたいと感じるのだ。