大阪での上映も後半に入った。
残りの日数もわずか。
前日に登壇したメンバーが一泊して今日も登壇。
女二人旅は、どんな内容だっただろう?なんて想像をしながら今日も一日過ごす。
やっぱり、時計を見ては、もうすぐ上映開始だ、もうすぐ登壇かなとずっと気になっていた。
普通の映画関係者は、どうなのだろう?
自分の住む街とは別の街での上映をこんなに気にすることもないのだろうか?
同時にいくつかの映画館で上映されていることもあるだろうし、そうなのかもしれない。
登壇したメンバーからバスに乗ったとの連絡が来る。
登壇して、そのまま高速バスに乗るというスケジュール。
かなりのギリギリだったんじゃないだろうか?
少なくても自分は金曜日に登壇するけれど、当日に乗れるバスは予約でいっぱいだった。
週末という事もあるけれど、事前集合の時間に間に合うバス自体が少なかった。
11月1日の映画の日は出演者の凱旋上映になる。
今日なのか当日なのかはわからないけれど、実家に帰って。
両親と顔を合わせて。
そこから、映画館にやってくるのだと思う。
そうじゃないとしても、映画が終わったら両親と水入らずの時間がやってくる。
自分が生まれ育った町で、自分の出演した映画が上映される。
業務試写をした日だった。
試写会が終わって、後は公開を待つという中で、何人かで呑みに行った。
そこにプロデューサーも参加してくれて。
公開に向かって、ああでもない、こうでもないと話していた時だった。
プロデューサーに直接電話が入って。
大阪での上映が決定したという速報が入った。
まだ日程も時間も詳細が出ていなかったから、発表できるような段階ではなかったけれど。
確かに、上映が決まった瞬間だった。
その席に、坂崎愛がいて、その席で発表をした。
瞬間的に涙目になって、どうしよう!どうしよう!と何度も言っていた。
自分は関東で生まれて、関東で育って、関東で芝居を続けている。
それまで何人もの関東以外出身の仲間がいて、一緒に芝居をしていたけれど。
こういう瞬間に立ち会ったのは初めてだった。
自分にとっては生まれ育った場所で芝居をすることが当たり前だった。
でも、それが当たり前のことじゃないんだなぁと、つくづく思った。
もちろん、関東まで芝居を観に来てくれることはあるだろうけれど。
きっと、それとは全然、違う感触なのだと思う。
長く大阪を離れているだろうから、もう地元にいない友達も多いと思う。
付き合いだって途絶えてしまっているのかもしれない。
だとしても、親御さんだけだとだって、全然違うんじゃないだろうか。
故郷に錦じゃないけれど。
それがどんな思いなのかも、関東出身者は想像で補う事しか出来ない。
どんな思いで帰郷して、どんな思いで登壇するのだろう?
一生忘れられないような日になるといいなぁと勝手に思っている。
それはきっと映画館にいるお客様にしかわからないことなのだろう。
自分は登壇している頃に、ようやく入れ替わるように東京を出発するのだから、観ることも出来ない。
彼女を子供の頃から知っているような人が足を運んでくださったりしたらいいなぁ。
きっと、明日は気持ちがいつも以上に忙しい。
そんな思いを想像しながら。
自分はバスに揺られて、一人で西に発つのだから。
大阪が決まった日。
目の前に凱旋する喜びに涙をしているのをみていたけれど。
実は、自分も叫びたいほど嬉しかった。
当初の打ち合わせから、東名阪での上映をまずしたいと話していたから。
それで、探してくださっていた配給担当さんも知っていたから。
ああ!本当に大阪に行けるんだ!とぶるぶるっと震えたんだ。
大阪での上映は、目標だった。
そして、毎日毎日、映画館の担当さんのことを連絡で聞いて。
写真や、動員数も、連絡をもらって。
そういう中で、あれほど願った自分が未だにお会いできていないことを申し訳ないと思っていた。
ようやく、あの写真の映画館に自分は向かうのだ。
皆と違って、観光計画も立てていない。
行きと帰りの足だけ予約して。
あとは、行き当たりばったりでいいと思っている。
とにかく、行って、出会わないと気が済まないのだ。
それから考えればいい。
というか、観光計画も食べたいものも、考えても頭に浮かばないのだ。
こんな気持ち、うまく言えない。
自分の中で、大阪で上映されることだけが目的になっているのだ。
もしかしたら、もう気持ちだけは、西にいるのかもしれない。
それとも、映画の中で生きているあの男が、風来坊にさせているのだろうか。
あの男も、あの子の帰郷は嬉しいだろうしさ。
信じられないよ。
ただ夢見ただけなのに。
映画になって、大阪に行くんだ。
一人旅一座さ。スーツケース一つの寅次郎さ。