劇団という団体は、その公演の全てをやる。
企画をして、劇場を借りて、スタッフさんに連絡をして、仕込みをして、バラシをして、打ち上げまで。
とにかく、公演が決まればその全てをやっていかなくては、公演にならない。
最近は、劇団でも、外注に出すことが増えているけれど、基本的にはなんでもやるものだ。
その中で「コヤウチ」という仕事がある。
これは、劇場側との打ち合わせをすることだ。
劇団側、舞台監督、小屋付きさん、集まって打ち合わせを事前にしておく。
もちろん、自分たちも毎回それをやってきた。
大道具はどんなものになるのか?搬入経路、劇場ルール、公演内容。
必要な話し合いは多い。
映画であれば、コヤウチというのがあるとは思えない。
大道具もない、劇場に役者が常駐しない、搬入もないし、公演内容は事前に観ることが出来る。
あるとすれば、配給さんと劇場側の交渉事、約束事、宣伝などだと思っていた。
製作側だったりすれば、そこはお呼びじゃないだろうと。
いや、実際にそうなんじゃないかと思う。多くの映画の場合は。
製作側が公開に関して何か発言すれば面倒なことにもなりかねない。
そう思っていたのに、まさか、打ち合わせに呼ばれることになった。
それも、上映館から。
ちょっと驚いた。
映画上映前の映画館での打ち合わせに参加したことのある俳優なんているのだろうか?
これは、すごい経験なんじゃないだろうか?
世の中の俳優で、映画上映前に配給さんと映画館でどんな打ち合わせがされているのか、知っている人がいるだろうか。
台風の予報だったけれど、これは朝になったらいないぞと予感していた。
こういう日に、ぶつかるはずがない。
思った通り、台風は去り、早めに新宿の街に降り立つ。
待ち合わせの時間よりも前に映画館の周りをぐるっと回ってから、少しクールダウンする。
あまり高揚しすぎていても、打ち合わせにならない。
ああ、ここで上映するんだなぁと思いながら、一度、頭を冷静にしてもう一度待ち合わせ場所に向かった。
上映中の映画館のロビーには、「セブンガールズ」のポスターが飾ってあった。
上映作品についてのパネルが大きく飾ってあって、映画のチラシが置かれている。
心地よいロビーの空間、そこから事務所に案内されて、打ち合わせが始まった。
配給のお二人、プロデューサー、そして、K'sシネマのお二人。
自分のような人間がそこにいることの違和感を押し殺しながら、打ち合わせは続いた。
自分なりの提案はきちんと出来ていただろうか?
打ち合わせの、隙間に、合間に、映画の話が出る。
何十年、映画の世界にいるんだろう?興行の世界にいるのだろう?
にじみ出てくる映画を愛している感じが、自分に染みてくる。
様々なことが、トントンと決まりながら、同時に様々なことが腑に落ちていく。
K'sシネマという映画館そのものにファンがついていることも。
話題作が上映されていることも。
映画のジャンルを限定していないことも。
ああ、こういう人当たりの担当さんがいるんだと、感じていく。
あるいは、それは役者の視点なのかもしれない。
人の持つ匂い、温度、感触、まとう空気。
そこには、その人の全てがある。
昭和館という単語を口にした時の、あのほころんだ笑顔を忘れられない。
今朝データで届いた予告編は、すぐにでも流してくださると言ってくださった。
今週末から、スクリーンでセブンガールズの予告編が流れる。
スクリーンでわずかながらも、セブンガールズを観ることが出来るようになるのだ。
こんなに素早い対応をしてくれるなんて。
打ち合わせが終わってから、純喫茶に入る。
煉瓦の壁、シャンデリア、ベロアのソファに、銅のテーブル。汗をかいたアイスコーヒー。
まるで、パンパンがふらりとやってくるようなその店で。
打ち合わせ内容の整理と、それ以外に必要な話をまとめながら。
気付けば、映画の話をいくつもしていた。
劇場さんの映画愛を全員が感じていたから、それに当てられたのかもしれない。
配給さんが最初に観に言った映画の話をして、ジャッキーチェンの話もした。
映画は人生だ。
人が生きてきた歴史の一部になってしまう魅力を持っている。
セブンガールズの話にもなった。
あの撮影現場の話をプロデューサーが口にした。
全員がスケジュールを把握して、出番が近ければ用意して待機して、空いている役者は手伝って。
そんな現場は見たことがない。すごかったと配給さんに話していた。
なんだか、恥ずかしくて、いつもやってることなんですとしか言えなかった。
解散して電車に乗る。
ひょっとすると?と思ってK'sシネマのHPを確認してみた。
打ち合わせで決まった上映開始時間19:00というのが、すでに更新されていた。
作品案内には、チケット料金も記載されていた。
素早い対応どころか素早すぎる対応。
上映開始時刻の問い合わせは数多くいただいていたから、速報をTwitterで流す。
あっという間に拡散されていく。
出演者たちに一応議事録として話した内容は共有しておく。
この映画は、皆で創っているから。
次の稽古で話すとかでもいいのかもしれないけれど。
まだまだ知らない場所に、様々な人がいる。
一口に映画と言っても、監督や役者だけじゃない。
その裏には、製作や宣伝部、配給担当がいて、映画館の担当がいる。
出会えていないけれど、映画館には映写技師さんもいるし、受付さんだって、掃除をしている方だっている。
映画を観て評論する仕事の人も、映画について記事を書くライターさんもいる。
映画の雑誌の編集さんもいるし、新聞の文化欄で映画を担当している人もいる。
全国の映画館の動員数をまとめている人もいて、海外に映画を売り込む人もいる。
公開できぬままの映画だって、同じぐらいの人たちが関わっている。
動画を楽しむ娯楽の一つに、たくさんのたくさんの人たちが関わっている。
その根底に、映画に対する愛情がある。
ワクワクしている。
このわくわくは、あの映画への愛情に触れたから?
それとも、実際に上映される映画館に足を運んだから?
純喫茶で、映画の話をして笑ったから?
セブンガールズの公開が控えていて、そこに無限の可能性を感じているから?
そのどれかもわからないまま、ワクワクし続けている。
電車の中で、音楽が流れ続けていた。
自分の脳内だけで、音楽が流れ続けていた。