稽古日。自分の班は所用や病欠もあり休みにする。
他の班よりも早くから稽古を始めていたし、時間を等分に譲ることにした。
いよいよどの班も演出が始まり、時間はあればあるほど助かるはずだ。
いつもの舞台よりも、ずっと前倒しのスケジュールで動いている。
企画公演だから、いつもとは違う部分も出てくる。
自分の班は、いつもよりもずっと余裕を持った稽古で、本番の一か月前に一度完成させたかった。
完成した後に、更に手を加えていくという、いつもは出来ないことをやろうと思っているからだ。
全ての動きが出来て、通しも出来る状態にして、もう完成だね?ってところからもう一度作り直す。
そんな贅沢なことが出来れば、この企画は、面白いことになるぞと思っている。
最初に稽古していた班は、熱心に演出を繰り返していた。
監督がする演出よりもずっと細かい。
それに、自分も出演しながらの演出。
おいらの場合は、代役を頼んで、演出をしているけれど。
プレイングマネージャー方式というか、細かい部分が気になるし、空気も感じたいのだと思う。
やり方すらそれぞれなのがとっても面白い。
動きを付けながら、少し、頭が混乱してきた段階で演出が終わった。
こんなに、演出を考えるのって疲れるのか!と、口にしていた。
これもまた、良い傾向だと思う。
監督が普段、稽古場の中で、台本を書いたり演出をしたりしている。
それを、20年も続けると、どこか当たり前に感じてしまったりもする。
その場所に立ってみないとわからない景色というのは世の中にたくさんある。
自分の班が終わった後も、監督にもおいらにも、演出方法を聞いてきたりする。
まぁ、冗談ぽく話したりすることもあれば、真剣に話すこともある。
全てを細かく演出するべきなのか、ある程度役者に任せるべきなのか。
舞台上が少人数の時と大人数の時にどうするべきなのか。
後ろを向くなら、なぜ後ろ向きで、動くならなぜ動くのか。
演出方法もあるし、演出傾向もある。
どうしたって、おいらももう一人も監督の強い影響を受けているけれど。
じゃぁ、オリヂナリティってなんだろう?という問題だってある。
監督の班の稽古時間に入る。
これまで保留にしていたキャスティングも固まる。
台本も、ほぼほぼ完成。一歩手前という所。
キャスティングが決まったことで、新しい台本をやってから、ざっくりと通し稽古。
まずはどんな作品か全体像が見えてくればという所だろうか?
なるほど。
やっぱり監督の台本は面白い。
自分も台本を書いているから、構造まで見えてくる。
そもそも、監督の作品と勝負するつもりはないから、普通に楽しんでいる。
作品の演者じゃない分、少し気楽な立場で、監督の稽古を観ることが出来る。
それぞれが動き出して、台本にも目途が立った時点で、音楽の吉田トオルさんに連絡を入れておく。
日々のSNSやBLOGを見て、忙しい時期に連絡しても仕方がないからタイミングを計っている。
データで台本を送れる段階まで、細かい連絡はしないでおこうと思っていた。
今回は企画公演だから、いつもの劇伴とは少し違ってくると思うのだけれど。
それこそ、いくつものテーマ曲を創るとなると、いつも以上の曲数になりかねない。
ただ、そこはこうしてくれとお願いするよりもまずは、どんな公演か知ってもらうべきだと思っている。
漠然とはわかっていると思うけれど、実際に台本を見てもらうべきだろうなぁと考えていた。
そしたら、すぐに返事があって通し稽古を観るという流れになった。
それが一番早い。
作品の中には、もしかしたら、音先行で演出をつける作品も出てくるかもしれない。
演出後に、後から、音に合わせてというのは、もちろん出来るけれど、稽古からあった方がよりクオリティは上がる。
もしその可能性があるのであれば、音先行の曲だけでも早めにお願いできる。
台本を読む何倍もの情報量が通し稽古にはあるのだから、それがベストだ。
いつもの本公演であれば、いくつかのパターンはある。
逆に台本を読んで、ファーストインプレッションで曲を創ってしまうという方法もある。
それは、30年近い付き合いのある監督の台本だから出来ることだとも思うけれど。
それで、芝居と合わせてみて、後から調整したり、曲の追加をするというやり方。
それはそれで、どんな曲を台本からイメージしたんだろう?と楽しみでさえあるのだけれど。
今回は、こんな感じですと口で説明しなくてはいけないことが多すぎるかもなと思っていた。
まぁ、通し稽古はどの班もその頃には出来る筈だ。
もちろん、クオリティを上げていく段階には到達していないまでも。
ただ、台本を渡して読んでおいてくださいの何倍の情報も渡せるだろう。
帰り道、いくつかの情報をやり取りしながら。
自分の役者モードを立ち上げなければなと気合を入れなおす。
先行して稽古をして、完成度は上がっているけれど。
完成度のその先に行きたいのに。
唯一の欠点として、自分の芝居が残っている。
まずは、ここを調整していかないとだ。
暖かい日だった。
重いコートを脱いでも、苦にならない日だった。
先を見る。
この稽古をしながら。
この本番の更にその先を観る。
本番の先の、さらにその先にある場所に向かっているからだ。
暖かい日だった。