映画は企画を立てて、撮影から編集、公開まで時間がかかる。
俳優は、その中の撮影にしか関わらない。
だから、タイムラグがあるはずだ。
そのことを強く理解するようになってから、映画宣伝が面白くなった。
もう、俳優にとっては、撮影は遥か昔の出来事なのだ。
むしろ、その撮影後に別の役を演じていたり、宣伝中も撮影が入っているかもしれない。
それでも、出来上がった作品を観て、それを今度は宣伝しなくてはいけない。
撮影の次は、もう宣伝の仕事になるのだ。
そのタイムラグがとっても面白くて、映画の宣伝をしている俳優をちゃんと観るようになった。
もちろん、撮影中のことを思い出すだろうし、作品への思い入れもあるのだろうと思う。
それに、本心から、観て欲しいと願っているのも嘘じゃないはずだ。
そして、自分の宣伝が、監督を始めとして多くのスタッフさんのためでもあるわけで。
宣伝をしっかりやろうと思うのは当たり前のことだからだ。
そういう思いが、今、観ると、前と全然違って見えてきて、面白いなぁと感じる。
特に思うのは。
俳優が、自分の芝居に納得がいっていない時だ。
これは、うまく書けるかどうかわからないのだけれど。
作品は面白い、映画として面白い。スタッフワークも、共演者も素晴らしい。
でも・・・俳優として、自分の芝居には反省ばかりが残る・・・
そういうことって、実は当たり前だ。
自分の芝居を映像で観ることが好きな俳優って実はそんなにいないと思う。
自分の目で見てしまうと、悪い所やコンプレックスばかり目が行ってしまう。
自分の芝居に、心から納得できる日なんていつ来るのだろう?と思うぐらいに。
でも、実際宣伝の場面ではそれを出してはいけないだろうし、人には褒められたりもする。
そういうなんというか、中間に立っているような時期に宣伝している場合があって。
それが、最近は自分の目に映るようになった。
ああ、この役者は、この作品で苦しんだんだなぁとか、見える時もあって。
そういうのは、とっても、なんというか、興味深いなぁと感じるようになった。
役者にとって最大の苦痛は、自分が納得いっていないのに、人に観てもらわなくてはいけないことだ。
それは、少しずつ、自分の心の深い部分にささくれを創っていく。
面白かったとか、良かったよと言われるたびに、小さな傷が増えていく。
本当は面白くないのに、言ってくれているのかな?と猜疑心の塊になってしまったり。
苦しんだことは見えないのかなぁ?なんて、全然関係ない方向に意識が行ったり。
もちろん、笑顔で、ありがとうございました!と言うべきなんだけれど。
それを口にするたびに、どこか、自分が人を騙しているような気分になったり。
逆に、褒める人は、ちょっと芝居を観る目がないんじゃないだろうかなんて考えてしまったり。
そういうことで、傷ついて、立ち直れなくなった俳優を何人も観てきた。
褒められることは嬉しいし、褒められたいと常に考えているはずなのに。
自分の中の納得度が、その言葉を、全く違う色に染め上げていってしまう。
名前が大きくなった俳優は、だから、納得した作品にしか出演しない。
けれど、殆どの俳優は、声がかかれば、やります!というスタンスしか通用しない。
来た仕事は何でもやるぐらいじゃないと、誰にも信用もされないからだ。
まぁ、映画の宣伝をしている俳優も千差万別だから、面白くないケースもたくさんあるのだけれど。
そういう中で、なんて、この人は役者なんだろうなぁと思えるケースが時々あって。
それに出会うと、なんというか、芝居に立ち向かってるじゃんか!と伝えたくなる。
一緒に呑みたいなぁなんて、考えるようになる。
自分も同じようなことがかつてあったし、立ち直れたから。
実は、そこからが、俳優なのかもしれない。
なぜなら、それを一度感じると、立ち直る方法は一つしかないからだ。
それは、自分が納得できる芝居をすることでしか解決できないのだ。
それまで、どこか、自分に嘘をついているという感覚が付きまとい続ける。
その感覚を振りほどくほど、深く納得できる芝居を見つけなくてはいけない。
それが、すぐ次の作品なんて言うラッキーは殆どない。
長く苦しい戦いに挑み続けることになる。
ああ、まだ、自分が納得できる芝居が出来ない。
そう思いながら、それでも、立ち向かい続けなくてはいけない。
そういう姿になって、初めて、役者と言えるのかもしれない。
それまでの自分よりも、何歩か厳しい自分になっていたりするそこからが。
だから、面白く感じるのかなぁ。
ああ、この人は、実は自分の芝居にまだまだ納得できていなくて。
それでも、宣伝だけはちゃんとやろうと頑張ってるのかと、思えた時に。
役者だなぁ。苦しんでいるなぁ。がんばれ、がんばれ。
そんなふうに、自分の中の何かを投影しているのかもしれない。
役者にとって、映画は過去だ。
それも、タイムラグのある過去だ。
かつての自分の芝居と向き合わなくてはいけない。
それはそれで、実に面白い、役者らしい仕事だよなぁと思う。