字幕製作会社から事務的な封書が届いたのだけれど。
その中に小さな手紙が入っていて、ほっこりする。
今になって思えば、あの字幕製作の時期も、大変だったけれど、よき思い出。
字幕が付いて、その映像を観た時の感動を思い出す。
ネット上に様々なテキストが並んだ。
劇団の旗揚げ記念日についての言葉の数々。
急逝した恩人への一周忌の言葉。
舞台の告知。
ついこの間までネットはこんなに身近じゃなかったし、SNSもなかったのに。
今は、こうやって、たくさんの思いを共有できるようになった。
事務的だったけれど、手書きの手紙を見た後だから、なんだか、ふうわりとした気分になる。
不思議なものだなぁ。
こうして、デジタルデータでしかない、ネット上のテキストも、アナログの手紙も。
人は、人に、何かを伝え続けている。
SNSが流行ったんじゃない。
人が何かを伝えようとするのは、本能なのかもしれない。
結局、その延長線上に音楽だって舞台だって映画だって存在している。
読む人が選択できるから、ネットは先鋭化しやすいという弱点を持ってる。
特に今は選挙の季節だから、偏向したニュースだけを拾い集めるような人はたくさんいる。
結果的に、過激派とまではいかないまでも、過激になっていく。
結果的に社会が寛容さを失っているような気もする。
結局、ネットも道具でしかなくて、使用者によってそのありようは変わる良い例だ。
でも逆に、様々な人の多様化した角度からモノを観ることが出来る。
偏向してしまいそうな自分にブレーキをかけて、俯瞰から観察できる。
時には意識的に偏ることも必要かもしれないけれど、それまではなるべく平行にモノを見れる。
ポジティブな意見も、ネガティブな意見も、そのどちらもアンテナに引っかかっていく。
まぁ、やっかみや、キャンペーンや、どうしょうもないようなのもたくさんあるけれど。
リアリストが糾弾され、夢を語れば馬鹿にされても、それと同じ数だけ、逆の意見がある。
全ての意見を尊重することは、難しいから、選択していくしかないのかもしれない。
死ぬまで青春!なんて言葉をよく聞く。
特に、芝居だ音楽だやってれば、そんなことを言ったり、聞いたりする。
自分の年齢に差し掛かって、今こそと口にする人もたくさんいて、少しこそばゆくなる。
でもきっとそれを口にしながら、どこか、今の青春と、あの青春との違いを知っているはずだ。
青春とは、とっても、醜いものでもあった。
人を羨んだり、性欲にばかり頭が働いたり、向上心が空回りしたり。
結果、人間不信になって家に閉じこもったり。泣いたり喚いたり。
とにかく、自分の目の前に広がる社会とどう対峙していくかの助走のような期間だ。
人に自慢できる恋を出来た人なんて、ほんのわずかだし。
スポーツに打ち込んだ人だって、合宿や部室の思い出は、くだらないことばかりだったりする。
不器用で、悩ましくて、自己矛盾を許せなくて、幸せな日々。
あの日々がもう一度来ることは、もうないというのは誰だって実は理解している。
まだまだ知らないことも多いけれど、たくさん知っていることも増えてしまった。
その上で、あの時の純粋な感覚を、持ち続けるという宣言でしかない。
本質的には不純だった事も多いはずだけれど、思い出はいつだって純粋だから。
青春と言う名の、ポジティブな自分を維持したいという事なのだろう。
去年の今日。
恩人である真鍋さんの訃報を受けて。
たくさんの真鍋さんとのことを思い出したんだけれど。
そんなことよりも、何よりも、織田さんの心配をした。
織田さんは10代の終わりからの付き合いで。
織田さんにとっての真鍋さんは、青春そのものだからだ。
自分は知っていた。
自分にとっての青春ともいえる友人と師匠を喪う圧倒的な喪失感を。
呑みすぎるなとしか、連絡できなかった。
おいらは、真鍋さんと青春時代を共にしていない。
それから、ロックスターだった真鍋さんを観ていない。
それを見せろよ!と、何度も飲み屋で言って、対バンはしたけどさ。
おいらが知り合ったのは、その後で。
それでも、話せば通じる、ああ、わかってる人っているなぁって人でさ。
織田さんや、何人かとのやり取りも好きだったしさ。
悲しくて切なくて寂しかったけど、でも。
やっぱり、織田さんの心配をしたんだよ。
亡骸の前でご遺族と話して、電話でも話して。
撮影後に織田さんと一緒に献杯をして。
ああ、もう真鍋さんは一人じゃないって、おいらは思った。
それぞれが、それぞれに、胸の中に真鍋さんがいた。
今日のネットのテキストを拾い上げていくだけで。
何人もの真鍋さんに出会った。
その中で、青春の残滓のような。
そんな欠片を観た気がしたよ。
憧れだった人、友人だった人、兄弟だった人、トモダチだった人。家族だった人。
そして、テキストを書かない人。
こういう世の中になった。
そんなテキストの波の中に、ポツンと立ってる。
耳を澄ませてご覧。
それは、どこから聞こえるのかなぁ。
空から降ってくるの?
大地の奥から響いてくるの?
自分の胸の内から湧き出てくるの?
記憶の彼方からやってくるの?
喪失感と言う洞穴に風が鳴っているの?
醜い青春が、未だに尾を引いているだけ?
ふん。
青いままだけど。
今は秋さ。