子供の頃、入門書というのを何冊か持っていた。
繰り返し読むから、大抵はボロボロになって、ページが零れ落ちたりした。
将棋入門とか、野球入門とか、子供用になんでもかんでも売っていた。
意外にちゃんとしていて、イラストでの解説とか、プロの先生の紹介とかもあった。
お金持ちのおうちの子じゃないから、何冊も持っていたわけじゃないけれど。
とにかく、人から聞くか、本を読むしか、教わるすべがなかった。
当然、読解力がなければ理解できないし、間違えて覚えてしまうことも多々あったはずだ。
昔のドラマや映画でよくある、父と子のキャッチボールも、そういう意味だ。
結局、身近にいる大人に教わるしかなかった。
球の投げ方も捕り方も、素人の父親に聞くしかなかったんだよ。
今も、時々、息子とキャッチボールをするのが夢だなんてセリフが出てくるけれどさ。
あれは、もう実は現実感のないセリフだ。
公演の殆どで、キャッチボールなんかは禁止だし、父親に教わる方が数が少ない。
Youtubeで、検索して、バッティングでも送球でも捕球でも勉強しちゃう。
本に書かれている文章を読み砕いたり、イラストを見て、わかろうとしたりする時代じゃない。
動画で、わかりやすく説明してくれるのだから。
入門書にはなかったような変化球の投げ方だって、すぐに出てくる。
時々テレビでも、選手が子供に教えるというような企画もあったけれど。
そもそも、それも録画なんかする機械が家庭にはなかった。
だから、たった一回の放送を目を皿のようにしてみたりした。
子供同士の将棋をやっていた時に、NHKの将棋番組を見て、チンプンカンプンだったこともある。
見逃したら、もう二度と見れなかったんだから。
それが中学生ぐらいになって、ようやくVHSが一般化してきた。
それまでがそれまでだったから色々なものを録画したな。
テープメディアだったから、早送りして頭出しして、映像を確認した。
VHSには3倍モードと言うのがあって、120分のテープで、6時間録画できた。
貧乏性だから重ね録画とかも何度もしたし。
壊れても自分で開けて、磁気ヘッドの掃除とかまでやったなぁ。
レーザーディスク、DVD、ハードディスク、Blu-ray。
メディアがどんどん変化しながら、画質は向上して、頭出しなんか必要なくなった。
レンタルビデオ店があるから、うわさでしか聞かなかった映像も確認できるようになった。
邦画名監督コーナーのレンタルビデオを端から毎日借りて帰ったこともあった。
DVDの購入となると、とっても勇気が必要だった。
それが、今は、検索。
ストリーミング。
なんと映画作品でさえ、それで観ることが出来る時代になっている。
それどころか、テレビがなくても、PCがなくても、手元の小さな端末で観れてしまう。
録画して蒐集した映像も、あちこちに落ちている。
動画の時代だ。
王貞治の野球入門も。
大山康晴の将棋入門も。
もうきっと、どこかに行ってしまった。
難しい所は結局とばしちゃって、ちゃんと読めてないんだろうなぁ。
どこかにあるなら、今こそ、読んでみたいなぁ。
でもね。
自分の中ではお父さんに教わったことが全てで。
自分の中では本から学んだことが世界で。
それはそれで、なんだか大事なことなんだよなぁ。
とは言え、今の小学生は違う。
帰宅してすぐにパソコンに向かって、ずっとYoutubeを観てるなんて、普通のことなんだそうだ。
親のスマホで、映像を撮影して、勝手に自分でアップロードしてたなんて話もあるんだって。
そういう子たちが、これから、どんどん大人になっていく。
そういう中でも、おいらたちは、芝居をちゃんと考えなくちゃいけない。
動画がすぐ手に入る世代が普通になった時に、感性がにぶっているようじゃ、つまらない。
その時に。
あのボロボロになった入門書の良さも、ちゃんと伝えられるような俳優であればいいなぁ。
晴れてよかった。
今宵の中秋の名月は見事すぎた。
あの月だけは、子供の頃から何一つ変わらない。