芸人の又吉直樹さん原作の「火花」が映画化されて完成された報道で、主題歌が「浅草キッド」と発表されてた。
関西芸人の話だから意外だったのだけれど、でも、なんというか腑に落ちるものがあった。
浅草キッドと言う歌は、芸人にとって特別な歌だというけれど。
芸人だけじゃないんだよな。
おいらにとって浅草は馴染みがある街ではないし。
おいらは役者であって、芸人でもないのだけれど。
いつだったかも覚えていないけれど。
初めて聞いた日から、どこか支えになる曲になった。
あの歌は、歌詞も、作曲も、ビートたけし名義になってる。
歌詞は、相方と二人でチューハイを呑みながら夢を語っている場面から始まる。
だから、当然、ビートきよしさんとの風景を思う浮かべてしまうんだけど。
実は、そうじゃないってことを後から知った。
かつて、短い期間だけどたけしさんが組んでいた人で、きよしさんと3人でつるんでいた時もある芸人がいた。
その芸人さんとの歌なんだよ。
その芸人さんは、芸に行き詰ったのか、酒に溺れて、精神が破壊されてしまった。
噂では、困った行動もおこしてしまっているらしい。
その病床で、たけしさんに「夢は捨てた」って言ったんだって。
この曲は、夢を語っているところから始まる歌だけど。
「夢は捨てた」と言わないで
・・・という、歌詞で終わっている。
夢を語り、絶対に売れると観客が2人しかいない演芸場で思っていた相方が。
どんどん崩れていって、夢は捨てたと口にする。
たけしさんは、のちに、俺が精神を壊したとまで言ってる。
自分の才能が、相手に徹底的な敗北感を与えたことをちゃんと理解している。
そのすさまじいまでの、芸に生きる厳しさと、同時に、死にたくなるほどの優しさが、あの歌に込められている。
だから、たけしさんは、どうしても、あの歌を歌う時に。
「夢は捨てた」のくだりで、一瞬、目が潤む。
我慢して泣かないようにしているのも、観ていればすぐにわかる。
おいらは、芸人じゃない。
役者だ。
劇団だから相方なんかいない。
周りに仲間がたくさんいるだけだ。
でも、たけしさんのかつての幻の相方さんと同じように。
やめていった仲間もいる。
続けられなくなった仲間もいる。
根拠もなく、絶対にでかい劇団にしようと話した仲間がいる。
こういうことを書くと、すぐに青い奴だって言われちゃうけれどさ。
夢を持つって、すごいことで、すてきなことで、最高だけど。
夢を持つって、残酷で、悲しくて、最低なんだ。
それなのに。
去年の今頃の話さ。
おいらたちは、撮影に向けて決起回を開いていたよ。
そこで、夢を語ったんだ。
すごい映画を創ろうぜって。
世界に飛び出そうぜって。
おいらは、捨てないよ。
どんなことがあっても、捨てないよ。
例え、傷ついて、自分の才能に気が付いて、病院のベッドにいたとしても。
おいらは言わないよ。
「夢は捨てた」なんて言わない。
病院のベッドで、さて、次は何をやってやろうかって考えてやるんだ。
だって知ってるから。
夢を持ち続けることの方が。
何倍も素敵で。
何倍も悲しいってことを。
セブンガールズ。
映画は出来ているよ。