2017年10月22日

ヒールを履いた日

役者解禁.jpg
役者解禁

美術設営の最終日。
美術さんに確認を取って、ついに男たちにも役者モードを解禁した日。
それぞれが一気に稽古をし始めた。
女優陣は前日から解禁していたから、スカートや靴を履いて、ダンスの稽古を始めた。

外観の写真を、パンパン小屋の玄関から。
こんな足場でどうやって踊ろうか?と話し合っていた。
玄関前には、足場板が置いてある。
これは、当時の写真でもよく見かけるけれど、玄関前はすぐに足元がぐちゃぐちゃになる。
飛び石を置いたり、板を敷いたりしてあるのは、よくある風景だった。
右側には倒壊しないように木材がトタンの建物を支えている。
左側には、籠が積んであって、物干し台が麻の紐で組んである。
元々生えていた苔、遠くに見えるトタンの建物。
地面に後から撒けるように、枯葉も集めてあった。

電池を入れたラジカセが準備してあって、それで練習をした。
皆、セットを組みながら、早くこのセットの中で芝居をしてみたかったのだ。
もちろん、男性陣も解禁したから、女優陣は自分の相手役を捕まえてセリフ合わせも始めた。
この日は全員揃っていたわけじゃないけれど、出来るシーンは皆でやったりもした。

夕方になって美術さんが到着して、全体のチェックに入った。
それが終わった頃、もう一度、一人になって、パンパン小屋で、シナリオをもう一度読み始めた。

スマホがブンブンとうなる。
翌日は完全練習DAYの予定だった。
監督は助監督との打ち合わせもあるから来れないかもという話も合ったのだけれど。
監督も来れるという連絡だった。
それだけじゃなくて、助監督も、撮影監督も来るとの連絡だった。

この二日で芝居を仕上げて、本番で、芝居を見せて驚かせてやろうぜ!なんて話していたら。
もう、その練習日まで付き合ってくださるという事が分かった瞬間だった。
夜のしじまの中のパンパン小屋から、出演者たちにメールで連絡を送る。
なんか、そんなことをしているのも楽しかった。
実はちょっとだけ、泊まっちゃおうかなぁって思った。
このパンパン小屋に生活感を最後に吹き込んでやろうかなって。
布団は毎日干してあったからふかふかだったしね。
娼婦小屋だから、きっと、本当はもっともっと臭い空間だったはずだ。
人の垢と、汗と、精液と、食べ物と、そういう匂いが充満しているような空間だったはずだ。
見た目は汚いし、埃っぽいけれど、どこか神聖な感じが少しだけ残っていて。
最後の最後に人の匂いをつけたいなぁなんて、考えていた。

もちろん、そんなことは懸念でしかなかった。
だって、翌日から倍以上の人間が常に出入りするのだから。
スタッフさんも役者も全員が集まることになるのだから。
一人で夜にいる時とは、当然違うし、人がいるという感じはすぐについてきた。

泊まっちゃおうかなぁという思いは、腹が鳴って消し飛んだ。
翌日からリハだし、スケジュールはタイトだし、皆にも連絡を随時送っているし。
飯を食って、シャワーを浴びて、作業着を脱ぎ捨てて、完全役者モードでここに来なくちゃと思い直した。

役者に切り替え始めた象徴のような写真だ。
彼女たちはついにヒールを履いたのだから。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 02:24| Comment(0) | プロモーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月21日

秋の夜の夢

セット裏.jpg
セット裏
裁縫道具を持つ女優。
ここは、仕込み時のセット裏だ。
当然、映画では出てくることもない場所。
仕込み時だから照明もないし、早替え用の部屋もない。
雑然としている。

女優の後ろにパネルの裏側、トタンが見えるだろうか?
木枠を組み合わせ、トタンで埋め、更に化粧を重ねていったその裏側だ。
灯漏れのための暗幕も見える。
左側に並んでいる青いケースは、劇団で持ち込んだ道具箱。
倉庫から持ってきた、基本的な工具や文具、黒幕、無線機などなど、全て役に立った。
右側には、余った部材が雑然と置いてある。
立てかけられたトタン、木っ端材、発泡スチロールのブロック。
大き目の机は、仕込み時には作業台に、撮影時には小道具置きに使われたものだ。

パネルは実は、別の映画のセットで廃材になったパネルの一部をもらってきた。
昭和期の駅前のセットだから、トタンを貼り付けたパネルがいくつか出てくる。
街一つを創っちゃうような映画だったから、廃材もとんでもない量だったはずだ。
その中の、トタン張りのパネルだけ、基礎的な小屋を建てるためにピックアップして頂いてきた。
多分、その映画を観ても気づくことはない。
前面の化粧が変わってしまっているし、向きも違うし、使い方も映り方も変わっているから。

撮影前に、あの机の向こうに早替えようの部屋を仕込み、裏導線を仕込み。
小道具用の机も、もう一つ増やして、更に裏導線を創った。

二人が裁縫箱を持っているのは、鏡台のカヴァーを製作していたからかな?
鏡台はバラバラの大きさだから、一つ一つカヴァーの大きさが違う。
カヴァーを付けないと、撮影で余計なものが写り込んでしまう可能性があるから、基本カヴァー付きにした。
一度作ってしまうと、大きさが決まっているから、多少余裕の大きさで創るにしたって。
創る前に、色味を確認していた。
余った古着の着物を広げて、鏡にあてがって、並べて、色味を確認して。
それからの作業だったよなと記憶している。
ある程度、セットが組みあがってからじゃないと、装飾が出来ないということの一端だ。

美術がほぼほぼ組みあがって。
片付けや、細かい装飾に移ったことで、自分なりに役者モードにスイッチしていった。
この日の夜、皆が帰ってから、ランタンを灯して、セットで贅沢に一人稽古をしていたんだな。
暗くなると作業効率が落ちるし、バスの時間もあるから、わりに早い時間に作業が終わった日だった。
一人で、シナリオを読み、動きを確認し、当時の時代を思い浮かべていたら。
なんだか、ガサゴソと音がして。
なんだろう?と思ったら、この二人が一度帰ったのに戻ってきた。
その後、あの部屋で、三人で稽古をした。
今思えば、あの時間は、とっても濃密な時間だったな。

皆は、夜のこの現場をあまり知らないと思う。
陽が落ちてからの撮影ももちろんあったけれど。
毎日20時前にはほとんどの俳優が撤収した。
その後は、一部のシーンだった。
・・・おいらのシーンはほぼ毎日最後だったというのもある・・・。
鍵を閉める係だから、助監督が後回しにしてくださっていたからだ。
BBQも真っ暗な中だったけれど、実は夜は夜でも、日が落ちただけでそこまで遅い時間じゃない。

夜のこの現場は、なんとも言えない空気が流れていたよ。
バスの時間を気にしないでいいメンバーだけが覚えているはずだ。
陽が落ちたら真っ暗になるあの空間は。
真っ暗になって、数時間経つと、虫の音と、カサコソと聞こえる夜行性動物の足音に包まれるんだ。
そして、しっかりと、星が見えていた。

毎日がヘトヘトだったけれど。
それはまるで、夜の夢のようだった。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 18:18| Comment(0) | プロモーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月20日

子供の笑顔

BBQ.jpg
BBQ隊長

去年の今日を確認する。
そう、美術設営3日目。
多くのスタッフさんがこのロケ地にやってきた。
打ち合わせももちろんした。

あの時のスタッフさんたちの表情、言葉、すごい記憶に残っている。
吉沢さんも古賀Pも、セットを見た瞬間に、声が出て。
そのまま、奥の部屋まで入ってもらって。
ある意味で、あの瞬間こそ、デビ組発足の瞬間な気もする。
絵でしか見ていなかったパンパン小屋が、実際に目の前にあったあの瞬間に。

それとこの日に思い出深いのは夜のBBQだ。
働きづめだった毎日にやってきたご褒美デー。
翌日の入り時間も遅くして、皆で、肉と酒。
監督は初のBBQだなんて言ってさ。
トオルさんと、映画や音楽の話をしてた。
オレンジに光る作業灯の下で、ケラケラ笑った。

写真は美術設営休憩中の一コマ。
この椅子、常に喫煙所にあって、とっても活躍したなぁ。
皆、ここで休んでた。
こうやって見ると、すごい良い顔をしている。
疲れがピークの頃だと思うんだよ。なんせ休憩中だしさ。
疲れているから、こんなに根元まで煙草を吸っても立てない。
それなのに、充実した表情をしている。

企業だとすればこれは完全にブラックなスケジュール。
もちろん、いつもの舞台でもそうなのだけれど。
好きじゃないと出来ないことってある。
でも、生き甲斐と言うか。
充実感だとか、生きている実感だとか、手にしている希望と言うか。
そういうものが、体を動かす時って言うのが必ずある。

BBQでキャンプ慣れした中野圭も、ここまでやれると思ってなかった。
本当、皆、頑張ったよなぁと言っていた。
美術の伊藤さんも、金曜までかかると思っていたと、この酒席で言っていた。
中野圭のこの笑顔を、全員がしていた。

小さな小さな、例えば裸電球一つにも、この映画には思いがこもっている。
ソケットを買ってきて、天井にぶら下げる処からやったんだ。

余裕のあるスケジュールでしか撮影できない映像ももちろんあるけれど。
余裕のある中じゃ出来ない撮影って言うのもきっとあるんじゃないかって思う。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 03:12| Comment(0) | プロモーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする