最近、ネットで「黒歴史」という言葉を見かけるようになった。
タレントの誰だれにとって、この時期は黒歴史であるなどなど・・・。
主にプロフィールから消してしまったり、なかったことにしたい過去の事象を黒歴史と言っている。
実は黒歴史と言う言葉自体新しい言葉で、アニメのガンダムから来ているらしい。
作品の中で、黒歴史と言う言葉が生まれ、ネット民が活用し、一般化した。
言葉が持つニュアンスが通りやすく、いかにも元々あった言葉のような語感。
気付けば、一般週刊誌なども普通に使用している。
言語は生き物のように常に変化しているという証拠だ。
アニメでは、戦争の時代を黒歴史と呼んでいるようだ。
ガンダムにも色々あって、おいらなんかは、初期の作品しか知らない。
既に自分が観ていない頃の作品での言葉だから、詳しくはわからないのだけれど。
なんというか、言語と言う文化にまで達してしまうというのは凄いことだ。
自分自身でも、黒歴史なんて言葉は大昔からあると思い込んでいるところが未だにある。
だから、普通に意味を把握して、普通に読み飛ばしてしまうけれど。
恐らく同じような意味で、使いやすい言葉がなかったのだろう。
確かに年表の中で塗りつぶしてしまいたい時期なんて、誰にでもあると思う。
過去はもう取り返せないし、今の自分とそぐわないなんてこともあるだろうし。
けれど、それは確かにあって、特にネットの時代だと、どこかに残ってしまうこともある。
塗りつぶしたくても、繰り返されるコピーに完全削除を諦めるケースだってあるだろう。
なぜ、元々、そういう意味の言葉がなかったのかと言えば、本当に消せたからじゃないだろうか?
いや、実際にあった事象を消すなんてことが出来るわけもないのだけれど、記録を消すことは出来たはずだ。
ネットにアップして他者がコピーしたり、記録したりすることが出来ない時代なのだから。
写真や日記、手帳、関係者。そういう一切合切を封印することは過去には可能だった。
いや、可能だったというよりは、普通に行われていたはずだ。誰でも。
そして結果的になかったことにして、黒歴史でも何でもなく、その後一切触れないという方法だったんじゃないだろうか。
特においらが思うのは、やはりセブンガールズの時代だ。
「戦後のごちゃごちゃがあってね」という言葉でうやむやにされることがとても多い。
実際、なんの記録もないし、なんの証拠も残っていないことがやまほどある。
もちろん、日本が占領下にあったこと自体は、隔しようがないわけだけれど・・・。
例えば、おいらの祖父も、終戦直後からの数年間の細かいことは謎に包まれたままだ。
とにかく家族とは一緒じゃなかったし、逃げたり活動もしていたようだけれど。
その後聞いた細かい話以外の肝心な部分は、誰にも話さなかったようだからわからない。
何故か菊のご紋の入った煙草を持っていたり、謎の部分だらけだ。
けれど、墨を本人が塗ってしまえば、黒歴史ではなく、もうなかったことになる。
実際、その時期の親戚で、疎開先でいじめられて疎遠になったなんて話もあるようで。
あまり、話をしたがらないようなことも多い。
ハッキリと言えば、パンパンは、黒歴史の中でも、その最たるものだ。
東京に出稼ぎに行ってパンパンをやって、素知らぬ顔で帰った女性などどれだけいるだろう?
戦後の資料と、娼婦の数があまりにも合わない。
一節によると20万人を超えるパンパンがいたと、物の資料には書かれている。
戦時下における例えば旧日本軍の化学兵器開発なども、伏せられた歴史だけれど。
戦後における復興に至るまでの経緯は、誰もが傷つき、その後口を閉ざしたことでよくわからないことが多い。
おいらの母親は1945年7月生まれだ。
つまり終戦の本当に直前に生まれたという事になる。
しかも、都心部に家があったから、大変だっただろうなぁと思う。
聞けば、田舎の親せき宅に疎開して、疎開先で生まれたのだそうだ。
乳飲み子を抱えての、焼野原での復興。
叔母が、瓦礫の中から小銭を拾い集めた話をしてくれたこともあった。
貨幣価値は下がり、仕事もなく、食べ物もなく、家もなく、占領されている劣等感だけがある。
祖母の話は、とにかく、毎日その日を生きることに精いっぱいだったという言葉だけだった。
その時期に何があったのか、具体的な話なんか、ほとんど聞いたことがない。
記録がなく、記憶を持った人が口を閉ざせば。
歴史は、黒歴史となり、やがて、なかったことになる。
そんなことは当たり前のように繰り返されてきたはずだ。
なかったことにはならないなんて、本当は嘘だ。
映画や、小説は。
そんななかったことになりかけた何かに、もう一度スポットライトを浴びせる力を持っている。
考えてみれば、終戦後の、ドイツやイタリアのことをあまりおいらは知らない。
東西に分かれたドイツの話。亡国となった東欧が再度、復興していった話。
なんだったら、あのアウシュビッツ収容所を、つい数年前までドイツ国内にあると勘違いしていた。
実際にはドイツ占領下にあったポーランド国内にあるのだ。そんな基本的なことも知らない。
当たり前だ。積極的にアピールしたいような歴史ではないから、情報量も少ない。
敗戦国の復興なんて、記憶から抹消されていって、記録だけが残っていく。
本当の豊かさとは知ることだ。
一方の情報だけではなく。
都合の良い情報だけではなく。
悲しいことも、許せないことも、過ちも。
ちゃんと知っていくことだ。
例えそれが知る必要がないと言われる悲しい現実だとしても。
パンパンについて、何も知らなかった自分よりも。
今の自分の方が、明らかに豊かだとおいらは思っている。