台風が来た。
3号が上陸するなんて。
思い出すのは去年の今頃だ。
7月には解体工事が始まると聞いて、廃業される朝陽館さんの建具を最後に頂いた頃だ。
あんなに襖を破いたり汚したりできたのも借り物ではなく、貰い物だったからだ。
壊してはいけない、返さなくてはいけないという縛りがなかったからこそ、あそこまでセットをいじれた。
去年のこの頃、気象庁から過去の気象データをダウンロードしていた。
スタッフさんが空いている日程で、もっとも雨の可能性が低い日程を割り出していた。
それぐらいギリギリの綱渡りだった。
1日中雨の日が1日でもあれば、撮影できなくなる可能性だってあった。
エルニーニョが終わった年のデータをすべて集めて、何度も調べた。
もちろん、雨になったらなったで、こうしようというのも考えたうえでだけれど。
思った通り、雨天に撮影がひきづられるような事態にはならなかった。
ロケハンの日程を調整したり、美術の図面を頂いたり。
シナリオを整理して行ったり。
今、思うと、信じられないほどたくさんのことをしている。
美術の図面を観てもイメージを観ても、こんなの作れるわけがないと言われたりもした。
でも、全ての材料を皆で集めて、皆で実際に建て込んだ。
おいらは夢見がちだと言われる。
夢ばっかり見ていると言われる。
でも実は、天候を調べつくしたり、資材を事前に用意して置いたり。
美術の図面を頂く前に、こういうことは出来る、こういうことは出来ないというのを伝えたり。
そして、それが予算内に収まるようにするのはという事にアイデアを出し続けたり。
ただ憧れて、夢を見ているというよりも、圧倒的に準備に費やす体力の方が多い。
夢を見ることなんか、実はほんの一瞬で、むしろ瞬発力に近いようなもので。
そのあとは、いかに継続して、出来ることを続けてきたような気がする。
気合で乗り切るなんてことは不可能で、ここぞという時に気合を入れられるような準備をしている。
予測しながらの準備をしていたものだから。
結果が出た今、思い出すと、まるでそれは一年前なんてものじゃなくて、はるか昔の出来事のようだ。
天候なんてプロの予報士だって当てられないのに、それを徹底的に調べてさ。
今は、結果が出た後だから、調べておいて良かったって言えるけれど。
実際、人から見たら、なんというか、バカみたいなことなのかもしれないなぁなんて思うよ。
本当にあれは、たったの1年前のことなのだろうか?
どうやら、そんなイメージは相変わらず変わっていないみたいだ。
お前の話は大きすぎて、よくわかんねぇなんて言われたりもするよ。
瞬発力だけで、こうしたい!って思うことも相変わらずたくさんあるしさ。
言った後から入念にそれをするための準備は重ねるけれど、準備の方はまぁ、地味だしさ。
残るのは、法螺吹きなおいらさ。
そりゃそうだよなぁ。
下北沢の小劇場で、あーでもない、こーでもないと、作品と向き合って、もう20年目に突入しようって時に。
いきなり、世界に作品を持っていこうなんて言い出してさ。
きっと、そんなおいらに、振り回されている人だっているだろうしね。
でも、どんどん結果が出ていく。
クラウドファンディング達成の瞬間から。
夢が希望になり目標になり、そして結果が出るを繰り返してきた。
準備だって、撮影だって、編集だって、どんどん結果になって行った。
そして、ここからプロモーションや、公開っていう結果に向かっていく。
そういえば、この企画で、結果を恐れた瞬間が一度もなかったけど。
さすがに、公開だけは、ちょっと想像するだけでも怖いなぁ。
たくさんの人に観てもらえるような結果は、今までで一番高いハードルだなぁ。
怖いけど、踏み込まないとなぁ。
部屋は本だらけ。
編集の基礎やらマニュアルやら、WEBの知識やら。なぜかマーケティングの基礎知識まで。
何冊読めば気が済むんだ。
まだまだ全然気が済まない。
この世の中は予測不可能さ。
どんなに天候を予測しても、台風3号が上陸しちゃうんだから。
明日どころか、まばたきの向こうだって、予測できない。
何が起きるかなんてわからないよ。
何が起きてもおかしいことなんてないよ。
だから準備する。
準備して無駄になっても良いと覚悟して、準備する。
準備しても、予想通りになんてならないことのほうが普通だから。
その上で、まだ、夢を観ようと思う。
君と同じ夢だ。