稽古中。
夕闇の中、外に出る。
東の低い位置に赤い満月。
写真を撮影しようなんて一瞬思ってすぐにやめた。
こんなものは、肉眼が一番だ。
カメラマンではないのだから。
稽古が終わり、夜道。
空に、それはもう、見事な満月。
こんなに明るい満月は、初めてじゃないかというぐらい明るい。
とにかく、空に浮かぶ小さな雲まで全て肉眼で確認できるぐらい空が明るかった。
ちょっと記憶にない。
他の星が見えないほど、明るい満月。
世界を照らす、月。
赤い月は、地球との距離が近い日の、月の入りに見えるなんて聞いたことがあるけれど。
距離が近いのかもしれない。
月は太陽の鏡。
太陽の光を反射して、地球に光を降り注ぐ。
距離が近ければ、当然、光はそれだけ強くなる。
本当の鏡のように表面がピカピカでもないのに。
太陽の光の強さは、あのクレーターだらけの土を照らして、なお反射光を地に届けている。
陰陽。
現実が太陽なら、虚構が太陰。
月が見せるのは、現実の裏柄。
虚構を照らす、まばゆいばかりの光。
どんな物にだって表と裏があるように。
どこの誰にだって表と裏があるように。
それは別の世界のようでいて、実は背中合わせ。
おいらたちは、舞台に立って、虚構の住人になる。
でも、それは本当に虚構なの?
現実の世界と背中合わせ。
観てくれた誰かにも、演じるおいらたちにも、表裏になっていく。
どこにでもありそうな。
どこにでもいそうな。
そんな気持ちが、舞台の上に顕在化していく。
世界を照らす。
あの満月のように。
下北沢の小さな地下の劇場から。
虚構の光を。
表の世界に届くまで。