前回、劇伴の全体的なエンベローブのみで終わった作業。
1から整音して、再MAに入る。
整えられた音も、もちろん、MAしやすいようにトラック整理してある。
とは言え、時間がかかることは、予想していた。
1シーンずつ、やっていくのだから、当然、そうなるし、こだわれば、どこまでだって出来る作業。
まさか、それが、てっぺんを越えるとまでは思ってもいなかったけれど。
まるで走馬灯のような作業だった。
1シーン目から、撮影日を思い出し、2シーン目にはそこを編集した日を思い出した。
エディットのKORNさんも、音楽監督も耳に集中していたけれど。
おいらの頭の中に流れるのは、今までの作業工程の日々だった。
撮影したのははるか半年前。そこを編集したのも5か月前だ。
色の調整が先月で、整音が先週。
前半部分は、常に作業工程の最初だから、どこの工程でも苦労をした。
近々の整音作業でも、とても、苦労した。
やはり、MAでも、同じように苦労することになる。
そして、そのシーンの作業中に、ああ、今日は時間がかかるぞと覚悟する。
モニタ音量を抑えて、全体の音を確認していく。
音楽が流れる場所も、映像の中で役者が振り返るタイミングさえ、頭に入っている。
監督が、ここで、こんな効果音が追加したいなぁと言えば、すぐに頭に思い浮かぶ。
立ち上げた自分のPCで、そのシーンを出して、その場でKORNさんにタイムコードを伝える。
タイムを打ち込めばすぐに、その音声にアクセスできる。
同じ音でも、イコライジングとかタイミング、アタックを変化させれば別の音になる。
MA中に出ている映像は、作業効率を考えて、高圧縮した映像をリンクさせていた。
だから、実際の映像よりもずっと画質が落ちている。
色味や映像を確認したいときは、すぐにそのタイムコードをうちこんで、映像の確認をする。
音声的に、修正作業をしている間に、ヘッドフォンで整音後の2mixを確認する。
実際に、大きく出したときはどう聞こえるのか、なども、ヘッドフォンで確認する。
意外に、神経が擦り減っていく。
音楽監督は、ヘッドフォンで確認している。
休憩に入ると、思い思いの行動に。
前回MA時に来てくれたメンバーが用事があるとのことだったので、織田を呼ぶ。
スタジオ作業においらが行くとなれば、やはりいてくれるだけで心強い。
前回は予想以上に、色々な作業が必要になって、活躍したけれど、今日は何もすることがなかった。
何もすることがないから申し訳ないなぁと一瞬思ったのだけれど、観ると、真剣に作業を観ている。
音楽畑にいたから、音関連の作業は、他のメンバーよりも数倍、意味が分かるのだ。
当然、細かい作業部分までは、どんなことをしているのかもわからないけれど。
音の変化は当然わかるし、当然、役者だから芝居もわかる。
監督も、他のスタッフも、反応しなかった芝居にも反応をする。
恐らくお客様も含めて、誰も気づかないようなことだけど、演者だけは気が付くようなのもあるのだ。
そう、それ、あるよね。と、視線を交わす。
電車の時間を考えればテンポアップしなくちゃいけないシーンに差し掛かるけれど。
そこで、作業を止めることもなく、細かく細かくやっていく。
前回の作業のように、どこにどの音声があるか探したりすることもなく、その場で変更が出来るから、どんどん手を入れられる。
前回のMA時には、出来なかったような細かいセリフ一つ一つの確認までしているのだ。
織田さんは覚悟して、監督も音楽監督も、車で家まで送りますよと言ってくれる。
それは、申し訳ないと、思いつつも、だから作業をもっと早くしようとは言えない。
前回のように電車の時間を気にして、精神的にギリギリで作業する数段、精神的に楽になる。
時間がない、やばい、と思いながらの作業は、良い結果を生むことはないからだ。
その上で、電車に間に合えばいいのだけれどと思っていたけれど・・・。
気付けば電車の時間も終わり、てっぺんを越え、25時すぎに作業アップ。
最初のシーンから最後のシーンまで、全てやり切った。
織田さんの車で、サタデーナイトドライビング。
なんだか、20代の前半を思い出す。
馬鹿話をして、笑いながら、車は進む。
トオルさんが車を降りて、移動していると、ナビ通りに進んで、なんと、あのロケ地の前を通った。
ちょっとした偶然は、まるで、作業が終わるよと、教えてくれるようだった。
おいらの家のそばのコンビニの駐車場で降ろしてもらう。
軽くドリンクを買って、喫煙所で少しだけ話す。
途中で遭遇した、まるきり40年前と変わらない暴走単車の話をする。
土曜の夜を走れば、いくつになっても、男は、どこか少年のような気分になる。
織田さんに、感謝を伝えると同時に。
監督を降ろして一人になってからの運転だけは注意してほしいと伝える。
そして、最後に、翌日の稽古の話を伝えた。
帰宅すると気絶したように眠ってしまった。
前日の夜の準備からロクに寝てないのに。
そのまま布団で寝なかったのは、厳しいな。
まぁ、仕方がない。
目が覚めると、不思議な気分だった。
本当に、全ての作業の走馬灯を観ているような。
そんな一日だった。