朝起きて、書き出し完了を確認してからPCをバッグに詰め込んでいく。
シャワーで無理やり目を開けてからすぐに出かける。
あの町に、あの人に、会いに行く。
ロータリーに泊まっている大きな車。
運転席を覗くと懐かしい顔がそこにあった。
思わず笑顔になる。
お久しぶりです!
そういいながら、あっという間にいつかの日に戻っている自分。
KORNさんの助手さんと、一緒に車に乗り込んで、移動する。
到着すると、記憶が少しずつ戻ってくる。
玄関には山積みになったMOTUのオーディオインターフェースがあって、その上に電動工具。
日本のどこを探しても、こんな人はいないよなぁと思う。
スタジオに入ると、あの時と同じように自作のコンソール。
ありとあらゆる部分に、自らの手を入れてある。
市販製品に劣らぬクオリティで、大きなコントローラーが組んである。
コンソールにスポンジをひいて、助手さんのMACを置く。
音声のアウトプットをモニタースピーカーに接続。
おいらが持っていった液晶モニタとも接続して、作業が始まった。
全体を観て、トラックを把握しながら整理していく。
あっという間に、その全体感を理解していく。自分なりに解釈していく。
基本となるシーンを指定すると、そこに合わせていく。
トラック整理しているなぁと思っていたのに、気付けば、整音作業に入っていた。
それまで奥にあった音が前に出てきたり、バランスがどんどん変わっていくことを耳で感じていた。
わ!と、声が出たのは、明らかに音声の質感が変わった瞬間だった。
アフレコ収録したクリアな音声が、あの時に撮影した現場の音声に間違いなく近づいたのが分かった。
思わず立ち上がって、画面をのぞき込むと、丁寧に、何をどうしたのか教えてくださる。
EQを持ち上げて、どこに何がいるのか当たりをつけてから、逆につまんでいく。
音の幅を狭くするために、子音の部分だけコンプを当てていく。
足音が鳴る前だけを少し伸ばしておく。
とにかく、細かい作業を一つしていくたびに、音声が馴染んでいくのが手に取るようにわかる。
正直、おいらがそこにいても出来ることなんかほとんどないのだけれど。
明らかに音声が混ざっていくのが、手に取るようにわかった。
すごい。
今、音楽のレコーディングといえば、当然、PCが基本だ。
デジタル化された音声データをPC上のソフトウェアで、加工していく。
今は、それが普通になったから、自分のPCで、自分で加工してしまう人がほとんどだ。
インディーズと呼ばれる世界の自主運営バンドたちは、今や自分のPCで録音から加工までしてしまうようになった。
今回お願いしたエンジニアさんは、それこそ、つまみをいじり、テープに録音した経験のある方だ。
だから、音の根本がわかっている。音とは波で、その波をどうすれば、どうなるのか把握している。
デジタルな画面でグラフィカルなイコライザーを見ながらいじるのではない。
形は違えど、ツマミをいくつか持ち上げてみてから、当たりをつけていくことを、デジタル上でもやっていた。
確実に景色が変わった。
いつまでに、この整音作業を終わらせるのか日程を伝えると、サラリと、行けますよなんていう。
おいらは、その作業に。そしてディティールまで修正していくことに。そして作品に向かう姿勢に。
あっという間に、強い信頼を覚えた。
関わる以上、ただ音をいじるのではなくて、自分の作品なのだと思えるまでやる。
きっぱりと、そう言い切っていた。
稽古だから、早めに辞する。
助手さんは残って、作業を観たいという。
一度、車で駅まで送ってくださった。
そのガレージの車の横には、釣り船が係留してある。
この船も手作りなのだという。
船を作る?
そんなこと、ありえるのだろうか。
稽古場に向かう電車の中、含み笑いが止まらない。
音がどんどん変わっていったあの感じが耳に残っていたから。
稽古をして、終わって、飲みに行くころ、連絡が来る。
ええ!この時間まで作業を続けてくださったんだ・・・。
あの集中力を維持していたんだなぁ。
今から自分のPCに、インストール大会を開催するという連絡。
用意したまましていなかったアップデートをしてみて、自分のPCで作業できるか確認してくださる。
もし、出来なかった場合は、助手さんのPCをそのまま貸し出すのだそうだ。
それは、助手さんから置いていきますと言ってくださった。
でも、自分のPCで作業できれば、コントローラー、フェダーまですべて使用できるようになる。
もし可能であればその方が良いに決まっている。
すごい。
もう、早く、次に行ける日程を探らないとと思っている。
聞きたいのだ。
その後、どうなっているか、聞きたくてうずうずしているのだ。