前日に撮影監督の吉沢さんから連絡があって、ピクチャーロックした映像データの受け渡しの連絡をした。
受け渡しの相手は、撮影助手だった山崎さん。
その場で電話して、すぐに受け渡すことになった。
その街が、おいらにとって、初舞台を踏んだ街だったことは、不思議な感じがした。
ハードディスクを保護ケースに収納して、その街に出かける。
元々大都会だから、やはり、それほど変わっていなかった。
とは言え、初舞台から20年以上経過しているんだなぁ。
最寄りのコンビニでビールとつまみを買う。
撮影時に山崎さんがお疲れビールを喜んで持って帰っていったのを覚えていた。
大した差し入れじゃないけれど、お菓子なんかよりもいいんじゃないかと思った。
待ち合わせて、自宅兼事務所に移動する。
居住している生活感と、機材が立ち並ぶ不思議な空間においらは移動した。
先客がいらっしゃって、それは、本当に偶然なのだけれど、初日撮影を担当された橋本さんだった。
到着してあいさつすると、すぐに用事を終えて、帰られる様子だったので。
せっかくの機会なので、確認しますか?と聞くと、いいんですか?と一言。
時間さえ許すなら、もちろん、撮影してくださった映像のオフライン編集を確認してほしい。
持参したHDDをマックに接続して、書き出してあったMP4映像を再生する。
撮影初日だったから、前半に橋本さん撮影の映像は集中している。
全編を通じて、Bカメを担当した山崎さんもいる。
撮影監督の吉沢さんには、映像を送ってあったけれど、二人とも初見だった。
ああ、こんな風にカメラマンさんは映像を確認するのかって、思った。
もちろん、映画として楽しむというのとは違う。
アングルを確認したり、画角や、色味にピクリとしたり。
ピントや、白飛びに反応したり。
まぁ、普通に、撮影日のことを思い出したりと言うのもあったり。
前半で、橋本さんの撮影した個所はほぼほぼ終わり、ありがとうございましたと挨拶。
HDDは無事、認識しているようなので、次に、シーケンスの取り込みだ。
例えば可逆圧縮形式で一本の映像にして渡すという方法もあるけれど。
その場合は、もう一度、カットごとに切って、その上でカットごとに色調整することになる。
かなり短いカットが連続するシーンもあるし、それの方が圧倒的に手間になるだろう。
だから、なるべく、シーケンスのまま読み込めるようにと思っていた。
Davinciをインストールして、インポート手順の確認もしておいた。
Mac上でDaVinci Resolveを立ち上げて、取り込みを開始する。
ほぼほぼ自宅でやった作業と同じ手順で進んでいく。
だとすれば、恐らく、同じ個所を読み込まないはずだと予測していたけれど、やはりそうなった。
OSの違いはあれど、アプリケーションの動きはまったく同じだと確認。
だとすれば、この映像をビンに入れたら、復帰しますと一つ一つ伝えていく。
長回しの撮影ファイルがあって、それは2つのファイルを1つの映像と認識して編集していたのだけれど。
アプリケーションが変わって、別々のファイルですよと認識させてやればよいだけだった。
自宅で、なんでだろう?と苦労していた分、スムースに進む。
再リンクが必要な数カットも無事、認識されていく。
はい、これなら、カラーコレクションできますという言葉を頂いた。
任務完了だ。
HDDは預ける。
カラーコレクション後に書き出した映像をまた受け取ることになる。
基盤むき出しの内蔵HDD。
どんな映像に生まれ変わるだろう?
カメラの特性も、撮影時の状況も、全て理解している。
実際に撮影や、撮影助手をやっていたのだから。
どこかのタイミングで、カラーコレクションを見ることも出来るのかなぁ?
どんどん映像が生まれ変わっていくのも見てみたい気がするけれど。
このボリュームだと、スタジオに入っても1日でなんとかなるものでもない。
ある程度の処理をしておいて、吉沢さんと一緒にカラーコレクションをするのはいつに決まるだろう。
退室して、一つ先の駅まで歩く。
荷物は重いけど、任務完了した分、足は軽い。
一応、持っていったPCは開かないままで済んだ。
良く知った懐かしい街を歩く。
何も変わらないなぁ。空気を吸い込む。
カラリストという職業がある。
海外なんかではカリスマ的なカラリストもいるようだ。
映像を仕上げていく。
色味が落ち着き、良い意味で映画らしい絵になっていく。
この映像がおいらの元に再度帰ってきたときに、再度、テロップを配置して、タイトルを配置する。
それで、映像が決まるのだ。
それが、いつか皆様が目にする映画の映像だ。
そこからは、もう、映写機用のデータへの変換しかないのだ。
MAも近づいている。
効果音もどんどんやっていかなくちゃいけない。
愛おしい。
この作品が愛おしくなっている。
懐かしい街を歩き、懐かしい店を覗き。
自然と鼻歌が出てきた。
撮影データを受け取ってから、約4か月。
監督と編集を重ねて、何度も書き出して、何度も確認して、アフレコまでして。
ようやくここまで来たんだなぁ。
そんな思いが。
初舞台を踏んだ土地から、今日まで芝居をし続けて、ようやく今に至った道と自然と重なっていく。
おいらは、誇れるよ。
よくここまでやってきたじゃないかと。
自分の道を堂々と胸を張って誇れる。
大したもんじゃないか。
街の雑踏に包まれながら。