モバイルスタジオ史上、最重量。
スタジオ機材一式、インターフェース、シナリオ4部、ヘッドフォン2つ。
かなり頑丈に出来ているバッグとは言え、心配この上ない。
それを抱えて、稽古場に辿り着く。
時間と同時に稽古場に飛び込んで、スタジオを作る。
頭の中でスタジオ設計は済ませておいた。
まず、稽古場の6畳足らずの部屋の、ロッカーなどを撤去する。
音が溜まりそうな空間の少し手前に大き目の布を画鋲でぶらさげる。
ぴっちりではなく、まるで砂漠の遊牧民のテントのようにだらりとだ。
そこを起点に壁を覆っていく。
3畳ぐらいの毛布で囲ったブースを設置していく。
ある程度、おいらの設計がメンバーに伝わったところで、今度はコンソール部分の設置。
机になるラックを並べて、まずPCの位置を定める。
そこから監督用モニタを接続、コントローラーを接続、インターフェースを接続。
PCから、演者用のHDMIを伸ばして、持ってきてもらった液晶に接続する。
インターフェースからは、マイクを接続。ラインアウトから稽古場のステレオの外部入力に接続。
ヘッドフォンアウトには二股をかまして、2つのヘッドフォンを接続。
ステレオは、いつでも音が出せる状態にして、そこに劇団員の持ってきた役者用ヘッドフォンを接続。
マイクスタンドにマイクを設置して、譜面台に台本をセット。
そこから電源を入れて、演者用セットを、ブースに移動。
マルチモニタ環境で、かつ、毛布ブースの中に、映像も音声もマイクも送りこめた。
見た目は手作り感が満載だけど、機材的にも音響学的にも、想像以上に優秀。
反響音もほぼ殺し切った。
簡易スタジオだけれど、完全にレコーディングスタジオのそれになっていた。
スタジオを知る織田氏は、小野寺、これ、すごいわ。よく考えたわとお褒めの言葉。
監督到着前にマイクのチェック、録音レベルのチェック。
時間が限られているメンバーから、録音していく。
監督到着と同時に、ヨーイドンで、どんどん録音していく。
その数、約200のファイルだった。
もちろん、複数テイクのセリフもあるし、「え?」なんかの一言も含めてだ。
それにしても、まぁ、よくそれだけ録音したものだ。
優先順位的に、元々アフレコ前提のシーンから録音していく。
役者から、「これ、画面見るんですか?台本観るんですか?」なんて面白い質問も。
いや、セリフ覚えて画面見て!って監督のセリフに思わず笑ってしまう。
アフレコもアテレコも、やったことなんかない役者たちなんだから。
実はちょっとずれたところでスピードが同じならこっちでタイミングをずらせるから心配ない。
それでも、口や体の動きに合わせないとって、必死になっている。
シーンによっては、役者にまずそのシーン全体を見せてからの収録も出来た。
キャラクターを思い出すために、別のシーンを観てもらって、この雰囲気でやってとかも出来た。
でも、それは、ほんの数シーンだけだった。
こればかりは、本当に申し訳ない・・・。
おいらは、役者だから役者の気持ちがわかる。
本来なら前後のシーンも含めて、芝居を見てから、録音に挑みたいはずだ。
ここは、こういう感情を入れてセリフを言わないと…という準備をするには前後が関係するからだ。
でも、時間の制約があるから、中々、全部そういうわけにはいかなかった。
おいら自身の収録もしなくてはいけなかった。
織田氏に操作を教えながらの収録。
レコーディングエンジニアと役者の切り替えがなかなか出来ない。
芝居に集中したくても出来ないタイミングもあったけど。
なんとか乗り切った。
集中していくぞと思った瞬間に、小野寺!パソコン変になったぁ~!って言われた時はそのままラリアットしそうになったけど。
かといって、結局、頼れるのはこいつだけだ。
もっと申し訳なかったのは、殆どの役者が、待ち時間との戦いだったことだ。
録音できるのは一人。
全員一緒に入ってどんどん出来るわけじゃない。
まぁ、大人数を入れたり3人4人入れて、一人ずつ声をもらったりもしたけれど。
それでも、この登場人物数の物語じゃ、当然、待っている人の方が多いのだ。
中には、来てもらって、待ってもらって、結局、なんの録音もなかったメンバーもいる。
本当、申し訳なくて、合わす顔がないよ。
頑張ったのだけれど、最後まで行かなかった。
優先順に、録音していくしかなかったよ。
せっかく来たのに、映像すら確認できなかったんだもんね。何人かは。
MAのKORNさんのプロのマイキングは難しいけれど。
そしてやっぱり、質感が少しずれている場合もあったけれど。
おいらのやれる範囲の収録はしたつもりだ。
監督にも、チェックは入れてもらった。
むしろ現場では、少し部屋なりがあったから、アフレコ部分には少しだけリバーブをかけないといけないかもしれないけど。
基本的には素直でクリアな音声を収録できたはずだ。
さっき、確認したら、マイクチェックの時から、結局興奮して、大声出してる箇所があったけど。
まぁ、そこは今度直せばいいだろう。
…っていうか、監督。
アフレコでセリフ変えてたのは、どういうつもりだ?
あれほど、字幕製作の〆切が過ぎていると説明したのに。
なぜ、今日になって、あっさりセリフを変えるとか言えるんだ?
怒られないか、なんというか、冷や冷やするんですけれど・・・。
まぁ、日本語のセリフと英訳が全然違う意味なんて言うのはよくあるこどなんだろうけれど…。
そして、まだまだ映画をよくしようとクリエイションしているのだから、おいらも、あまり強く言えない。そこは。
基本的には監督がやりたいようにやってほしいのが第一だ。
なんの制約もなく、監督の創りたいものになってほしい。
だから、ここ、セリフ変えたいとか出てきたときは、結局、やっちゃいましょうになっちゃう。
ダッシュでそのまま帰宅して、データの整理。
RECの設定なのか、Premiereで録音するとそうなのか、なぜかモノラル音がステレオデータに収録されている。
でもLにしか音源が入ってないからアフレコ音源はすべて左に寄ってしまっている。
録音中に気づいたけど、もう調べる時間も惜しいから帰宅して、全部直した。
一つずつモノラルに切り離して、張りなおしていく。
ここにきて、地道だなぁと思いながら、口とのタイミングが合ってなければコマ送りで合わせていく。
しかも、今日の音声を全て差し替えてから、書き出しをして圧縮をして、その上、明日の朝データ転送を約束している。
間に合うのかよ!と叫びながら稽古場から直帰してさっきまで踏ん張って。
実は、今、無事アップロード中。
なんとか、約束は守れそうな気配。
エラーが出なければだけれども。
役者たちは今、アフレコを体験して、どんなことを思っているかな。
役者たちは今、少しとは言え初めて目にした映像を、どんなふうに思っているかな。
すでにそこに、映画らしきものがあって、自分がその中に生きていることを。
帰宅してからどんなふうにかみしめているだろう?
もうすぐアップロードも70%。
このまま寝ちゃうか、終わるのを待つか。
ここまでくれば同じだけど。
まぁ、今は興奮気味で、どっと疲れるのも目に見えている。
録音できなかった部分をどうするのか。
まさかの来週延長なのか。
そこは、熟考しよう。