春一番の吹いた日。
明らかに生暖かい強い風が吹いた。
海沿いを走る電車などは軒並みダイヤを乱していた。
夕方ごろ、古賀Pの事務所に向かう。
背中にはモバイルスタジオ。右手には外付けハードディスク。
最初に映像データを受け取った時の外付HDDに、今日までの編集データのバックアップをしておいた。
HDDの返還と同時にデータの受け渡しをしておこうと昨晩、BUしておいた。
中には元々の映像データ、後から受け取った音声データ、配置してある音楽データ。
それに加えて、編集データ。Avid用のAAF。音声用のOMF、FinalCutPro7でも開けるXMLも書き出しておいた。
このハードディスクさえあれば、どんなことだって出来る全てのデータだ。
先日のオフライン試写の際、一度、データの整理も含めて逢いましょうかと言われていた。
多分、半日ぐらいあれば、ある程度の作業が出来るからとのことで、一日開けようとしていた。
けれど、都合の合う日程的に、出来れば夕方でお願いしたい旨をお伝えして快諾頂いていた。
もし、半日かかるとすれば、帰宅がいつになるのかもわからないから簡単に腹ごしらえをしておいた。
事務所に到着して、まずHDDを渡す。
これ、バックアップなので、自由にやってくださいと伝える。
XMLをFinalCutPro7で開いて観ると無事開いたけれど、リンクの張り直しが必要なようだった。
これでは、読み込みに時間がかかるから、PCでPremiere CC PROのデータを見せることになった。
外部HDDをつけずにそのまま立ち上げていると、あれ?ハードディスクは・・?と聞かれた。
そう、メインマシンの中にデータディスクも入っているのを知らなかったのだ。
内部HDDの方が当然アクセススピードが速い。
ただでさえ重い映像データなら、なるべくPCと直結したエリアにデータを置きたかった。
シーケンサーを立ち上げて、現在の編集を観てもらう。
映像はすでに、特別なマスクなど以外は1トラックにまとめてある。
音声は、1~2トラックにビデオ音声、3トラックにガンマイク、4~10トラックにセリフ、11、12トラックに音楽。
その全てを見せていく。
マスクや、テロップの確認もしてもらう。
全ての音声は貼り付け済みで、セリフは切り出してあり、LRパンナーも振ってある。
パンは、MAでも良かったかもですよ・・・ふむふむと、データをチェックしていく。
そのあと、今後のスケジュール、日程の確認。
最短で完パケが必要になるとすれば、このぐらいという日程の逆算で考えていく。
今週の出展、来月のマーケット、MA予定日から、カラコレ可能な日程も絞っていく。
カラコレ用に、必要なデータ形式を教わる。
その書き出し方も、考えておかなくてはいけない。
QuickTime形式のロスレス形式での書き出しで、カラコレに挑むと聞いたけれど。
結局、それをどうやって書き出すか迄はわからなかった。
(帰宅して確認したら、なんのことはないロスレス=非圧縮。日本語になっていただけだった)
そこまでやったら、あっという間に終わってしまった。
半日はかかると思われた作業が、1時間半。
様々なデータの書き出しをしてあったこと。
思ったよりも、編集データの整理も出来ていたこと。
そういう全てが正解だった。
実際に、事務所についてから、書き出したら、数時間待機なんてこともありえただろう。
そして、スケジュールも、頭の中に全て叩き込まれているから、すんなりと進んだ。
いつがRECで、いつがMA。出展の〆切。そういうものが完全に頭に入っている。
そうなれば、逆算すればいいだけなのだから、早い。
アフレコの相談もする。
古賀Pの事務所にある機材、持っていって大丈夫ですよとのこと。
一応、物色して、ヘッドフォンと、フォーン×RCA変換ケーブル2本口だけ借りる。
これで、監督の音声状況をイヤフォンではなくヘッドフォンに出来る。
そして、変換ケーブルをインタフェースから、稽古場のステレオのアンプに接続すれば外音のモニタリングも出来る。
他の器材は、なくても大丈夫そうだった。
考えてみれば当たり前のことだ。
殆ど、編集の初心者と言っていい。
どんなデータになっているか、整理にどれぐらい時間がかかるか。
きっと、ぞっとしていたと思う。
対価を払ったプロのエディターであれば、怒ればいいけれど、自分でやっているのだ。
半日もあれば済むと思うけれど・・・という目算を立てるのが普通だ。
やりたいだけでやられても、整理だとか後始末が大変になる。
だからこそ、プロがいるわけだし、そこが違いになる。
それが、まさか、トラックをまとめ、ロックをかけて、音声も切り出してあって。
MA前なのにLRパンまで整理してあるなんて、想像していなかったと思う。
データはほぼ触らないまま、終わったのだ。
おいらは映像の編集を後ろで眺めたことが何度かある。
PCによるオフライン編集の段階ばかりだけれど、これが初めてではない。
その微かな記憶を頼りに、勉強しながらの作業だった。
中には、勘でやったこともあるし、逆に今まで利用していたPhotoshopなどの使用法からの予測もあった。
そして、音楽畑で、シーケンサー自体には馴染みがある。
自分で音楽制作をしたわけではないけれど、レコーディングをすればProtoolsのシーケンスを必ず見る。
タイムコードや、シーケンスについて、そもそもの違和感がなかった。
日曜のアフレコでレコーディングエンジニアまでやることになったけれど、それも、出来るなぁという自覚がある。
経験が、今のおいらを支えている。
今までの日々が、勉強が、ここにきて役に立ってきている。
自分の歌のレコーディングするときも、マイキングの基礎から勉強しておいたのだ。
知識があって、損することはないというのがおいらの考え方だ。
帰宅してアフレコ用のシーケンスを作成しておく。
本チャンのシーケンサーをコピーして、映像をタイムコード付きで書き出したMP4と差し替える。
MP4の音声データは消して、録音用のトラックを作成しておいた。
当日はRECだけじゃない。書き出して、データ受け渡しまでが勝負だ。
今日までの編集工程が、正しかったのだなぁと帰り道に改めて思い起こす。
そして、今日、確実にその編集工程のゴールが見えてきた。
もちろん、編集が終わったらそれで終わるわけではないけれど。
長い長い編集期間の終わりが見えてきたというのは、なんとも、不思議な感覚なのだった。
春一番の強風の残りが。
夜道で頬を撫でた。