スケジュールを睨む。
やはりどう考えても、最短で完パケが必要になった時に時間が足りない。
少なくてもMAのスタジオワークがこぼれる可能性がどうしてもある。
MAをお願いするKORNさんにも相談を重ねる。
KORNさんとおいらの関係性もどうも劇団内では不思議なようだ。
冗談とも本気ともつかないことを忌憚なく言う人で、そういうのをおいらはあっさりと対応している。
おいらは、KORNさんとは長いし、二人でスタジオに入って、ムフムフ笑ってた日もあるし。
舞台用のなぞのSE作りをしたり、なぜかよくわからない映像の声優をその場で頼まれたり。
一緒にスタジオに入って、バンドやってた時もあるし。
そんなこんなで、色々なことがあったものだから、そういう時間を踏まえた関係性だ。
だから、無理も言われるし、無理も言うし、冗談も言える。
MAにかかる時間は、長ければ3日以上かかるかもしれない。
ただ事前にデータとシナリオを送っておいて、サンプルの映像も送っておいて。
それを観ながら、粗いバランスをとっておいたり、チェックをしておけば、当日の作業が減っていく。
ましてや、音楽監督の楽曲のベロシティを書き込むとなれば、そこにも時間がかかる。
出来るだけコンパクトに、今やれること、他に出来ることを模索しながら。
MAの日は、MAに集中できるように、していきたいと思っている。
今、最大の懸案事項はアフレコで、スタジオでアフレコをすれば、それだけで数日消費しかねないことだ。
アフレコとは、いわゆる、アフターレコーディングの略で、後から音だけを録音することだ。
色々なパターンでのアフレコがあるけれど、アフレコ前提での撮影シーンだってある。
編集後からセリフが増えるなんて言うこともなくはない。
ちなみに、よくにたアテレコなんて言葉もある。
いわゆる海外映画の吹替とか、CGキャラクターの声優とか、声を当てていくレコーディングだ。
どうも、アフレコって言葉が先に逢って、洒落のようにその言葉が定着していったらしい。
最近は、でも、アテレコって言葉はあまり聞かなくなったなぁ。
実は、昔の映画は、もうほとんどアフレコという場合もあった。
なんだったら、全編アフレコの超有名映画だってあるのだ。
意外に知られていないけれど、映画は映像にこだわる分、現場の音声が弱くなる場合がある。
特に昔の映画は、そもそもマイクがまだそこまで高機能じゃなかった分、音声面はアフレコの方が優位だったのだろう。
録音をやる人ほど、基本はガンマイクって思っているようだ。
その場に流れる空気の音、足音、落ち葉の音、衣擦れ。全てを同時に収録していくからだ。
役者が演じた時、その瞬間に生まれたものも確実に収録されていく。
だから、全てガンマイクで済めばそれが一番良いという考え方だ。
もちろん、相当な技術を持っている人でさえ、それだけでは不十分になる。
だから、逆にベテランの録音さんほど、ガンで収録して、あとはアフレコなんて人もいるらしい。
ガンマイクは指向性があって、狙ったピンポイントの音を拾えるようになっている。
空気感と狙っている音を収録さえできれば、あとは、EDITすればいいのだ。
最近はワイヤレスのピンマイクが高機能になっている。
それはそうだ。スマートフォンだけでも、かなりの高音質になっているのだから。
コンデンサマイクを仕込んで、それをワイヤレスでレコーダーに飛ばしていく。
胸元にあるマイクが、まるで口をつけて喋っているような音声で収録できる。
ただもちろん、弱点もある。
薄着であれば、装着できないし、振り返って喋れば、音声が弱くなる。
恋人同士が抱き合った瞬間、お互いの体でマイクを塞いでしまって、音声がくぐもったりもする。
実はそういう音を後から平常の音に戻すことはほとんど不可能と言っていい。
デジタルが発達したから、もちろんEDITで、聞き取れる音声まで復活は出来るけれど。
人間の耳は、復活した音声と、普段の音声のわずかな違和感も、感じてしまうように出来ているのだ。
前後が繋がっているのであれば、やはり、その音声は録音しなおした方が良い。
ピンマイクを完璧だと思ってしまうと、大変な目に合う。
だから、アフレコというのは今も必須だ。
もちろん、MA前の最後の最後にやればいいとも思うけれど。
やれるなら、やれるうちにだ。
ちなみに、現場でのアフレコというのもある。
現場で使っているガンマイクに向かって、オンリーと呼ばれる音声のみの収録をする。
そのシーンが終わってからだ。
モノローグなどは、そんな収録がしてある。
急に大声を出して、デジタルノイズが入った場合なども、一応、そのセリフだけもう一回くださいという場合もある。
その声を何度かヘッドフォンで確認したけれど、面白いマイク特性があるなぁと感じる。
ガンマイクはレコーディング用じゃないし、指向性も強いから、癖がある。
レコーディング用のマイクは、特性をなるべく減らして、原音に忠実な音を録音しようとするから対照的だ。
ヘッドフォンで集中して聞けばだれでもわかるぐらいの違いがあると思う。
相談しているうちにKORNさんから、アフレコお願いします。との言葉が入る。
KORNさんとしてもMAにじっくり取り組みたいだろうし、ベストを模索していたはずだ。
そもそもレコーディングエンジニアだからレコーディングのプロとしてアフレコもやりたいはずだけれど。
MA・・・マルチオーディオの略の、ミックス、マスタリングに集中したほうがベストという判断なのだ。
こちらでアフレコして、結果的に全然使えなくなる場合もあるけれど、やれるだけやった方が良いと判断してくれた。
信じられないことだけれど、レコーディングスタジオの高価なマイクも貸してくださることになった。
足りない機材のオーディオインタフェースも、相談に乗ってもらって、どの機種にするか検討してもらった。
そもそも、ここまで相談するおいらっていうのも、失礼な話かもしれないけれど。
KORNさんに相談して、冗談もたくさん入るけれど、相談に乗ってくれなかったことは今まで一度もない。
アフレコしておく優先順位を連絡して、注意点まで確認する。
リップシンクだけは、注意してくださいね!なんて連絡が来て、出た!専門用語!と思ったけれど。
口の動きと声のシンクロのことだった。
現場のピンマイクやガンマイクのマイク特性と合うマイクは恐らく同じマイクだけだろう。
それならレコーディングに使う原音に忠実なマイクの方が後からエディットしやすい。
おいらが持っているコンデンサマイクのハンドマイクでやろうと思っていたけれど・・・。
ひずみが出れば不可逆だし、マイクの性能が高いほど良いのは当たり前だ。
特定の周波数帯が持ち上がってしまうようなマイクだと、後からイコライザーで処理すると大きな差になる場合もある。
実際のアフレコ時に違和感がなくても、MA時にゲインを上げたら、全然違う声になることもあるのだ。
音の世界は、とっても微細だ。
古賀Pにも、アフレコの注意事項を教えていただくことになった。
金曜日に映像の調整でうかがうから、その時に一緒に教えてもらう。
それにしても、面白い。
ロケハンから。
大道具の材料探し。
美術設営。
俳優。
編集。
とにかく、どれだけ、色々なことをやるんだろう?
自転車にまたがっていた日もあれば、インパクトドライバーで大工だった日もあれば、役者までやって。
ネゴシエーションまでやって。
今は、PCに向かってエディットを繰り返している。
そこに、今度はエンジニアまで入ってくるのだ。
ふり幅が激しすぎて、ちょっと、面白い。
そして、何をやるにしても勉強してしまう自分の感じが、なんとも、なんともだ。
大脳に刺激を送り続けているただのドーパミンジャンキーなんじゃないかとさえ思えてくる。
まぁ、アフレコはそこまで心配していない。
そもそも音楽畑の監督もいるし。
ここは充分に録音出来るなっていう場面もある。
そういえば、弟もレコーディングエンジニアだったっけなとも思う。
全部できなくても、確実に後日の作業量を減らすことは出来るのだ。
おいらがやることのメリットも実はなくはない。
役者たちの負担も、確実に減るし、色々な注文もしやすいし・・・
役者も文句を言いやすいだろう。ははは。
さてもさても。
やるっつったら、やる。
その姿勢のまま進んでいるようだ。
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