朝から起きてヘッドフォンを装着する。
切り出したセリフ一つ一つをLRパンナーで振り分けていく。
モノラル音源で、全てのトラックがセンターに集まっていた時とは違う世界になっていく。
ガンマイクはまだなんとなく指向性があるから空気感があるけれどピンマイクはそうはいかない。
俳優が右から左に移動しているのに、音は常に真ん中にあるのは実は気持ち悪かったのだとわかる。
でも、考えてみれば、カメラそのものにマイクを繋いでおかない限り、LRなんて無茶苦茶になるはずだ。
なぜなら、撮影現場のマイクの位置は常に移動するからだ。
カメラに映らず、かつ、確実に役者のセリフを拾える位置にいるわけで、それがLだのRだのなわけではない。
実際に映っている映像では左にいても、マイクの右にいれば、音声は右に定位する。
時々感じていた気持ち悪さはそういう事だったのかと納得する。
そういえばPVやライブビデオは常に定位は同じにしておいて映像だけが切り替わる。
あれを不自然だと感じないのだから、脳はカメラアングルはアングルでしかないと理解できるという事なのか。
面白いのは表と裏でアングルを切り替える時だ。
カメラが裏側に入れば、LとRは逆転する。
左にいた人物のセリフが、いきなり右に行ってしまう。
そこでパンナーもいじったら、いじったで、気持ち悪くなった。
視覚情報はついていけているのに、どうやら聴覚情報がまともについていけない。
メインとなる映像のLRで固定して振り分けた方が落ち着いた音声になった。
もちろん、長めのカットなら切り替えるけれど、短いカット割りの場合固定しておいた方がよさそうだった。
もっとも、実際に上映するときは、ヘッドフォンではなく、劇場のスピーカーになる。
スピーカーになればなったで、どうしても箱鳴りがあるわけで、ヘッドフォンほど厳密にはならない。
もうちょっと音が混ざるだろうし、少しのパンぐらいだとわからなくなるかもしれない。
夕方ごろ、全てのセリフ音声のLR振り分けを終える。
全員同時に話しているような場面は、まったく変わったのがわかってやりごたえがあった。
完全に空間そのものが広がったのを感じる。
もちろん、MAでは、もっと細かく、セリフの途中でパンを書き込んだりもあるのかもしれないけれど。
今、出来る範囲では、ここまでだろう。
足りていなかった効果音のいくつかを配置して、2度目のAAF書き出しに入る。
マルチトラックのままデータを書き出せるのだ。
音声データは埋め込みで、かつ、切り抜いた前後も復活できる形式にする。
ところがレンダリングで、何度もエラー終了を食らった。
どうやら、レンダリング時の一時ファイルが膨大になりすぎてしまうようだ。
HDDを整理して、一時データの類をすべて削除。
作業工程の空間を作ってから、再度書き出しをしたけれど、これまた膨大な時間がかかった。
書き出されたデータは、なんと13GB。
いつも書き出している圧縮した映像データが5.6GBだから、とてつもない巨大ファイルだ。
音声も映像も、圧縮技術にどれだけの恩恵を受けているのかこれだけでもわかる。
まず、音声データをギガファイル便でアップロードする。
まぁ、13GBともなれば、数時間かかるのは仕方がない。ここはゆっくりと待つ。
正式なMAは、さすがに海外映画祭エントリーに間に合わない。
そもそも、まだアフレコをしていないのだから、MAなんて出来るわけがない。
けれども、オフライン編集が終わった時点で、出てきたスケジュールを思うと、出展は間近だ。
だから、ラフミックス的な、簡易なバランス調整をお願いしている。
もちろん、もしそれが出来る時間があればという事なのだけれど・・・。
もしなければ、現状のバランスのままの出展に切り替えていくほかはない。
実は今、世界三大映画祭の真っ最中なのはご存じだろうか。
ベルリン国際映画祭が今、開催されている。
2月というのは、映画関係者にとっては特別な期間のようだ。
ベルリンの開催と、カンヌ招待をめぐる仕事が一斉に始まるからだ。
実はオフライン編集が終わった時点で、すでにベルリンは開催間近で、カンヌのコンペティションもエントリー〆切を過ぎていた。
もちろん、世界三大映画祭ともなれば、監督の実績なども加味されてノミネートされるわけで。
長編初作品がノミネートされたことなんて、聞いたこともない。
ただし、三大映画祭・・・もしくは四大映画祭ともなると、コンペティション部門だけではない。
他にいくつかの部門があって、映画学校学生部門があって、短編部門があって。
そんな別部門であれば、処女作品であってもエントリーされることは珍しいことではない。
むしろ、必ずそういう部門では、初監督作品が数本エントリーされてきているのだ。
もちろん、別部門ではパルムドールだの金熊だのはもらえないけれど、充分以上の意義がある
そして、別部門とは言えそこだって当然のように狭き門なのだ。
そして、どんな映画祭でもエントリーするには基準がある。
他の映画祭に参加していないとか、一年以内の撮影とか、様々な基準だ。
その基準に合致する映画祭のどこかの部門に、セブンガールズは挑戦していくことになる。
その中の一つの〆切が、実はもう再来週に迫っている。
もちろん、編集途中のものでのエントリーが80%だと聞くから、今のままでもエントリーは可能だと思うけれど。
それでも、音楽が付いていたり、バランスが良ければ、少しでも優位になるのじゃないかと思う。
だから、ラフミックスでいいからバランスだけやってもらいたいと思ったのだ。
そして、今日の作業でそれをお願いできるまで、音声の振り分けなどを仕上げようと心に決めていた。
それが、なんとか終わったわけだ。
まぁ、時間も限られているし、アフレコ前提のシーンはどうにも出来ないし・・・。
そもそも、バランスと言っても、2時間を超えるのだからそんなに簡単にはいかないかもしれない。
まぁ、それならそれで!
別に、この作業が無駄になるわけではないのだから。
さて、今度は映像トラックの整理だ。
基本的に1トラックにまとめていく。
これまでは2アングルを二つのトラックに配置してスイッチしながらの編集もあった。
変更時にすぐに対応できるから、なるべく2トラックに映像をまとめておいたのだ。
けれども、もう映像はロックする段階だ。
基本的に映像は一本の流れにまとめてしまう。
もちろん、重ねて表示されるテロップ情報や、マスク用の画像、タイトルなどは2トラック目に配置するけれど。
まぁ、大した数じゃないし、ほぼ1トラックになった。
細かく切り刻んできた映像編集の日々を都度都度思い出した。
まぁ、よくもここまで切ったし貼ったものだ。
信じられないような長回しと、信じられないような細かいカット割りが混在している。
中には、観ている人のテンポを上げるためのカット割りまである。
ああ、そういえばこのシーンは苦労したなぁ・・・なんて思い出しながら、一本のベルトになっていく。
それ自体は、そんなに係る作業ではなかった。
今、本日2度目の書き出し中。
今度はMP4だ。
書き出しも、色々試し始めてみる。
編集上はカラーコレクションまで色をいじれないけれど。
書き出し時に、フィルターをかけられることが分かった。
前回の書き出しから、明度とコントラストを触って書き出したら、一気に色が映画っぽくなった。
今日は更にそれに、フィルムの質感を加えるLumetiカラーもかけておいた。
編集データには一切、色の変更をかけずに、書き出した映像にだけカラー情報を加える。
恐らく、映画祭提出時にカラコレが終わっていないことを予想して今から、特性を観ておこうと思っているのだ。
この書き出した映像で、監督にチェックしてもらえればいいかな・・・。
監督にはアフレコが必要なセリフのチェックもしてもらわないといけないけれど、時間が取れるかどうか。
はい。
本日はここまで。
前日のリフレッシュのおかげで、耳が死ぬことなく、最後まで行けた。
続きは明日。
朝起きたら、映像データが書き出されているだろう。
・・・エラーが起きなきゃねっ!!