朝からコワーキングスペースに向かう。
連日の編集に、脳が披露しているのを感じて甘いものを口にする。
監督が来るまでに映像データに音声データが乗っていなかったシーンに音を当てておく。
ガイド音声がないと編集にならないから、やっておこうと思ったけれど、昨晩間に合わなかった。
監督合流と同時に、編集がはじまる。
映画の中で起きる事件。
ここから、起承転結の「転」にシフトする。
物語の「それまで」の関係性が、全て変化し変わっていくのだ。
長い「承」が終わったことに感慨を覚える暇もなく、どんどん編集に突入していく。
確実に大きく物語が動いている。
シナリオのページ数でいえば、既に3分の2を経過した。
編集のテンポも確実に上がる。
素材の意図を見抜くのも当初より早くなっているし、EDITも早くなっている。
もちろん、繋ぎで悩むことはあるけれど、アイデアもすぐに出てくる。
脳も、編集モードになっているようで、普段から無意識に映像のつなぎ方を想定しているのだ。
すごい映像も出てくる。
普通の現場でいえば、確実に長回しと言われるような映像だ。
クレーンを駆使して、ローからパンしてと、どんどん動いて、一つの映像にまとめ上げている。
これ、このまま使いたいですね・・・なんて思うような映像。
そして、動的な映像も出てくる。
それはもう、すごい臨場感で、今までの映像と全然違う。
自然、編集方法も違ってきて、短くテンポを気にして繋いでいく。
これを大画面で見たら、どれだけ迫力が出るだろう。
スピード感あふれる編集になっていく。
編集をしていると全てのシーンがつながっていることが良くわかる。
別のシーンでも前のシーンに掛かっている。
だから、芝居が繋がっていないと成立しなくなる。
線になっているかいないか。
編集で、繋げる場合もあるし、そのまま芝居に任せる場合もある。
着地点を持っているのか、次のシーン、前のシーンを気にしているのか。
俳優にとって、どれほど大事なことか、編集をしているだけでよくわかる。
なんとなくだけれど、編集後のタイムも想定できそうだ。
恐らく、粗編集完成後で2時間20分前後か。
ただ、そのあとに、監督はソリッドにしたいようだから、かなり削れていくだろう。
やっぱこのセリフいらない。ここカットでいいや。
粗編集の時点ですでに出ているのだから、仕上げ段階ではもっと出てくる。
言葉で説明しているセリフ部分も、表情一発の方が説得力がある場合がある。
そうなったら、もう、セリフ部分なんて切ったほうが、結果的に良くなるのだ。
長い時間取り組んだだけあって、今日は大きく進んだ。
物語の転換点を越えたことで、編集に勢いがついてきたこともある。
ここから先は、それぞれの出演者のラストシーンがやってくる。
帰り道、監督が言った。
・・・結構、俺たち、頑張ってるよなぁ。
監督だって、長編の編集を主導することなんて初めてなのだ。
例え短時間でも編集をした日は、すごく疲れている。
五感のほとんどを集中させて、更に、様々なアイデアを出しながらの作業だ。
精神の摩耗は当然ある。
残念ながら、この疲れや頑張りは、中々、理解されないですねなんて笑いながら話す。
コワーキングスペースで、VR技術に触れる。
凄い未来がやってきているものだ。
あの世界の中で撮影だってできるのだ。
アニメーションの世界なんかは、あっという間に変わってしまうかもしれない。
撮影の練習をヴァーチャルの中ですることだって可能になっていっている。
ノートPCで、モバイルなスタジオなんて、かなり先進的だなぁとも思うけれど。
デジタルエフェクトなどを使っていない、いわゆるアナログなカット編集のみで進めている。
そこには、監督の観念が一つ一つ入っている。
タイトルやエンドロール以外で、デジタルエフェクトが最終的に入るかはわからない。
けれど、この粗編集では可能な限り、エフェクトもフェーディングすら使わないカット編集で進もうと話す。
映像技術を見せるのではなく、物語や芝居を見せるのだから。
同じ場所でVR技術なんて触っているから、少しそのギャップに苦笑した。
明日の編集はどこまで進むだろう。
なんとなく、ここまでは行くなと思っている場所はある。
ゴールの影ぐらいは見えてきた。
帰り道。
監督と話したように。
今日も脳内がシュワシュワしていた。