2016年11月12日

偶然のインタビュー

よく小劇場の世界の舞台俳優が仕込みの時に半分冗談のように口にする。
「早く仕込みとかしないで済むような役者になりたいもんだよ」と。
半分冗談、半分本気。
どこか仕込み作業を楽しみながらも、芝居とは別の仕事をすることに違和感も持っている。
現場に行くと、メイクさんや衣装さんが待っていて、楽屋で準備をして。
楽屋にお呼びがかかって現場に行って、ただ芝居に集中する。
そんなシチュエーションは、まるで、舞台俳優にとっては夢のような話だ。

けれど、おいらは、実はそれをそれほど良い状況とは昔から思っていない。
それがどんなセットなのか、どういう流れで芝居を作っているのか。
何もわからないまま、そのシーンだけ芝居しろと言われて、演じるのはちょっと不利だなぁとすら感じている。
人気俳優に至っては、映画3本、ドラマ1本なんていう苛酷な状況下で。
今日はどの映画の○○のシーン、明日はドラマなんて、日々を送っている。
もちろん、俳優たちはそれぞれの仕事を完璧に演じようとしているだろうけれど、ベストではないはずだ。

おいらなんかは、初めての劇場入りすると、その空間の中心に立って、まず大きく手をたたく。
手をたたいた反響音を確認して、その空間を把握している。
どのぐらいの声が、一番後ろまで聞こえるのか、距離感がどのぐらいずれているのか。
空間把握が、芝居感覚の第一歩だったりする。
そういう暇すらない中、芝居をするというのはどんな気分なんだろうなぁって思っていた。
でも、多くはやっぱり、芝居以外の作業はないほうがいいと思っているわけで、変わった考えだと思っていた。

「芝居だけをしている現状がもったいない」と題された2ページにわたるインタビュー。
俳優として作品制作にかかわる中で生まれてきた俳優の持つべき責任について答えている。
おいらは自分が変わった考え方なのかなぁと思っていたのだけれど。
逆に、映像俳優側からも、同じようなことを考えている発言があって驚いた。
実際に、今までこういうことを発言している俳優は、おいらの記憶にない。
まさか、小栗旬さんも、資金調達から製作から美術組み立てから編集まで関わっている俳優がいるなんて知りもしないだろうけど。
考えてみれば、勝新太郎さんも石原裕次郎さんも三船敏郎さんも、自分で映画製作に行っている。
それはきっと、「作品作り」を考え始めたら、芝居という言葉の範囲がどんどん広がっていったのだと思う。
空間把握や、美術の理解、照明の角度の理解も、全て芝居なのだと感じるからこそ、そうなっていくんじゃないだろうか。

現場に行って、そのシーンの芝居だけして帰っていく。
それは確かにプロっぽいけれど、同時に、何かが足りないんじゃないかってずっと思っていた。
少なくても、自分の出番のシーン以外の時間を知らないまま、編集後を待つというのが違和感があった。
それは多分、小栗旬さんだけではなくて、他の俳優でも、何人もいるのだろう。
小栗さんは、座組のトップになって、いくつもの作品に関わって、初めて発言できたのではないだろうか。
小劇場の世界で劇団をやっている連中は、劇場を抑えるところから、チケット販売や、大道具設営まで全部やる。
やりながら、芝居だけしたいよなぁなんて口にするけれど、結局、どちらも、ないものねだりをしているだけかもしれない。

編集前の勉強をしている中で、或いは、この撮影を通じて、そうなんだなぁと思ったことがある。
映像の世界は、徹底的に分業制だっていうこと。
二つの仕事を跨いでいるなんてことが、本当にない。
お互いをリスペクトしているということだし、それは全然悪いことじゃない。
それだけじゃなくて、同じ映像でも、業界の違いがあったりする。
CM業界、テレビ業界、PV業界、映画業界。
それぞれが、扱う映像が違うから、技術体系が違うことを学んだ。
CMは短い映像を豊富な資金で作成するし、テレビはとにかく早い編集を目指す。
だから、編集時に使うソフトまでまったく違ったりする。
化粧品のCMの女優の肌が異常に綺麗なのには実は理由があるし、あれを映画でやることはほぼ不可能ってことだ。
それぞれの業界、それぞれの業種、徹底的に分業されている中で、作業をしている。
だから、
「役者なんてもんは言われたとおりに、そこに立って、芝居にだけ集中してくれればいいんだよ!」
・・・という空気が確実に映像の現場にはある。
それはそれで真理だし、全員が素晴らしい作品を作ろうとしている証拠でもある。

ただそこで、疑問を持ったり、考えたりしている俳優がいるというのは、ちょっと力になった。
そして、同時にこのセブンガールズという映画が、特異な映画であることもよく理解できた。
それぞれには世界があって、その世界にはその世界のやり方がある。
郷に入っては郷に従うべきだけれど、時々、そんな壁をするりと抜けちゃう作品が生まれる。
それはそういう背景なのだと思う。
未来を想像すれば、もっともっと変わっていくのはわかりきったことだ。
Youtubeの登場で、映像や映像編集はより身近になっている。
その上、ソフトウェアもハードウェアも、日々進歩しているのだ。
映像の世界もきっと、まだまだ変わっていく。

ここまで書いて、ふと思い出して、岩井俊二監督のインタビューを再度読んだ。
行くところまで行っちゃってる内容だけれど。
今読めば、また依然と違った感想を持った。

やはり、とんでもなく、幸せな環境で映画製作していることを、強く強く感じている。
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posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 13:57| Comment(0) | 序章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする