ロケ地まで自転車を飛ばす。
空は曇天。
午後過ぎたあたりからポツポツ降り始めた。
撮影に支障をきたすほどではなくて良かったけれど。
自転車は置いていくしかなかった。
雨で風邪をひいて迷惑をかけるわけにもいかない。
翌日は快晴の天気予報だ。暑くなるなんて噂もある。
今日も順調に進んだ。
予定していたシーン数よりも多く撮影できた。
明日やる予定のシーン数は予定よりずっと少なくなった。
このまま巻いていけば・・・そう思える。
今日もモニタを何度か覗いたけれど、本当に素晴らしい映像だった。
そこはまさに昭和で、そこに人が生きていた。
これを繋げて、整音して、編集して、映画になるのか。
今、その最高の素材たちが集まりつつある。
予定の変更もあるから2種類の衣装を重ね着して待機していた。
結局、1種類も当たらずに、違う衣装に着替えることになったけどね。
でも、役者側でもこのスタッフワークのテンポを崩したくない。
仕事にはやはりテンポというものがあって、それを役者たちは肌で感じている。
最高の演技を最高のテンポで出していく。
それが、これからの日々の目標になっていく。
だから、事前準備だって必要だと思っている。
今日も最後の撮影はおいらのシーンになった。
関係ない俳優たちは既に帰宅して、スタッフさんとおいらと相手役だけの時間。
誰からも、小野寺君、デラサン、と話しかけられない成瀬になれる時間。
スタッフさんも、成瀬さんと呼んでくれる時間。
自分の中にすぅっと成瀬がおりてきて、目の前の真知を見た。
相も変わらず、ばつが悪そうに、ヘタクソな笑顔で真知を見た。
やっぱり、真知にしか見えない。
そんな時間が、なんというか、愛おしい。
もう二度とそのシーンを演じる時間はやってこないけれど。
あの時に動いたおいらの感情は、カメラに残っている。
そのことが嬉しい。
舞台と違う映像の楽しみ方をおいらは、どんどん感じている。
もっと、楽しみたい。
明日はもっともっとだ。
もっとプロの俳優でありたい。
スタッフさんが信頼するような俳優だ。
この人のシーンは大丈夫。そう思われたい。
もっと、自分の目指す場所を高く設定しないとだ。
そして、撮りたいと思われるような俳優になるんだ。
魅力的な俳優になるんだ。
こんな最高の環境、どこにもないんだ。