まだ薄暗い空の下、自転車を飛ばすと、徐々に朝が広がっていった。
いよいよ待ちに待ったクランクインを迎えた。
ついに、今までの全ての準備が、実際に映像になっていくのだ。
テスト!と助監督が言えば、テスト!と、あちこちで声が上がる。
本番!と助監督が言えば、本番!と、あちこちで声が上がる。
こんな声が上がる日が来るなんて。
これは、もう、とっくに夢の中なのだ。
無我夢中とはこのことなのだ。
今、映画を撮影している。
当たり前だ。
その準備をしているのだから。
だとしても、これは、なんなのだろう?
いつもの仲間がパンパン小屋で芝居をして、それが撮影されていく。
モニタを観れば、そこはもうすでに映画の世界。
美術と衣装と、そして芝居がそこにあるだけで、世界観が出来ていく。
これは、魔法なんじゃないだろうか?
映画の世界で働いている人にとっては既に日常なのかなぁ?
何よりも驚いたのは、スタッフワーク。
セブンガールズスタッフジャンパーを着たスタッフさんが右に左に動く。
照明のチェンジ、撮影部のチェンジ、そのスタッフワークの速さだ。
一度なんか、室内から室外にカメラが移動するときに、走っていた。
信じられないスピードで、スタッフワークがきびきびと進んでいく。
他の映像現場でも、ここまで早いというのは見たことがない。
今回のスケジュールをわかっているからこそ、最短でやってくれている。
結果的に、スケジュールを巻いた。
巻くということ自体も、助監督さんが驚いていた。
通常、その日の撮影スケジュール以外のシーンを撮影したいとなれば、色々と準備が必要だ。
けれど、誰も何も言わずに、明後日の予定のここを次にやらせてくださいと言える現場なんてありえないそうだ。
助監督さんに、欲を出してもう1シーンやるべきだと思いますか?と聞かれて。
おいらは、やりましょう!と即答していた。
その即答出来るのも、スタッフワークを見ていたからこそだ。
おいらたちは、プロの俳優だと思っている。
俳優をやって、飯を食えているのがプロだという人もいるけれど。
おいらの基準はそういうところにない。
おいらたちは、お客様からお金を頂戴して芝居をしているのだ。
飯云々ではなく、芝居を売っているのだ。
だからこそ、おいらたちは、プロでなければならない。
そう思って今日までやってきた。
だから、現場で急なスケジュールの変更があろうが、当然、即答でやると答えるのだ。
そんなこと当たり前だろ?と思っているのだ。
だからこそ、プロの仕事をするスタッフさんたちに。
プロの俳優として答える義務がある。
最短の時間で、気持ちもすべてピークに持っていく。
これは、きっと、覚悟の話だ。
おいらは、とにかく、楽しかった。
映像の現場で芝居を思う存分することが、楽しかった。
気持ちが動いて、それが、記録に残っていることが夢のようだった。
こんなに楽しかったか。映像。
舞台もとんでもなく楽しいんだけどな。
映像も、負けずに楽しいんだなぁ。
わくわくする。
なんというか、わくわくする。
早く、動く映像を皆様に見せたい。
おいらは、モニタの後ろで思った。
カメラの向こうには、モニタがあって、スクリーンがあって、皆様がいる。
おいらたちが、プロだと自負できるのは、皆様のおかげなんだ。
届けないといけないんだ。
映像はパーツで進んでいくけれど。
そういう気持ちはパーツではなくて、継続してそこにある。
明日も早い。
今から、楽しみでしょうがない。
あそこは、もう、おいらにとっては、家のような空間になってきた。
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