秋雨前線が南下した。
つまり北の高気圧が勢力を強くしたということだ。
秋の長雨が終わる。
これで仮に台風が発生しても、日本の南で方向を変える。
朝晩の寒暖差は激しくなるけれど、秋晴れの日が続くはずだ。
天高く馬肥ゆる秋。
高い高い青空が、ぽっかりと空に浮かぶ日だった。
そうなるはずだと踏んでいた。
エルニーニョ現象の終わり。ラニーニャ現象の始まり。
映画の撮影日程がタイトなことを考えれば雨量の少ない季節を選ぶべきだと思っていた。
それでいて、寒すぎず、暑すぎない天候の安定した季節。
そんな季節は日本には、ほんの少ししかない。
春は、一番天候が読めないからさ。
秋晴れが、エルニーニョの終わりだと、例年よりも遅めに来るのも調べていた。
流石に春先にそんなことを調べていた時は、笑われたけれど。
9月にあんなに雨が降るととても不安になったけど、秋雨が2か月も続かないことはわかってた。
撮影期間、どのぐらい雨量があって、どのぐらい曇天で、どのぐらい晴天だろう?
シナリオはどちらでも対応できるものだけれど、撮影効率はきっと大きく変わるはずだ。
まぁ、天候なんて計算できるものでもないのだけれど。
それでも、一応ね。
本当ならすべてを計算したいと思っている。
今日、散髪に行ったのだけれど。
これも、夏前に一度散髪して、どこまで切ったら、どのぐらいのペースで伸びるか確認してあった。
髭も本当は、どのぐらいの無精ひげで準備して、シーンによって変えたいと思っていたけれど・・・。
流石に、髪型や髭をシーンによって変えるようなスケジュールにはならないだろう。
完全な順撮りならともかく、撮影シーンは行ったり戻ったりするはずだ。
一歩間違えれば、髭が伸びたり、縮んだり、繋がらなくなってしまう。
女優によっては、なるべく撮影直前に美容院に行きたい人もいるだろうけれど。
男なんかだと、終戦直後だから、流石に切り立てほやほや感は不自然になると思っている。
だから、いつぐらいに切るのがベストか計算しておいた。
昭和感バリバリな髪型に散髪していたら。
理容のこういう髪型の技術は、最近の若い美容師は習ってさえいないという。
一番、習得するのに時間がかかった技術なのにと、ぼやいていた。
かつては、床屋に行けば、普通の散髪とは別に、メニューに掲載していたのにね。
鏡に映る理容師さんの視線の真剣さに、驚いたよ。
久々だったんだなぁ。
最近は、昭和な雰囲気の髪型は、その道の人でさえやめてほしいというそうだ。
パッと見ヤクザに見えないようにして。なんて、頼まれることもあるらしい。
でも、日本代表の本田選手や中田選手を担当している美容師さんは、理容の技術を使ってるねって。
おいらは、美容室なんか何度も行ったことないからなぁ。恥ずかしくて。
どんどん数が少なくなっているけれど、やっぱり床屋ってのは大事だし、美容室なんて女の場所だろって思う。
男のおしゃれは床屋からだよなぁ。
出来上がった自分の角刈りに惚れ惚れする。
角刈りは似合わない人もいるからさ。
まぁ、撮影の頃には、乱れちゃうけれど、今は直角で一直線だ。
ビッとしている。
菅原文太さん、高倉健さん、渡哲也さん、松方弘樹さん・・・どんどん色々な俳優を思い出す。
角刈りが似合うかどうかってのは、意外に大事なんじゃないだろうか?
秋晴れは夜まで続き、あんなに降り注いでいた陽光が消えると。
北の高気圧らしく、涼しい夜がやってきた。
刈り上げた頭に、冷たい空気が触っていく。
頭の中が、しゅっとした。
もう、動ける日はそれほど残されていない。
設営を重ねて、芝居に集中していくことになる。
美術設営の期間の、人数なんかのスケジュールを確認する。
思ったよりも時間がかかりそうだな。
現場でのリハーサルは断念して、直前まで設営になるかもしれない。
まぁ、それならそれだ。
ぎりぎりまで、素晴らしい美術を作るしかない。
設営も、天候で効率が随分違うだろうな。
ははは。
昭和な雰囲気にも見えるけど。
まんま、昔の大工さんにも見えるや。
頭をなでながら、笑い飛ばした。