通常のおいらたちのいつもの稽古ペースというのがある。
よくある劇団と違うのは、一年を通して毎週稽古があることだ。
とにかく、毎週稽古をする。
だから、公演が決まればその日から公演に向けて稽古する。
稽古回数はともかく、稽古期間は半年を超えることだってある。
そして、実際の舞台本番の直前にべた入り稽古をする。
べた入り稽古後に、小屋入りして、場当たり稽古をして、ゲネプロをする。
そこまでやると、舞台本番がやってくる。
本番後に稽古をしないかというとそうじゃなくて。
初日に、何か見えたりすると、そこの修正を、本番中でも直し稽古する。
千秋楽まで、稽古は続いて、少しでもいいものになるようにしていく。
通常の映画だとどうだろうか?
顔合わせを兼ねた本読み稽古があって。
そこから、撮影日まで稽古がない場合もあるだろう。
リハーサルがある場合もあるだろう。
撮影に入ってから、何度もカメラテストする場合もある。
おいらたちは、いつもの稽古のように、この映画に取り組むことで、この違和感をなくそうとしてきた。
映画化が決定したその日から、もう半年近く、稽古を重ねてきた。
シーンの稽古、役になっての稽古だけではなくて、カメラ前での稽古もやってきた。
もちろん、映像の仕事が入れば、こんなことは出来ない。おいらたちに合わせてもらえるわけがない。
だから、当然、一人で家で稽古して、現場に行くことになる。
それはそれで当たり前に理解しながら、それでも今回はこの企画の稽古をしてきた。
ただいつもの稽古ペースとは少し違ってくるはずだ。
撮影前の準備期間があるから、べた入り稽古はない。
撮影に入る前に、段取り確認の場当たり稽古もない。
そして、ゲネプロも、撮影前のカメラテストしかない。
そして、本番に入ってから、もう一度やる機会もないから、本番後に気づいても稽古できない。
それは、はるか半年以上前から俳優たちに予告してきたことだ。
今までとは、確実に稽古のペースが変わってくるからねと、何度も繰り返し言ってきた。
事前の準備、心持、そういうものが大事になってくる。
慣れた環境で、稽古ができれば、もっとも不安を払拭できるのかもしれない。
でもそれは、やはり、わがままというものだ。
少なくても、舞台という表現の場と、映像という表現の場という違いがある。
当然、スタッフさんの動きも変わってくる。
逆を言えば、映像の現場で活躍している俳優は、カメラテストまで、その不安と戦っている。
個々人で稽古して、本番に挑むのが当たり前の世界だということだ。
だから、どれだけ不安でも、そこと戦わないと、結局、意味がないだろうと思う。
そう思いつつ。
やはり、この作品で、全員が最大限の力を発揮してほしいなぁとおいらは思っている。
実は、こうやって、いつもの稽古を書き記すと、絶対に出てこない稽古がある。
少なくても、その稽古時間だけは確保できるようにしようと思っているのだ。
その稽古とは、いわゆる「セリフ合わせ」というやつだ。
べた入りしたり、小屋入りすると、それこそ目が明いている時間の大半を仲間と過ごすことになる。
稽古場で、稽古しながら、稽古を見ながら、コックリしながら、飯を食いながら、同じ場所にいる。
そうなると、不安なシーンがあれば、自然発生的に、役者同士で休憩時間にセリフ合わせをするのだ。
それは小さなことのようでいて、実は、一番大きな稽古なのかもしれないよなぁといつも思う。
特に小屋入り後に、組みあがった大道具を交えての、合わせ稽古は、クオリティをあげる。
準備不足が不安で合わせているようなのは、実は大嫌いで、じたばたしてんなよって思う部分があるのだけれど。
準備をしたうえで、本番と同じ条件で合わせようというのは、とても、有意義だと思っている。
今回、事前にロケ地入りして、準備期間を設けているのは、その狙いがある。
もちろん、全員が準備期間に参加することは難しいかもしれないけれど・・・。
実際に、準備期間に関しては、来れる人だけでいいよと女優には伝えてある。
でも、そこには、常に誰かがいて、実際に芝居をする場所で、当然、空き時間が出てくる。
セットが組みあがれば、装飾前でも空間はできていく。
その部屋が何歩で横断出来て、どこに壁や柱があるのか、わかるなかで合わせることができる。
同じ地面の上で、歩いたり走ったり踊ったりの練習だってできる。
準備期間のメインは当然準備だけれど、このスケジュールにも書かれないような共有する時間が芝居を濃くすると思う。
作業の合間合間に、その空間を把握していくことになるのだ。
逆にこれは、いつものべた入り稽古よりも、むしろ、利点だ。
舞台だったら、二日仕込みで、仕込んでから本番まで24時間も時間をもらえないのだから。
でも、今回は大道具が組みあがってから、数日間はそこにセットがあるのだ。
おいらなんかは、足回りや衣装なんかも、準備期間に持ち込んで、色々個人リハをしておくつもりだ。
正直、こんなにありがたいことはねぇなぁぐらいに思っている。
その上で。
美術建て込みのスケジュールの最後、装飾の段階に入っている時期に。
個人リハができる日をスケジュールに差し込んでいる。
撮影直前だから、監督は打ち合わせは、撮影順の確認などで大忙しの時期だ。
なかなか監督に芝居を見てもらうことは難しいかもしれないけれど、個人個人での稽古は出来る。
撮影前に、一度、役者が俳優モードに入れるようなアイドリンクタイムを設定しているのだ。
もちろん、予定なんて、結局予定でしかない。
美術の建て込みが、ある程度まで完成していなかったらこの時間はもらえない。
そのために、準備に参加できる女性は、来てくださいと言ってある。
稽古時間を手にするために、全員で協力する。
場合によっては、もう一日、合わせる日が増える可能性すらあるっていうことだ。
稽古日を設けることができるようにスケジュール調整をしてあって、そこを目指そうぜと言っている。
そこから、プラス1日稽古できるのか、マイナス1日稽古ができないのか。
それは、実際に作業をしてみないことにはまったくわからないことなのだけれど。
更に今回、ロケ地に、スタッフルームを作ることにしている。
撮影前の打ち合わせを、現地でもできるようにしているのだ。
想像ではなく、実際のロケーションやアングルを確認して、打ち合わせができる。
美術が装飾段階に入ってさえいれば、カメラテストだってできる。
とにかく、そういうサスペンション的な部分を用意しておこうと思ったからだ。
それはもう、ロケハンなんてものではない。
現場での確認ができるっていう時期に他ならない。
そういう時間が、俳優にとっても、もう一つの余裕を生むはずだと思っている。
そうやって。
撮影日直前まで、現地のセットで、合わせ稽古をする。
不安な部分を払拭していく。
そのために、今、出来る準備を、すべてやっておこうと思っているのだ。
その時間をなんとか、確保してやる!と心に誓っているのだ。