前日の解体撤去が思ったよりも進展したから、本日は搬出と、片付けだった。
あのパンパン小屋の象徴のように置いてあった家具を解体していく。
春に朝陽館に行って引き取ったミシンを解体する。
何十年も使われずに納戸で眠っていたミシン。
取っておけば、何かの舞台や撮影で使えるかもしれないけれど、取っておく場所もなく。
またお願いして、ビニールハウスに置いておこうか?なんて声も上がるけれど。
引き取る約束もできないものを勝手にそんなことは出来ない。
そんなことよりも、解体するほうがいい。
本当は何も起きずに廃棄される予定だった彼らを少しだけおいらたちは延命した。
そして、映画作品の中に永遠の命を封じ込めたのだから。
もう成仏してもらったほうがいい。
なくなるわけじゃない。
あの映像にしっかりと残っているんだから。
家具や、残った箱モノの解体。
何十年も生きてきた家具なのに、あっというまに板切れになっていく。
そして、板切れを整理していく。
昨日は山のようにあった廃棄物が少しずつまとまっていく。
すごいねぇ。
本当に前方公演墳の連中ってすごいんだぜ。
おとといまで撮影していたのにね。
あのパンパン小屋をものの数時間で跡形もなく片付けて。
それどころかお借りした建物の修繕まで手を広げて。
その上、廃棄物を細かくしていく処理まであっという間に終えちゃうんだ。
トラックを呼び込んで、基礎舞台と劇団倉庫備品を積み込む。
パンパンに詰まったトラックを送り出してから、おいらたちは、神社に向かった。
その土地の鎮守様。
その神社の歴史以上に、そこが聖地だったことは、神社よりも古い石塔が立っていることでわかる。
皆が当たり前のように鳥居の端を歩き、二拍二礼一拍、お辞儀までする。
ここは歴史の深い町だ。
ここがどんな町で、ここにどんな歴史があったのか知らないまま通っていた役者も多いだろう。
おいらは、この土地の歴史を調べて、この土地に眠る神様を調べて、この土地の伝説を調べてあった。
ロケ地を探しているときにこの神社にお参りした後に、あのロケ地に辿り着いた。
お礼参りだけは欠かせないと思っていたから、深々とお礼をした。
初めてロケ地の確認に来た日に立ち寄った土地の歴史資料館的な場所に行く。
そこで、あの時食べたうどんをもう一度、皆で食べる。
素朴で、田舎風で、口に合わないメンバーもいるかと思っていたけれど。
皆が、おいしいと言っていて良かった。
地のモノをやっと、食べた役者がいるんだなぁって思った。
そんなことをする暇もなかったから。
映画で俳優がロケ地に行けば、地のモノを食べる時間ぐらいどこかで空くものなのに。
そんなことをする暇すら今回はなかったんだなぁ。
織田と二人で歴史ある場所をふらりと覗いたりもした。
ロケ地に戻って、お片付け。
伐採してそのままだった枝を運び。
ロープでたくしあげておいたたるんだ電線を元に戻した。
廃棄物を一つにまとめていった。
昼過ぎには作業が終わり、トラック班が仕事をしていることが気になりつつも、そこで終えた。
残す作業はあとわずかだ。
翌日、長く皆で使用した仮設トイレの汲み取りがある。
廃棄業者が来て、バラバラに解体した廃棄物を持って行ってもらう。
最後に仮設トイレをリース会社まで返しに行って、それが終われば近隣のご挨拶だ。
それで、ついにここを離れることになる。
目をつぶれば思い出せる。
どこにどの箪笥があって。
どこにどの灰皿が置いてあって。
どこにランタンが引っかかっていて。
看板にどんなふうに文字が書かれていたのか。
いつも舞台だったら、撤去してそれで終わりなのに。
おいらたちには、映像が残っている。
あの夢のような時間は、なくなったわけじゃないんだ。
たぶん。
まったく小野寺はよぉ。
そう思っているメンバーもいるかもしれない。
そのぐらい苛酷なスケジュールをおいらは皆に強いてしまった。
そのぐらい苛酷な段取り、作業量をおいらは皆に求めてしまった。
普段やっている動き、ポテンシャルまで計算してのこととはいえ。
それでも、楽しく会話できる暇もない役者もいたんじゃないかなぁ。
トラック班から終了の連絡が来た。
そこに「たのしかったなぁ~」って書いてくれた。
本当に楽しかったのだと思うけれど、苛酷でもあったと思う。
おいらに気を使ってくれているのがわかった。
こんなことをやりたかった。
セット撮影の作業が、静かに終わろうとしている。