2016年08月13日

海のある街に

早起きして、母と待ち合わせる。
電車にしばらく乗ってから、長距離バスに。
お盆の混雑で予定より遅れたから、純喫茶に入る。
電車は1時間に1本しかないのだ。
最寄り駅に付いたけれど、タクシー乗り場がなくなっている。
その街のタクシー業者は廃業していた。
仕方なく隣駅のタクシー業者に電話して、ようやくタクシーに乗る。
タクシーは海水浴場を横目に、父の眠るお寺に着いた。

墓掃除をする。
頑固な苔が花瓶にこびりついている。
墓石にたくさんの水をかけても、炎天下じゃすぐに乾いていく。
線香の束に火をつけて、父や、先祖代々の墓に備えていく。
ビールを開けて、父の墓に注ぐ。

6年前の秋。
父はそれまで元気だったのに、急に心臓が止まって、亡くなった。
1日の入院もしていない。
病院に運ばれて、そのまま。
母は動転して、おいらは冷静でいなければならなかった。

今、自分がこうしてセブンガールズの映画化に邁進できる原動力の一つだ。
父にもっと、息子自慢させてやりたかった。
小劇場で舞台ばかりやっていても、飲み友達に大した自慢なんかできやしない。
だから、この動転している母だけでも、息子を自慢させてやりたい。
そう、その時に強く強く思った。
今のままではそれが出来ないと思って、様々な事をしてきた。

父が他界した翌年の3月に、東日本大震災が来た。
母は、枕元にヘルメットを置いて、もしもの時はかぶっていたのだという。
父がいれば、もっともっと、安心できたのに。
母も年を取った。
タクシーがない街で、これからどうやって、お墓参りすればいいだろう。
海辺を歩くのも、季節によっては、年齢的に厳しいだろうに。
リウマチで変形した細い手をみると、憂いばかりが残る。

海風の中を、日傘をさした母と歩く。
今年の11月。6年目。
父の七回忌が待っている。
でも、まだ、詳細な撮影スケジュールが出ていない。
仮に撮影スケジュールが固まっても、予備日であったり、もしかしたら墓参できないかもしれない。
だから、お盆に来れて良かった。
母が水分補給しているか。
変な汗をかいていないか。
目が朦朧としていないか。
歩きながら何度も振返って確認してしまう。

この街にもフィルムコミッションが出来て、ドラマや映画の撮影が増えたそうだ。
確かに都会にはない風景、田んぼ道、海、山、港。
撮影場所はそこら中に溢れている。

行きと違って、帰りはとてもスムーズに進んだ。
バス停に到着すると同時にバスが来た。
長距離バスでまどろみながら、海辺の街を後にする。
気付けばいつもの街。いつもの風景。

年を取ったとはいえ。
元気がないわけじゃない。
昔よりは元気じゃなくなったけれど。
ただ、もう、おいらがお母さんにしてあげられることは、そんなにたくさんないんだ。
とても悲しい事だけれど、お母さんにもっと喜んでもらえることが、そんなにたくさんないんだ。
だから、おいらは、映画を創るよ。
お父さんの七回忌に出れないかもしれないけれど。
おいらは、映画を創るよ。
お母さんが喜んでくれると思っているんだ。

海辺の街で、お父さんが笑っている。
そろそろ、ビールの酔いから、冷めたかな?

今からもう一度、実家に出かける。
歩いて10分だからさ。
おがらに火をつけて、迎え火を焚くんだ。
煙に乗って。
海辺の街からやってくるかな。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 17:40| Comment(0) | 映画製作への道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする