早起きして、母と待ち合わせる。
電車にしばらく乗ってから、長距離バスに。
お盆の混雑で予定より遅れたから、純喫茶に入る。
電車は1時間に1本しかないのだ。
最寄り駅に付いたけれど、タクシー乗り場がなくなっている。
その街のタクシー業者は廃業していた。
仕方なく隣駅のタクシー業者に電話して、ようやくタクシーに乗る。
タクシーは海水浴場を横目に、父の眠るお寺に着いた。
墓掃除をする。
頑固な苔が花瓶にこびりついている。
墓石にたくさんの水をかけても、炎天下じゃすぐに乾いていく。
線香の束に火をつけて、父や、先祖代々の墓に備えていく。
ビールを開けて、父の墓に注ぐ。
6年前の秋。
父はそれまで元気だったのに、急に心臓が止まって、亡くなった。
1日の入院もしていない。
病院に運ばれて、そのまま。
母は動転して、おいらは冷静でいなければならなかった。
今、自分がこうしてセブンガールズの映画化に邁進できる原動力の一つだ。
父にもっと、息子自慢させてやりたかった。
小劇場で舞台ばかりやっていても、飲み友達に大した自慢なんかできやしない。
だから、この動転している母だけでも、息子を自慢させてやりたい。
そう、その時に強く強く思った。
今のままではそれが出来ないと思って、様々な事をしてきた。
父が他界した翌年の3月に、東日本大震災が来た。
母は、枕元にヘルメットを置いて、もしもの時はかぶっていたのだという。
父がいれば、もっともっと、安心できたのに。
母も年を取った。
タクシーがない街で、これからどうやって、お墓参りすればいいだろう。
海辺を歩くのも、季節によっては、年齢的に厳しいだろうに。
リウマチで変形した細い手をみると、憂いばかりが残る。
海風の中を、日傘をさした母と歩く。
今年の11月。6年目。
父の七回忌が待っている。
でも、まだ、詳細な撮影スケジュールが出ていない。
仮に撮影スケジュールが固まっても、予備日であったり、もしかしたら墓参できないかもしれない。
だから、お盆に来れて良かった。
母が水分補給しているか。
変な汗をかいていないか。
目が朦朧としていないか。
歩きながら何度も振返って確認してしまう。
この街にもフィルムコミッションが出来て、ドラマや映画の撮影が増えたそうだ。
確かに都会にはない風景、田んぼ道、海、山、港。
撮影場所はそこら中に溢れている。
行きと違って、帰りはとてもスムーズに進んだ。
バス停に到着すると同時にバスが来た。
長距離バスでまどろみながら、海辺の街を後にする。
気付けばいつもの街。いつもの風景。
年を取ったとはいえ。
元気がないわけじゃない。
昔よりは元気じゃなくなったけれど。
ただ、もう、おいらがお母さんにしてあげられることは、そんなにたくさんないんだ。
とても悲しい事だけれど、お母さんにもっと喜んでもらえることが、そんなにたくさんないんだ。
だから、おいらは、映画を創るよ。
お父さんの七回忌に出れないかもしれないけれど。
おいらは、映画を創るよ。
お母さんが喜んでくれると思っているんだ。
海辺の街で、お父さんが笑っている。
そろそろ、ビールの酔いから、冷めたかな?
今からもう一度、実家に出かける。
歩いて10分だからさ。
おがらに火をつけて、迎え火を焚くんだ。
煙に乗って。
海辺の街からやってくるかな。