待ちに待っていたお知らせが来た。
美術監督の杉本亮さんから美術イメージを持ってきてくださるとの連絡だ。
8月半ばまでにイメージをという話だったので、もしかしたら今週かなとは思っていたのだけれど。
実際にその連絡が来たときは、飛び上がった。
今、イメージを手に出来ることがどれだけ前進に繋がるだろう。
そういう思いだ。
先週のキャスティングに続いて、更にまた一歩進むことになる。
クラウドファンディングでも、杉本さんの美術は一つの柱になっていた。
皆様が良く知る映画やCMを数多く手掛けている、今、最も勢いのある美術監督さんだ。
日本アカデミー賞美術優秀賞をはじめとして、多くの賞も手にしていらっしゃる。
そんな方がひょんなことから、舞台の美術を手掛けてくださるようになった。
時を同じくして、デビッド・宮原が映像の世界にも進出し始めていたのだけれど・・・。
まるで、この劇団は映画を創る方向に向かいつつあるのではないかとおいらは感じていた。
そして、とても不思議な事だけれど、杉本さんが舞台を手伝ってくださるようになってからほぼ同時期に。
杉本さんは舞台のプロデュースをすることになって、おいらたちは、映画製作を始めることになった。
その舞台のお手伝いを頼まれて、その打ち合わせの席で、この企画に参加してくださらないかお願いした。
当然、通常の映画の美術予算から比べたら、数十分の1という企画だし、しかも現代劇ではないという条件。
それなのに、杉本さんをはじめ、クラウドファンディング成立に向けて、応援までしてくださった。
映画畑に住む杉本さんと、舞台畑のおいらたちが出会って、そのまま交差していった。
その杉本さんproduceの舞台「怪獣の教え」は、人気となって、この秋、再演が決まっている。
今回の映画の最初の打ち合わせでも、恐らく美術が軸になりますねという話になった。
終戦直後の焼野原に立つバラック小屋。
その場所を実際にどうやって再現するか、或いはそれらしい雰囲気だけで乗り切るのか。
そして、低予算でどこまでそれが可能なのか。
まずそこからじゃないでしょうか?とのプロデューサーの意見はとても納得するものだった。
この予算で、時代劇など、見たことも聞いたこともないと言う。
誰だって、そう考えるに決まっているし、誰だって、そうなると思うはずだ。
そして、簡単な事じゃないし、おおよそ不可能と、まず諦めてしまうような条件が重なりすぎている。
クラウドファンディングを達成して、すぐに杉本さんに美術の相談をした時。
これは、到底、無理だぞと思うような見積もりと内容で、一人で深く落ち込んだ。
条件としてはなるべく一か所で移動が少なく、創り込みから装飾が出来る方が予算的には良くなること。
材料やレンタルする建具などを、なんとか、どこかから手に入れて、なるべく予算を削ること。
実際に創り込みや建込みをする段階で、人件費が掛からないように、手伝える体制をとること。
なんの目処も立っていない段階では、この全てを揃えることなんか、不可能だって思ってもおかしくないはずだ。
まさかそこから、他の映画で使用したセットの廃材が手に入ることになって。
廃業する旅館のいくつかに電話して、その建具どころか、鏡台などの装飾品も手に入ることになって。
それを保管しておく場所まで提供していただけることになって。
かつ、一か所で、作り込みから建込みまで可能な場所までみつかるなんて、こんなのは奇跡だと思う。
不可能かと思われた条件が次々に揃っていった。
後は、実際に現場を見て、その材料で、そこに美術がこの予算で建つのか。
そして建ったとしても、実際の撮影をその美術で出来るのかだった。
ロケーションハンティングの時は、ただただドキドキしていたけれど、ここでイメージを作ると言ってくださった時。
これまでの多くのことを思い出した。
たくさんの信じられないような偶然が重なって、ようやくその、イメージを見る日がやってくる。
信じられないような偶然は、信じていたからこその偶然だった。
恐らく美術のイメージがあがって、プランが固まれば、更に必要なものがわかってくるだろう。
そして、監督のイメージも固まるから、最終稿にとりかかることになるだろう。
まだまだ壁も多いし、ここから本決定まではいくつかの段階があると思う。
これまでと同じように、様々な問題に正面から取り組んでいくしかない。
というか、おいらに出来ることなんかそれぐらいしかないのだ。
あと数日。
どんなイメージをおいらは目にするだろう。
終戦直後のバラック街。パンパン小屋。
杉本亮さんのデザインが、今から待ち遠しい。