2016年08月02日

見た

再びロケ候補地に向かう。
いよいよこの日が来た。
見つけた時は運命的だとすら思った場所。
その後、大家さん、借主さん、町内会長さんなど、挨拶に回った場所。
ここでの撮影になるのか、或いは他の候補地を探すことになるのか。
この映画にとって最善は、どこなのか。
その多くの判断材料になる、美術監督の目から見た、ロケーションハンティングだ。
そして、今日、その地に、初めて監督も足を踏み入れることになった。

正直、8月1日にと決まったその瞬間から今日まで、気が気じゃなかった。
おいらは、映画が良くなるならどこで撮影しても良い。どうなっても良い。
ただ、おいらにはわからないことが、たっくさんある。
判断できないことも、たっくさんある。
美術の杉本さんや、Pに、色々な意見を聞いて、監督がどうイメージして。
美術プランから、撮影計画を建てられるとなって、初めて、具体的に動き始める。
わからないことだらけのままだったけど、その具体的な一歩に入るか入らないか。
それが、わかるのが、今日なんじゃないかって思っていたからだ。

事前に杉本さんの時間を確認して、監督のスケジュールを抑えて、ロケ地の借主さんに連絡して。
後は、その日を迎えるだけだなって状況なんだけど。
実際に、全員が揃う瞬間まで、おいらは、少しふわふわとしていた。

車で来る監督と待ち合わす。
道案内をしながら、現地に到着すると、まだ美術スタッフ一行は到着していなかった。
監督を、ほぼ何も置かれていないアトリエ内を案内していく。
劇団では大道具を毎公演建て込むけれど、デビッド・宮原はある程度、大道具が建ってから劇場入りしてもらっている。
余りにも何もなくて、ここに本当に低予算でお願いできるのかなぁって心配を口にする監督。
毎公演、大道具も建て込んでいるおいらとは、やはり、少しずつ感覚が違うかもしれない。
大道具を建て込む中心になる劇団員を一度連れてきたときは、いけるんじゃないかと言っていたけれど。
実際の建込みの作業工程が見えているか見えていないかで、大きくイメージが変わるだろうと思う。
そこに、美術スタッフが到着した。

すぐに、建物で使用できるスペースや、裏口などを案内する。
壁と屋根だけで、美術品が端に置いてあるただのスペース。
ふと見ると、既に同行してくださった美術スタッフの岡田さんや齋藤さんが動き回っている。
様々なアングルから写真を撮影し、レーザーポインタでスペースの広さをメモし始めている。
そういう事務的な動きとは、全く別の動きを美術監督の杉本さんはした。
頭の中で、何かを計算しながら、一つずつ確認しているのが分かった。
いや、計算でもないのかなぁ。イメージなのかなぁ。
とにかく、その頭の中まではおいらにはわからないけれど。

おいらが、尋ねた。
「ぶっちゃけていいです。どうですか?予算内で、ここに撮影場所は作れますか?
 無理なら、無理で、もちろん、すぐにでも他の方法を探しますので・・・」
「今、こういう方がいいんじゃないかっていう提案も出ています・・・」
杉本さんは、すぐに監督とおいらに説明を始めた。
齋藤、ここ、何メートル?
うん、こっちは?
それなら・・・
そこから先、どんどん部屋のイメージを口にしていく。
いや、部屋だけじゃなかった。
建物の外を指さして、廃材パネルの在庫を岡田さんに確認する。
それなら、こことこことここに、建てて、あとはこういう化粧をして・・・こんなものを置いて・・・
おいらは、その杉本さんの頭の中でどんどん出来上がっているイメージをまさにリアルタイムで目にしていた。
そして、驚いたのが、その話を聞いているときの監督の顔が、どんどんイメージを共有させていったこと。
美術監督と監督がイメージを共有している時間に立ち会ってるんだなぁ・・・とすごく感慨深いものがあった。

説明の中には、ありものでここまで作れるという予算内に収める話や、作業工程がここは意外に早く作れる。
そういう予算的な部分、技術的な部分の説明もあって、それも、おいらの頭に落とし込んでいった。
いつも大道具を建て込んでいる作業があるからこそ、その言葉の意味も理解できる。
劇団員の多くは腰道具も持っているし、ナグリを手にして来たのだ。
今日までの自分の履歴に少しだけ誇りを持てた。

現場を後にして移動しましょうと提案して歩いていると。
監督の姿が見えない。
振返ると、腕を組みながらじっとメインとなる建物を見ている監督がいた。
わ!今、頭の中ですごい映画監督をしてる!と、つい声に出ると。
齋藤さんが笑顔で、「映画監督ですよ」とおいらに言う。
そうなんだなぁ。
本当に大変な苦労をさせてしまっているけれど。
あそこに立っているのは、いつものデビさんじゃなくて、映画監督なんだなぁってつくづく思った。
腕をほどいて観終わった頃に、もう一度、声をかけた。

場所を移動して、ファミリーレストランで打ち合わせに入る。
杉本さんも、焼野原に出現したバラック小屋の白黒写真を用意してくださっていて。
それを監督に見せながら、イメージをどんどん説明していった。
時代感を出すためのテクニック、そのために必要なもの。
そういう部分まで。

そして、紙をそこに置き、簡単なイメージをさらさらと書いた。
その時、カメラをここに置けるようにする、こっちのアングルも行けるようにする・・・
そんな撮影効率に関する部分まで、紙に書いて説明してくれた。
監督は、作りやすいようにするのを優先してくださってもいいですよとまで言った。
創りやすさよりも、撮影のしやすさを優先しようとまでしてくれていたからだ。
すごいなぁ。本当に、すごいことだなぁ。

8月半ばまでにイメージだけでも、作るようにします。
ニコニコ笑いながらだけど、おいらは、とてもとても力強くその言葉を感じていた。
去年末にお手伝いさせていただいた「怪獣の教え」のプロデューサーでもあるから9月の再演の準備で忙しくなる前にやってくださるという。
そして、イメージが出来たら、また打ち合わせましょうということになった。

帰宅して休んでから、プロデューサーにとりあえずの連絡だけする。
今日、杉本さんから聞いた全ての話をメールにすることはほぼ不可能だ。
まだまだ、撮影スタッフの判断、照明スタッフの判断、様々な判断があるだろう。
一つ一つ、打ち合わせを重ねて、様々な事が決定していく。
今日、わかったことの詳細も、どこかで話さなくてはいけない。

ただ、おいらは今日。
実務である下見なのに。
少し感動していた。
なぜなら、杉本さんの頭の中に出来ていったイメージの一端を覗けたからだ。
監督程、イメージ共有できていないかもしれない。
でも、やっぱり、そこにバラック小屋がうっすらと、おいらの目にも見えた。
あの焼野原の時代が、そこに現出していたからだ。
この感じを、誰にどう伝えればいいだろう?
役者たちに、仲間たちにどう伝えればいいだろう?
そして、監督はどう伝えるだろう?
きっと、監督の頭の中にはそのイメージの中に、登場人物も動いていたんじゃないだろうか。
また一つ、監督の頭の中の映像が出来たんじゃないだろうか?
その世界を早く覗きたい。見てみたい。

次に杉本さんに会う時は、セットのイメージがある。
ついに、それを目にすることが出来る。
それがとても、楽しみだ。
いつもそうだもんね。
杉本さんチームがイメージ画像を起こしてくれたら声が上がって。
図面や、ミニチュアモデルを、持ってきてくれたら、声が上がって。
きっと、役者達も、そのイメージを早く共有したいだろうな。

今日、そんな一歩を踏んだ。
一歩にも色々な歩幅があるけれど。
今日の一歩は、これまでの一歩と違う一歩だなぁと、しみじみと感じている。

初めて、この場所を見つけてからもう半年も経っていた。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 01:58| Comment(0) | 映画製作への道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする