稽古だった。
参院選の日でも稽古がある。
今、結果速報を眺めながら、今日の稽古を思い出す。
今日も、それぞれのシーンで、選りすぐった中から選んで、それぞれが稽古をした。
どういうわけだろう?
特に女優が演じるシーンが、かぶっていった。
全員ではないけれど、それぞれ「作り笑い」のシーンが選ばれて行った。
別に、わざとだったわけではないと思うのだけれど、偶然にもそういうシーンが多かった。
本当は悲しいのに笑う。
本当は怒っているのに笑う。
本当はつまらないのに笑う。
本心があって、建前で笑う。
つまり、感情表現をストレートではなく、一つフィルターを作っていることになる。
なんというか、そこがテーマだったメンバーは、皆、苦しんでいた。
何度も何度もやり直して、何度も何度も首をひねっていた。
作り笑いを創ることは、出来ない。
無理やり作った笑顔を創ると、「創る」が二重になってしまうからだ。
それが、作り笑いに見えることは、実はかなり難しい。
作り笑いを演じるとすれば、まず、感情を創らないといけない。
もう、泣く寸前の悲しさを自分の中で創ったり、激怒するぐらいの怒りを創ったりする。
それが、顔からどうしても出てしまうようなレベルになって、無理やり笑顔を創る。
それが、作り笑いだ。
つまり、作り笑いを創るのではなくて、感情を作ってから笑えばいい。
作り笑いになってしまう状態を創るというのが正しい。
もしそこで、笑いながら涙がこぼれてしまうのだとすれば、それはそれで正しい。
もしそこで、笑顔が引きつってしまうのだとすれば、それはそれで正しい。
今、テクニカルな部分をチェックしているから、それぞれ迷宮に入っていった。
作り笑いを創ろうとしてしまったんだと思う。
根本的に、なぜ、作り笑いになってしまうのか?という部分にまで行かなくなる。
目の前のカメラと、監督の言葉と、出来ない自分に、どんな顔をすればいいんだろう?って方向に進んでしまう。
それは、実は、俳優にとってはありがちなことで、どうやろう?から抜けられなくなるパターンでもある。
どうやろう?どう言おう?というテクニカルな部分は出来ないほど、そっちに意識が行く。
自信を失えば失う程、その役の発想ではなくて、俳優自身の発想で演じようとしてしまう。
おいらは、作り笑いのシーンではなかったから、逆に観ていて勉強になった。
はまってんなぁって思いながら。
そうなると、じゃぁ、感情ってどうやって作るんだよ?って話になってしまう。
感情は創るものじゃなくて、湧き上がってくるものだから。
創った時点で、感情なんて実はうそっぱちになっちゃう。
怒ろうとして怒っても、それは嘘なんだから。
そのこと自体にその役が本当に怒るっていう流れを自分で創っていかなくちゃいけないって事だ。
舞台だったら、それがやりやすい。
何故なら芝居が繋がっているからだ。
相手の芝居を観て、それまでの自分の芝居を通じて、本当に悲しくなったり、腹が立ったりする。
その感情のまま、笑顔を創れば、意識せずに作り笑いになっている。
それが、作り笑いのシーンだけスポットで練習すると、途端に足元が危うくなる。
でも、映像ってそもそもそういうものだから。
これは、大事なことを学んだと思う。
デビッドさんの作品には、本音と建前が交錯するシーンがたくさんある。
悲しいのに笑うこともあれば、楽しいのに押し黙ることだってある。
一貫してデビッドさんの中でぶれなかったテーマがあって、それが「人間」を描くことだった。
それは、旗揚げから一度もぶれたことがなくて、どの公演でもそこには拘ってきた。
その中で、人間の中にある矛盾であるとか、二面性であるとかは、必ず、どの作品でもキーポイントだったと思う。
どんなに素直な登場人物でも、どこかで泣くのを我慢したりしてきた。
ある意味、滑稽な姿だったと思う。
でも、おいらは、そこがいつも演じるうえでのテーマだった。
清濁合わせた、どうしょうもない、一人の人間が出る瞬間。
いつも、そんなシーンに出会いたかったし、出会えばそこから芝居を作っていった。
作り笑いなんて、難しくないよ。
今日は、たまたまはまっちゃっただけだろうから。
落ち着いて、前後のシーンを全て読んで、組み立てたら簡単に出来る筈さ。
蚊に刺されて、かゆくてかゆくて、掻いているうちに、今、何をしていたのか忘れちゃう。
それが、人間なんだなぁって思う。
テクニカルな部分で迷った瞬間に、何を演じてるのか迷子になっちゃう。
それは、観ていて、自分にも起こりうるぞ。危ないぞ、危ないぞ!という、いわば警報だった。
おいらにも、ある。
本音と建前が交錯するシーンが。
あそこはいつ稽古することになるかな。
その時、はまらないようにしろよ。
自分なりの答えを今から用意しておけよ。
そう何度も思った。
本当はちょっとだけビビってるくせにさ。
作り笑いで、出来る出来るって笑ってんだ。おいらは。