2016年05月24日

ベン・ハーを越えた日

昨日のうちに脱稿したばかりのシナリオ初稿を各スタッフさんに送信しておいた。
本読み稽古を一部スタッフさんの前でやる前に当然、送信しなくてはいけない。
先に目を通しておいた上で、本読みの見学に来たいと聞いていたからだ。

ただ送信する前に、実は、デビッドさんも、おいらも心配していた。

それは、シナリオの分量だ。
劇団前方公演墳の台本は、実は分厚い。
通常の舞台の上演台本に比べると、1.5倍~2倍ぐらいある。
それは、短いセリフや合いの手があるから行数が増えるし、テンポの速いシーンもあるからだ。
デビッドさんの台本を普通の演出家が演出したら、3時間ぐらいの公演になっちゃうんじゃないだろうか。
元々、そういう早いテンポが持ち味だし、当然そうなる。
おいらは、わりに人の劇団の台本も読んできたけど、他に見ないほどのページ数だ。

当然、その劇団前方公演墳の舞台の映画化なのだから、通常の映画のシナリオの分量とは全然違う。
例えば、映画のシナリオのト書きに、「空、鳥が飛んでいる・・・風船がどこからか飛んでくる」と書かれている。
それだけで、映画は30秒~1分の映像をそこにあてこむことになる訳だ。
たったの1行が、分という単位になる可能性があるのが映画のシナリオなのだ。
そのことは、デビッドさんもおいらも十分にわかっていて、それを送れば、驚くだろうなとわかっていた。

準備の稽古とは、実はその驚くであろう反応にある程度の答えを用意しておきたいという意味でもあった。
止めながらのこうやって本読みをしていこうという稽古をしながら、実は事前に時間を計っていた。
その為の、時間を記録しておく通常タイムキーパーやスクリプターがやるような作業を出来るようにしておいた。
なぜ、稽古から時間を計るのかなぁ?と思っていたメンバーもいたかもしれない。
実は、あれも準備だった。

それがわかっていたのは、もう一つ理由がある。
デビッドさんが監督をした連続ドラマ「泣きめし今日子」の時も同じことが起きたからだ。
4分のドラマなのに、シナリオをスタッフさんに渡した時に、これは15分ですよ!と言われたらしい。
4分ドラマの通常のシナリオの4倍近い分量のシナリオを書いていたのだ。
もちろん、それも改訂はすれど大きな変更なくその分量のまま4分のドラマになっている。
今回もデビッドさんは、ちゃんと2時間以内の映画になると計算してある。
ただ単純なシナリオのページ数、シーン数の多さに、驚くだろうと思っていたのだ。

メールの返信が来た。
シナリオ初稿、拝受しました!という報告のメール。
その後、10分後、すぐにまたメール。
このシナリオ、ざっくり計算すると280分です・・・!!
というビックリマークが2つも入るメール。
最初のメールに返信できていなかったタイミングですぐに届いて。
ああ、やっぱり、そうなったか・・・と。

しかし・・・。
280分って・・・。
4時間40分。
ベン・ハー越えてます。
超大作です・・・。

もちろん、ちゃんと、説明しました。
すでに、ざっくりではあるけれども、尺は出してあって、2時間以内で計算していること。
計った尺をすぐに送付できること。
念の為にト書きなどが細かく記載されていること。
来週の本読みでは、恐らく、編集後の尺が見えるぐらいの本読みになること。
そういうことなら、本読みを楽しみにしてますとの返事・・・。
とりあえず、今週の本読みにちゃんとしたものを見せることが出来れば・・・。

想定していたことではあるのですけれど。
なんというか、少しだけ、実は、それを見てテンションが上がったのです。
だってさ。
もう数十本という映画に関わってきた人が驚くようなシナリオだったってこと。
つまり、こんな分量のシナリオは見たことがないっていうことなのだから。
それは、逆に言えば今までないってことだし、もうその時点でスタイルだよって思ったんだな。
通常の映画の倍以上の情報量が詰め込まれた映画になるって事だから。

すぐにデビッドさんにもやっぱり驚いていた旨を連絡して、そのまま何度かやり取り。

今。実は日本の文化は全てテンポアップしている。
それは、テレビ文化の進歩であったり、或いはネット文化の進歩があるからなんだけれど。
ご存知のように9秒の映像をTwitterでアップするなんて言うのが流行したりしている。
Youtubeも、気楽にスマホで見られる映像は3分が一番アクセスが増えると言われていたりする。
例えばお笑いだと、バラエティでもネタ番組はネタの持ち時間を2~5分までになってる。
ネタ番組じゃなくても、どんどん文字のテロップを出して、映像のテンポを上げることで、情報量を増やしている。
たけしさんは、ツービートでそれまでの漫才の4倍ぐらいの分量の漫才をハイテンポでやってブレイクしたんだけれど。
そのたけしさんが、今の漫才はどんどん早くなっていて、ちょっと信じられないスピードになってるって言ってるぐらいだ。
そして、それをちゃんと進化と捉えていて、絶賛している。
小劇場でも、10年以上前から2時間を超える舞台はどんどん減っている。
お客様が2時間も耐えられなくなってきているから、90分ぐらいの上演時間の作品が主流になりつつある。
時間の観念は、実はどんどん変わってきているのだ。
音楽のPVを撮影しているクリエイターが時々映像の世界で、注目されるのはその時間感覚にあると思う。
4分の楽曲のPVを数十カットで構成していくのだから、ものすごいテンポの中で生きていることになる。

つまり、現代日本人の時間感覚は既に、過去の時間感覚から大きく変容しているという事だ。
実際、今のおいらが映画館で1分間、風景や空を見せられたら、少しかったるく感じてしまうかもしれない。
大人計画の松尾スズキさんが、現代は1分に1回は笑いがないと台本にならないと弟子の宮藤官九郎さんに伝えたのは有名だけど。
それは、嘘でも何でもなくて、それだけ進化していることなんだって、おいらは捉えている。
テンポが速くて次々に新しいことが起きるのは、行間や余韻がないなんて言う人もいる。
けれど、それはちょっと違くて、早いテンポであれば、1秒でも2拍でも、それまで使えなかった間の効果を使えることになる。
長い間ももちろん使えるから、むしろ、行間や余韻をより多彩に演出することが出来るのがテンポアップなのだと思う。
それは、現代のテレビ番組でもなんでも見ていればわかる。
飽きない、笑える、泣ける、様々な番組があるけれど、確実に20年前よりも心が動くようにできている。

おいらは、それは日本人のみの時間感覚なのかなぁと思っていたのだけれど。
デビッドさんが、ハリウッド映画のタイトルを出して。
ああ、そうじゃないか。ハリウッド映画のテンポも、すごい上がっているなぁと気付いた。
確かに昔の映画を観ると、少しかったるく感じてしまう自分がいるのは。
作品が変わったのじゃなくて、おいらの時間感覚が変わっているからなんだと。
過去に見た時はそんなことは感じなかったのだから、当時の自分の時間感覚ではベストだったはずだ。
考えてみれば9秒のネット動画もアメリカ発信である。
テンポが上がっているのは、恐らく世界共通の事なのだ。
「セブンガールズの映画を観たら、他の映画をかったるく感じてしまうかもですよ」とデビさんに送ったら。
ハリウッドのあの映画なら、それはないっていう返信が来て。
ああ、そうかそうかと、納得した。
そして、恐らく、デビッドさんの体感として、現代の時間感覚が、あるということだ。これは。

もちろん、まだまだシナリオは改訂もしていくことと思う。
とは言え、大きく分量が変わるとは思えない。
そして、この分量の映像を2時間に凝縮する。
それは、今までの映画でも珍しいスタイルになる。
・・・いやそうじゃないか。

劇団前方公演墳のスタイルをそのまま映画に持っていくことになるだけか。

そうなんだ。
そうなんだ。
それがやりたかったんだ、おいらは。
それが実現できると信じていたんだ!!

2時間を超える舞台をいつもやっていて。
こんな長い時間に感じませんでした!という感想を何度も耳にする。
それを、もし映画でもやれたら。
2時間近い映画を観て、あっという間だったと、もし耳にすることが出来たら。
それは、一つの到達点なのではないだろうか。

そういう作品を目指せばいい。
それが答えだ。
そして、それが支援してくださった皆様の思いにも繋がっていると、おいらは信じているのだ。
posted by セブンガールズ映画化実行委員長 at 02:50| Comment(0) | 映画製作への道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする