いつもの候補地1に向かう坂道を歩いていたら、少しいつもと違う匂いがしてきた。
香ばしい、焚火の匂い。
どこかの農家で、火を焚いているのだろうか?
子供の頃にも嗅いだことのある、落ち葉焚きの懐かしい匂いだった。
その時点で、予感がしていた。
いる。きっと、何故か今まで会えなかった庭師さんに会える。そう感じていた。
そこにトラックと、庭師さんがいた。
やっと・・・やっと会えた。
これで、候補地1の土地の中の方全員にコンタクトが撮れた。
庭師さんは、この土地を一番長く借りてらっしゃる方だ。
雑草を刈ったり、ごみを燃やしたり。
この土地のど真ん中で、仕事をしていらっしゃった。
もうご高齢だ。
にもかかわらず、とても見た目が若い。
それは背筋がしゃきっと伸びていて、口を一文字に閉じていらっしゃるその雰囲気でだろう。
なんと、今日は、余った資材で竹ぼうきを自分で製作していたのだという。
概要をお伝えすると、大家さんから既に話は聞いていて、どんな協力が必要なのかと聞かれた。
ここで撮影したい旨、もし良かったら、色々とお借りするかもしれないコト、その他もろもろご説明する。
とても元気に、溌剌と話を聞いてくださる。
そして、どんどん動く。
土地の中の小さなスペースまでどんどん進んでいって、色々と教えてくれる。
なんと、ほんの小さなスペースに、バジルとパクチーを植えるのだそうだ。
今は、苗床をつくっている。
季節になると収穫して、バジルソースなどを作るのだそうだ。
楽しいよ。と言う。
撮影の頃には収穫後だなぁなんて笑ってた。バジルソース、食べてみたいなぁ。
もう、庭師の仕事はほとんど隠居だからしていなくて、モノを作ったりして、時々仕事をしているそうだ。
雑草を指さして、これなんだかわかる?なんて聞かれる。
真っ白い花が、満開状態で咲いているけれどただの雑草にしか見えなかったその葉をつまんでおいらに手渡す。
葉をもんで匂いを嗅ぐと、胡麻のような香りが立つ。
ルッコラが、そこに咲いているなんて、まったく気づかなかった。
庭師さんの作成した、売っているものに比べて格段に軽い竹ぼうきで軽く履きながら。
お話をさせていただいた。
作業場に置いてある古い木の椅子も、もし使うなら、どうぞなんて言ってくださる。
楽しんでいる。
その言葉を何度も使われる。
植物を植えたり、箒を創ったり、人の頼まれごとをしたり。
その全てを楽しんでいるのがとてもよく伝わる。
面白いよ、楽しいよ、と自分で創って、自分で食べることを説明してくれる。
良く見れば、鍬などの道具の柄も、自分で直している。
隠居するわけではなくて、趣味のガーデニングを越えて、人生を楽しんでいる。
よほど変なことをするのでなければいいよと言ってくれる。
こんなふうに突然の来訪者が現れても構えるわけでもなく、楽しんでいることがすぐにわかる。
この土地をお借りされている方々の中で一番のご高齢。
にもかかわらず、木に登り、チェーンソーで伐採すらするらしい。
帰り際に、連絡先伝えようか?と携帯電話を取り出す。
ガラケーを不慣れに操作して、電話番号を表示させる。
一回、こっちにも電話して。なんかあったら、連絡するからなんて言う。
もちろんだ。
おいらに出来ることがあれば、なんでもやりますからいつでも!と伝える。
帰りの坂道。
まだ焚火の匂いがそこらじゅうを漂ってた。
おいらの口の中には、ルッコラの後味が残ってた。