「たまたま」「偶然」
何かを成し遂げるとき、そういう事が起きる。
それは運としか言いようがないことなのだけれど。
何かをやる時に大きく運が左右するのは誰だって知っていると思う。
今回の「セブンガールズ」では、次々にそういう幸運が廻ってきている。
風が吹いているなぁとつくづく思うのだけれども。
クラウドファンディングの感動的な達成。
ロケ候補地が早い段階で見つかったこと。
他にも、いくつもいくつもの幸運が重なっている。
まるで、誰かが、映画を撮影しなさいと言っているような。
そんな運命的な何かを感じると何度も書いた。
何度も書ける時点で、ちょっと、すごいんじゃないかって思うのだけれども。
またしても、そんな、幸運が廻ってきた。
当時のパンパン小屋や、バラック街を再現するのはとても大変な事だ。
そう見える場所が必要で、そう見える建物が必要だ。
その上、今回は、室内のシーンもある。
それを、更に低予算で実現するという事がどれだけ大変な事か。
幸い、大量の廃材をこれまた幸運なことに手に入れることが出来て、更に幸運なことに置いておく場所が見つかった。
そこまで行けば、美術の材料費を大きく大きく削減できるだけではなく、リアルになると書いたばかりだ。
それは、つい先週の事のはずだ。
けれど、パネルや、トタン、場所だけでは、美術は完成しない。
舞台のセットなんかを見ていてもわかると思うけれど。
「建具」と呼ばれている物や、その他のものは、創るよりも本物を手に入れたほうが早いしリアルになる。
セブンガールズで言えば、その引き戸であったり、パンパン小屋の前にある椅子であったり、入口の向こうの障子であったりだ。
パネルで建物を組み立てて、本物の扉や椅子を配置していく。
そして、それが、時代感を生み出して、リアルなセットになっていく。
所謂、装飾という奴で、これが、むしろ美術の肝だったりする。
ドラマでも映画でもテロップを見るとわかるけれど、大抵「高津小道具」という会社がスタッフロールで流れる。
日本で最大の小道具レンタル会社で、ありとあらゆる装飾品を借りることが出来る。
もちろん、ここも有料だ。
いつもの舞台では、美術の杉本さんのスタッフが、高津でのピックアップをして、それを杉本さんが活用して美術を完成させる。
今回は、室内セットもあり、舞台よりも必要量が増えるし、予算が限られているから、装飾担当を創って欲しいと頼まれていた。
どこでどんな装飾が必要か、時代感が出るのか、そして、予算内でどこまで借りることが出来るのか。
専属で担当者がいると、杉本さんのスタッフが動きやすくなるという事だった。
おいらは、この装飾レンタルもなんとかしなくちゃなぁと思っていた。
装飾小道具担当を日曜に決めたばかりのタイミングだったから、思い切って頼んでみる。
実は、ここ数か月で廃業した老舗の旅館が関東近郊で数軒あることを調べてあったからだ。
旅館は清潔にしているし、布団などの寝具なども、数多く備えてある。
廃業となれば、大量に廃棄物が出るんじゃないか。もしかしたら少しは貰えるんじゃないか。
うっすら、そんな風に思っていた。
おいら自身が余りにも色々なところに連絡をしているから、折角決まった担当に、今回は連絡をお願いしてみたのだ。
廃業しているから電話も通じないかもしれないけれど、ダメもとで一応、この廃業する旅館全部連絡してみてくださいなと。
一発ツモだった。
あのロケ地を見つけた時同様に声が出た。
連絡した老舗旅館のうちの一つが、快く、引き取りの了承をしてくださったのだ。
それも、明治から続く100年以上の歴史を持った旅館だ・・・。
時代物のこめびつなんかもあるという。
鏡台などもあるという。食器類まで揃っているそうだ。
寝具も10組以上、もらってくださいと言ってくださる。
どれも、それがそこにあるだけで、時代感を出してくれる一品のはずだ。
すぐに、監督のデビッド氏と美術監督の杉本さんに速報を出す。
2人に、これが手に入るといいというものがあれば教えてくださいと。
レンタル品を減らす予算削減だけではなくて、プラスになるものもあるかもしれない。
デビッドさんは、いわゆるパンパンらしい一品だけをあげる。
杉本さんは、さすがにフスマとか障子とかの建具を内見してきてほしいと連絡が入る。
もちろん、建具まで頂けるかはまだわからないのだけれど。
取り壊しが数か月後だから、それまでに必要がなければ、頂けるかもしれない。
レンタルではなく、頂けることが、どれだけ大きなメリットがあるか。
極論を言えば、頂いたものは壊してもいいのだ。
アクションで、人が吹っ飛んで、障子戸が壊れるなんていうことだって出来るという事だ。
部屋の数だけふすまを頂ければ、その分、レンタル費用が安くなり、しかもリアルになる。
それも、全て、100年以上の時代ものだ。
こんな偶然あるだろうか?
100年以上の歴史を持つ旅館が、「たまたま」最近廃業したっていうだけでミラクルだ。
丁度、そこの営業停止と取り壊しの間の期間で、少し遅れていたらもう頂けなかった。
それも引き取りまでOKをくれるなんて・・・。
「偶然」というには出来すぎている偶然じゃないか。
数か所連絡してそこだけだったように、ダメで元々で連絡してもらったのだ。
ダメだろうなぁという予測の元、それでも挑戦してみただけなのだ。
それが、こんなにもあっさりと、頂けるそうですと連絡が来たから、驚いた。
今日まで、色々なところに連絡して、何度も驚いてきたけれど、これは最大級に近い驚きだった。
それに、廃材を置かしてもらえる場所がみつかっているから、保管も出来るだろう。
近日中に内見に行く。
写真を撮影して、杉本さんにピックアップしていただかないといけない。
そこに足を踏み入れるだけでも、感動してしまうかもしれない。
それにしても。
きっと、この映画に映る。
40年近く芸術を生み出し続けてきた場所で。
100年以上も使い込まれてきた道具で。
そんなの映像で見てもわからない?
わからないだろうけれど。
でも、それは、空気感として、絶対に映ると思う。
これ以上ない説得力として、そこに。
アイデアと行動力と情熱。
絶対に不可能な事なんかないのだと、やっぱり思った。
大きな大きな前進だ。
頂いた物はリスト化されて、杉本さんに写真添付の上で送られる。
それを見て、更に、美術プランが完成していく。
生み出されるパンパン小屋がどんな姿になるのか。
想像するだけで震える。
場が整えば、パンパンたちの芝居も、乗っていくのは明らかだ。
それは、舞台で何度も経験している。
音楽が流れたり、セットの中に立った瞬間に、芝居が変わるのだ。
その為だったら、なんだってする。
しぼりだせ、脳汁。
まだまだ、何か思い浮かぶはずだ。
おいらの経験は、こんなものじゃないさ。
大抵は外れくじでも、たまには一発でツモるんだ。
そして、それがまた一歩、前に進めてくれるんだから。
たまたまかな?
偶然かな?
そんなに簡単な事とは思えない。